豪亜地域の物語

第4章 デンソー・フィリピンの歴史

デンソーのビジョンはシンプルである。デンソー・フィリピン・グループとして一丸となり、顧客と海外グループ企業にとってナンバーワンのビジネスパートナー、そしてナンバーワンの自動車部品サプライヤーになることだ。
デンソー・フィリピン・グループは、エアコンや運転認識システムから自動車用アクセサリーまで、高品質かつ安全で多様な製品とサービスを提供することで、世界をより良い場所にするという使命に忠実であり続けてきた。この取り組みは、自らの事業活動が、社員、地域社会、そして環境に永続的な影響をもたらすという、グループの認識と結びついている。そのためフィリピンデンソーは、企業と人、技術と環境の間に、健全で持続可能な架け橋を築こうと努めている。これがデンソーWAYである。

TNPH(富士通テン)工場
TNPH(富士通テン)工場

富士通テンフィリピン(富士通テン)を前身とするデンソーテンフィリピン(TNPH)は、1991年にカーオーディオの生産を開始し、1995年までに国内での製品販売を始めた。1年足らずでISO9002認証を取得している。

DNPH(PAC)工場
DNPH(PAC)工場
DNPHの最初のPAC製品:メーター
DNPHの最初のPAC製品:メーター

1995年3月には、以前はフィリピン・オートコンポーネンツ(PAC)と呼ばれたデンソー・フィリピン(DNPH)が設立されて営業活動をスタートさせ、翌年にはメータークラスターの各種モデルとエアコンの製造業務を開始している。

JAPI工場
JAPI工場

また、同年の10月に設立されたジェコーオートパーツフィリピン(JAPI)は、国を代表する自動車用時計メーカーとなった。
1998年には、東アジアと東南アジアで多くの国々が通貨危機による困難に直面したが、フィリピンも例外ではなかった。多くの企業と同様に、DNPHもこの景気後退の影響を受けた。しかし不撓不屈の精神に支えられたDNPHは、社員を一時解雇することなく、別の道を選んだ。人財への投資をさらに充実させ、社員を再教育してそのスキルアップを図ったのだ。同時に、国際的な基準に対応する取り組みの一環として、さらなる業務改善にも尽力した。この年にISO14001認証も取得し、同様にASEAN産業協力(AICO)の認証も受けている。

DNPH(PAC)設計室ロビー
DNPH(PAC)設計室ロビー

国際市場と現地市場における需要と課題の増加を受けて、DNPHは1998年10月に設計室を開設した。設計室は主要構成部品の設計技術者で構成され、製品の図面や設計に関して日本と直接連絡を取り合う。その目的は、品質、正確性、迅速な納品の点で顧客のニーズと満足を満たす設計と図面を提供することである。

富士通テンソリューションズフィリピンの受付
富士通テンソリューションズフィリピンの受付

富士通テンソリューションズフィリピン(FTSP)を前身とするデンソーテンソリューションズフィリピン(TNSP)は1999年に設立され、電子制御、オーディオ、マルチメディア製品といった車載機器の組み込みソフトウェアやシミュレーションツールの開発をスタートさせた。

なお1999年にはTNPHがISO/QS9000認証も取得し、JAPIがISO9001認証を受けている。

極めて堅調な状態で21世紀を迎えたフィリピンデンソーグループは、増産や競合メーカーとの市場における差別化の拡大に向けた多くの開発計画を抱えていた。

2002年、DNPHは国内でのフューエルポンプモジュールの生産(すなわち簡易型統合燃料制御システム)に正式にゴーサインを出した。ISO/QS9000認証もこのときに取得している。

2003年12月にはJAPIがISO14001の認証を受けた。同年、TNPHはエンジン制御コンピュータ(ECU)の生産を追加している。

2004年はさまざまな業績を残した年だった。まず、DNPHが「DENSO President Award of Honor(デンソー社長栄誉賞)」を受賞した。同年、TNPHは投資家表彰の日にフィリピン経済特区庁(PEZA)のブロンズ賞を受賞した。一方TNSPは能力成熟度モデル統合、すなわちCMMIの質の高い仕事に対する認証を受けた。これは工程改善とキャリア開発改善およびキャリア開発に対する企業の取り組みを評価する認証である。

DTPH設立
DTPH設立

2005年に入りデンソーテクノフィリピン(DTPH)が設立されると、メーターエンジン制御コンピュータ(ECU)の検査業務が直ちに始まった。
同年、TNSPは国内でCRAMAS機能開発を立ち上げた。CRAMASは、リアルタイムで制御システムをターゲットにできるユニークなシミュレーターである。
この年も、数々の素晴らしい成果と表彰に彩られた年となった。DNPHは前年に引き続き「デンソー社長栄誉賞」を受賞し、TNPHはISO(International Organization for Standardization、国際標準化機構)仕様であるTS16949の認証と、企業の効果的な環境マネジメントシステムの枠組みを示したISO14001 v2009を取得した。DTPHでは製品と業務のさらなる改善の余地を特定するために、2006年にエアコンとナビゲーション製品向けにECU検査を開始した。
DNPHとTNPHは2007年にISO/TS16949の認証を受けた。

DTPHから日本のデンソーテクノへの第1期研修生
DTPHから日本のデンソーテクノへの第1期研修生

一方、DTPHでは、一部の社員に対する日本での長期研修が始まった。社員育成プログラムの初年度には6人の参加者が、業界や業務工程について愛知県刈谷市の本社から直接学ぶ機会を与えられた。2007年にはパワートレイン事業の買収も行われ、トヨタ静的検査が開発された。

TNSPでは、2007年と2008年はデジタルTVテストの開始に費やされた。会社が新たな試みに追われる中、環境マネジメントシステム(EMS)の運用がなんとか開始された。他方ではTNPHが、2008年にOHSAS 18001を取得している。
2009年にはDTPHにさらに良いニュースが届く。メーター事業がCMMIレベル3であると認められたのだ。この評価は、会社が「定義された」レベルで機能しており、顧客に好ましい結果をもたらしていることを意味する。
2009年から2010年には、TNSPがゼネラルモーターズ社のプロジェクトとグローバルアダプティブバリューネットワークのためにヒューマンマシンインターフェース(HMI)の開発も開始した。
2011年に入り、DTPHは社内の事業と業務においていくつかの大きな変化があった。パシッグ市オルティガスで事業を拡大し、数カ月後には国内で薄膜トランジスタ(TFT)事業を正式に開始した。
TNSPも2011年から2012年に大規模な経営戦略を策定して、グローバル製造システム(GMS)を導入した。さらに、ACE-CDTコストハーフ開発、AUTOSAR(AUTomotive Open System ARchitecture)開発を開始し、HV Jissoモデルを国内で導入した。
2011年の初め、TNSPはディスプレイオーディオプラットフォームの開発を開始した。ISO/TS機能安全準拠企業としても認定された。
2012年の富士通テンは、さらに多くの特筆すべき賞を受けた。2012年の「Most Outstanding Business Establishment(最も優れた事業所)」にも認定され、エネルギー省からは「Energy Efficiency Award(エネルギー効率賞)」を授与されている。

2012年はDNPHの登記がPEZA(フィリピン経済特区庁)に移管された時期でもあり、その下でいくつかの財政的および非財政的インセンティブの恩恵を受けることができた。

2013年までにDTPHは新製品を追加し、エアバッグECU事業を開始した。同時にパワートレイン事業が、トヨタハンドコーディングと非トヨタDSLコーディングに拡大された。

2014年、DNPHはソナーセンサーの製造を開始した。一方でTNPHは「Child Labor Free Establishment(児童労働のない事業所)」に認定された。また、「Tripartite Certificate of Compliance with Labor Standards(TCCLS、労働基準遵守三者証明書)」も受賞した。これは労働雇用省(DOLE)地域事務所が登録事業所に対して発行する、優れた維持管理を示す第1レベルの印である。

2015年もフィリピンデンソーにとって重要な年となった。

DNPHはGM社との新規事業、PEPS(スマートキー)の部分組み立て生産を受注し、TNPHはOHSAS 18001認証を受けた。さらに労働基準遵守三者証明書を取得している。

JAPIはデンソー・ヨーロッパ向けの製品の生産を開始し、同時にTRP社向けの生産もスタートさせた。

DNPHが社名を変更
DNPHが社名を変更

DNPHは2016年に社名をフィリピン・オートコンポーネンツからデンソー・フィリピンに変更し、企業のアイデンティティーを大きく変えた。同年、JAPIはデンソー・トルコ向けの生産を開始した。
一方でTNPHはISO14001:2015認証を獲得し、「PEZA Outstanding Community Project Award(PEZA優秀地域社会プロジェクト賞)」を受賞した。

TNPHが社名を変更
TNPHが社名を変更

2017年には、デンソーが株式の過半数を取得したことで、TNSPは富士通テンソリューションズフィリピンからデンソーテンソリューションズフィリピン(TNSP)へと正式に社名を変更した。
同年、TNPHはIATF 16949:2016認証を受けた。

DTPHが(株)デンソーから表彰される
DTPHが(株)デンソーから表彰される

DTPHはパワートレインシステム部門の電子事業を拡大したことでデンソーから表彰され、非トヨタDSLの統合テスト事業を開始した。
2018年に入り、TNPHは ISO22301:2012の認証を取得した。一方でJAPIは中国のデンソー・インベストメント向けに生産を開始した。
2019年にはDNPHがエンジンECUのアウトソーシング事業を開始し(設計室)、ダイハツ向けのスマートキーの組み立てやA/Cパネル組み付けのための生産を開始した。
新型コロナウイルス感染症が世界的に流行し、フィリピンでも症例が発生すると、フィリピンデンソーグループは粘り強く、かつ柔軟に対応した。

DNPHが最前線で働く人たちにPPEを提供
DNPHが最前線で働く人たちにPPEを提供

DNPHは安全を確保し業務の継続を維持するために、社員が工場に寝泊まりできるように食事と宿泊設備を用意した。そして支援を地域社会へと拡大すべく、医療と行政の最前線で働く人たちのために特別な個人用保護具(PPE、フェイスシールド)を生産した。
TNSPは、事業を維持して社員を守り、業務の遂行を保証して労働力を守るために、現場での人員を最小限に抑えるとともに在宅勤務の体制を整えた。JAPI、TNPHもまた、顧客を支えるために事業活動を停止しなかった。
一方、DTPHは在宅勤務体制を導入することで、新型コロナウイルス感染症の世界的流行による行動制限に適応した。これに加えてグループでは、厳格でありながら効果的かつ効率的な保健プロトコルを遵守することで、社員とその家族の安全も確保した。

コミュニティー隔離から戻った社員をDTPHが歓迎
コミュニティー隔離から戻った社員をDTPHが歓迎

新型コロナウイルスの脅威がなくなると、デンソー・フィリピン・グループは直ちに通常の活動へ復帰しただけでなく、多様性による事業活動の強化にも取り組んだ。

デンソー・フィリピンのCSR:環境と地域社会への貢献

デンソー・フィリピン・グループは設立当初から、社会と自然にプラスの影響を与えるという目標を明確に掲げてきた。そのため、「環境」と「人」という二つの重要な要素に焦点を合わせた製品、システム、そしてキャンペーンを展開する上で、より良い世界に貢献するという使命がその指針となってきた。

デンソー・フィリピン・グループは、自らの活動が、深く永続的な影響を地球に及ぼす可能性があることを認識している。そのためデンソー・フィリピン・グループでは多くの時間と資源を投入し、自動車関連イノベーションと事業慣行を生み出して環境や社会への影響を最小限に抑えようと努めてきた。同じようにすべてのグループ企業が、よりクリーンで環境に優しいフィリピンを目指すキャンペーンと活動に取り組んでいる。これに加えて、人々に力を与えて意味のある根本的変革を生み出す一助になろうとも努めている。この試みは、地域社会の発展に焦点を合わせた数多くのプロジェクトを通じて行われている。

環境のための市民マラソン
環境のための市民マラソン
植林
植林
海岸の清掃
海岸の清掃

デンソー・フィリピン・グループは一貫して環境責任を果たしてきた。各社の環境保護キャンペーンは、ラグナ州サンタローザ・ラグーナのヌバリ、ケソン市のラ・メサ・エコパーク、リサール州アンティポロのハイナルーガン・タクタックといった、さまざまな生態学的共同体に貢献している。 政府との連携を含むその他の環境保護活動としては、環境のための市民マラソン、植林、パシッグ川の再生、ウミガメの保護、海岸と河川の清掃活動が挙げられる。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって、こうした環境への取り組みは一時的に中断された。それでも2022年に行動制限が緩和されると、キャンペーンが復活して活動が再開された。

デンソー・フィリピン・グループではキャンペーンとは別に、環境のための取り組みを日々の業務に組み込むように努めている。効率的な環境マネジメントシステムを保証するISO14001/ISO145001/ISO22301認証をすべての会社が取得したことが、その証しである。また各社において、エコ活動の一環として使用済み油と使用済み鉛蓄電池の有害廃棄物の提供が、そして倫理的生産に対する取り組みの一環として廃棄物と電子機器の有害廃棄物の提供が、それぞれ実施されている。

パートナーシップ
パートナーシップ
ブリガーダ・エスクエラ
ブリガーダ・エスクエラ
慈善団体
慈善団体
献血
献血
医療および歯科派遣
医療および歯科派遣

母なる地球を守るという目標とともに、デンソー・フィリピン・グループは博愛的責任を示すために、いろいろな地域社会奉仕プロジェクトを通じて善意を未来につなごうと努めている。それぞれの会社では、学校(ブリガーダ・エスクエラ<Brigada Eskwela>)や慈善団体(マリアの家<Bahay ni Maria>、カリタス・マニラ<Caritas Manila>、チルドレンズ・ジョイ・ファウンデーション<Children’s Joy Foundation>)への寄付、さらには災害(洪水、地震、火山噴火)時の生活必需品の寄付など、地元となる地域社会に直接貢献する独自の活動を進めている。デンソー・フィリピン・グループは地域社会の健康プログラムを支援するために、定期的な献血、医療および歯科派遣、給食プログラムも実施している。同様に、新型コロナウイルス感染症による困難な時期には、PH DNグループは飲料水、フェイスシールド、防護服を医療機関と行政機関に寄付することで支援をスタートさせた。

交通安全の啓発
交通安全の啓発

さらに、学生のための安全啓発、交通安全教育、防災、災害リスク管理セミナーなどを実施して、教育を通じて地域社会と市民の力を育む取り組みにも力を尽くしている。

フィリピンデンソーのCSR:植林
フィリピンデンソーのCSR:植林
フィリピンデンソーのCSR:DIYソーラーライト 作成と寄付
フィリピンデンソーのCSR:DIYソーラーライト 作成と寄付

各社の「企業の社会的責任(CSR)」プログラムとは別に、デンソー・フィリピン・グループが集まり、社会と環境により大きなインパクトを与えるためのCSR共同プロジェクトを推進することも決定された。2022年2月にはその第一歩として、バタンガス州カラタガンにおいてDNPHとTNPHが最初の共同活動である「マングローブ植林」を立ち上げている。2022年3月にはグループが一丸となり、サン・パブロ市のマラバンバン・ウォーターシェドを保全するための「植林活動」を実施した。これに続いて2023年3月には大規模な共同プロジェクトが実施された。再生可能エネルギーを活用し、電気を使用できない地域に自作(DIY)のソーラーライトが贈られた。直近では2023年6月に、DTPH、DNPH、TNPHが植林活動を行っている。

DNPHがPEZAから地域社会殿堂賞を受賞
DNPHがPEZAから地域社会殿堂賞を受賞
TNSPがPEZAから「PEZA優秀新型コロナウイルス感染症対応賞」を受賞
TNSPがPEZAから「PEZA優秀新型コロナウイルス感染症対応賞」を受賞
TNPHがPEZAから「殿堂」賞を受賞
TNPHがPEZAから「殿堂」賞を受賞
デンソー社長ケア賞
デンソー社長ケア賞

環境と社会を守るデンソー・フィリピン・グループの積極的な貢献と尽力に対して、関係各社は数え切れないほど多くの賞と感謝の言葉を受け取った。フィリピン政府(フィリピン経済特区庁、PEZA)はグループの尽力を評価した。DNPHは2018年と2019年に「PEZA優秀地域社会プロジェクト賞」を受賞した。これにより、DNPHは2021年に「PEZA Community Hall of Fame Award(PEZA地域社会殿堂賞)」を受賞している。TNPHは、2013年と2020年に「PEZA Outstanding Environmental Performance Awards(PEZA優秀環境パフォーマンス賞)」、2021年に「PEZA Environment Hall of Fame Award(PEZA環境殿堂賞)」を受賞した。さらにTNPHは2016年と2019年に「優秀地域社会プロジェクト賞」を、2022年に「PEZA地域社会殿堂賞」を受賞している。TNSPも2021年に「Outstanding COVID-19 Response Award(優秀新型コロナウイルス感染症対応賞)」を受賞した。政府からの表彰以外にも、DNPHが2018年に日本のデンソーから「DENSO President Award of CARE(デンソー社長ケア賞)」を贈られたことは、大変名誉なことだった。