第3章 躍進(2018年~)

4. 電装(杭州)有限公司(DMHZ)の設立

電装(杭州)有限公司は株式会社電装(日本)と電装(中国)投資有限公司の共同出資会社で、浙江省杭州市銭塘区江東三路7277号に位置する。会社設立は2011年5月、投資総額9030万ドル、敷地面積9万㎡、建築面積約4万㎡、在籍社員数650人。

主にミドルレンジ・ハイエンドモデルの自動車向け小型モーター及びワイパーシステムを生産し、年産は約2500万台。主要顧客はトヨタ、ホンダ、キャデラック、ジャガーランドローバー、紅旗(ホンチー)などあり、地元銭塘区にあるフォード、広州汽車にも製品を供給している。

1. 会社設立―縁のある浙江省杭州で

十数年前、当時はまだ株式会社デンソーの子会社であったアスモ株式会社が、グループの成長戦略に基づき、華東地域の市場を中心に中国全土にも対応できる子会社を設立するため、中国視察を行った。その際は、ちょうど浙江省と静岡県(アスモ(株)の所在地)友好提携30周年(2012年)を迎える時期で、双方政府が両国の企業を帯同し、相互訪問・交流することが盛んに行われていた。その中で、当時の浙江省省長夏宝龙氏、中国共産党杭州市委員会書記黄坤明氏及び蕭山開発区の周主任御一行に、日本アスモへ訪問頂いた。その交流を機に、「天の時・地の利・人の和」が揃ったことで、阿斯莫(杭州蕭山)微電機有限公司(AHX)が誕生した。

地に足をつけて着実に成長

浙江省杭州市の重点導入プロジェクトとして、AHXは政府各部門の注目を集め、ワンストップ承認や専門担当者設置による効率的な連携・推進など多大なる支援を頂いた。これにより、会社成立から用地取得・工場建設・設備導入・操業開始まで、僅か15か月で実現する事が出来た。これは杭州市における会社設立から量産までのスピード立上げの先駆け事例となった。

2012年8月にはAHX最初の製品「EPS(パワーステアリングモーター)」がラインオフし、13年には売上高が2億元を突破した。全社員が一丸となり総智・総力で顧客のニーズに応えるQCDS生産経営活動を推進しながら、新しい事業に向けて積極的に準備し、「明るく・楽しく・積極的」な企業風土を作り上げた。

2018年杭州市大江東産業集積区(現銭塘区)より「工業企業TOP50」を授与
2018年杭州市大江東産業集積区(現銭塘区)より「工業企業TOP50」を授与

14年から18年までに、ABS(アンチロックブレーキシステムモーター)、TC30(スロットルモーター)、SF改(パワーシート用モーター)、ARM(ワイパーアーム)が順次に導入され、量産開始した。また、多種類部品加工(プレス、ダイカスト、アルマイト、塗装、型制作)を集めた高度の現地化を実現し、部品加工から半製品組み付け、完成品組み立てまで一貫した生産物流体制を強みとし、製品の付加価値を大幅に増加させた。会社設立から5年間で、会社の経営体制や製造基盤を着実に固め、生産量は1千万台を突破し、売上高は7.5億元、利益率は2桁を達成した。人材育成と職場活性化の面では、16年と17年の2年連続でオールアスモ ACTIVE QCサークル大会で金賞受賞、さらに17年はデンソーグループ ACTIVE MTG全社発表大会で金賞受賞した。18年には「杭州市劳动关系和谐单位(労使関係の調和が取れた企業)」、「杭州市工人先鋒号」の称号を授与された。また、杭州市大江東産業集積区(現銭塘区)より「工業企業TOP50」も授与された。

2. 阿斯莫(杭州蕭山)微電機有限公司が電装(杭州)有限公司(DMHZ)に社名変更
「変化を受け入れ、更なる成長加速」

電動化や自動運転のシステムを構成するモーターの性能と信頼性を一層向上させるため、2018年に親会社であるアスモ株式会社が株式会社デンソーに事業統合された。その戦略に従い、2019年に中国国内にある三つのアスモ子会社は電装子会社に変更となり、同年10月阿斯莫(杭州蕭山)微電機有限公司(AHX)の社名が電装(杭州)有限公司(以下、DMHZ)に変更され、盛大な社名変更祝典を行った。

新たな道程への新たなる旅立ち。品質、安全、収益体制などのデンソーシステムを全面的に深く融合させるという挑戦であり機会でもある。

事業部と中国地域の力強い支持の下に、更なる発展を図るため、DMHZは製品・生産ラインのモデルシフトとグレードアップに積極的に取り組んだ。2019年にDMHZ初の高自動化・高タクトのワイパーモーター生産ラインを無事に立ち上げた。同時期に、2期敷地の総合工場の企画・審議が始まり、一期工場のクリーン工場改造なども本格的に始動し、機電一体化ブラシレスモーターの時代を迎えた。

2020年1月、新型コロナウイルスによるパンデミックが発生し、社会生活のリズムも生産供給のリズムも乱されてしまった。その後の3年間、新型コロナの影響や半導体の供給不足問題などで部材調達リスクが高まり、顧客ニーズの変化も激しくなり、社内の生産・納入・社員の健康管理などは深刻な状況に直面した。

そんな厳しい状況にあっても、社員全員が「一致団結、難局を共に乗り越える」という信念を抱え、力を合わせて、自分自身の技能・技術力を磨き、レジリエンスを高めるとともに、働き方改革を積極的に推進。VR、TEAMSなどのリモートツールを駆使し、日本側および中国国内の関連会社と互いに連携・支援し合った。2020~2022年には、SJ66(ブロワーモーター)、SJ77(ファンモーター)、DDA1.5(2系統電動パワーステアリング(EPS)用モーター)などの機電一体化新製品及び高速かつ難易度の高い自動化生産ラインを無事に導入した。また、世界初の発明特許を有する電装新製品DDA2.0(2系統電動パワーステアリング<EPS>用モーター)は2023年に設備制作、2024年に量産を開始する予定。ラインだけではなく、2022年8月二期総合工場の順調竣工に伴い、物流では部品→組付ライン→倉庫の一貫したAGV自動化を実現した。これで、工場は設立初期の手作業労働集約型から自動化、AIスマート型に転換した。製品も従来の「モーター」からチップ付き基板で制御する「機電一体化モーター」にグレードアップされた。事業も単一のモータ事業部からシャシコン事業部など多事業部連携の複合型拠点に変化した。

「梅花の香りは酷寒から来たる」、すべての努力が実った。新製品の導入と市場開拓に伴い、全体的不景気の環境においても売上高が毎年15%~20%のペースで上がって、2018年売上2.3倍の17.6億元にも達成し、2023年の計画としては20億元を突破する。

DMHZの積極的なモデルシフトと高速成長は浙江省、杭州市、銭塘区政府機関から称賛を受け、2020年SGMより「リーンプロダクション賞」を授与された。会社貢献面では、杭州市「鯤鵬計画重点企業」、銭塘区「頭雁企業」を授与され、数年連続で杭州市「工人先鋒号」「模範集体」に認定された。防疫対策面では、「安康杯先進企業」を授与された。人材育成面では産官学連携を積極的に強化し、銭塘区「大学生実習モデル基地」「技能大師工作室(技能達人工房)」「国家技能認定センター」などの資格を取得した。日本人出向者を含め、杭州市ハイレベル人材D類に認定されたのは2人、E類は3人、高技能人材(高級工、技師、高級技師)は50人以上。

国が積極的に奨励・推進しているカーボンニュートラルやデジタル化について、グループの力を借りて、DMHZは「勇立潮頭」「開拓革新」の強みを生かし、2023年は「浙江省グリーン工場」と「浙江省デジタル化モデルプロジェクト」に認定され、また「杭州市スマート工場」プロジェクトも順調に立ち上げた。

2022年8月、DMHZは「稼働10周年」を迎え、「踔厉奋发正青春,笃行不怠向未来(元気に頑張っているDMHZはまだ若い、止まることなく未来へ)」をテーマとした一連のイベントを行った。(コロナ規制で、一部のイベントは2023年まで延期)

3. 「電装(杭州)有限公司稼働十周年」

2022年、電装(杭州)有限公司(旧阿斯莫(杭州蕭山)微電機有限公司、以下DMHZ)は稼働十周年を迎え、会社発展の新たな道程に旅立った。この十年間で全従業員がたゆまぬ努力して上げた成果を祝い、共に過ごしてきた年月を記念に一連の十周年イベントを企画・主催した。(新型コロナ規制の影響で一部のイベントを23年に延期して行った)

十周年記念祝典・動員大会では、市川総経理より挨拶し、DMHZ稼働十周年を祝うと同時に、これまでに頑張ってきた全従業員に心より感謝し、今後も会社の継続的発展に貢献するよう、皆を鼓舞した。大会では優れた職場や従業員を表彰し、まじめに業務に取り組んだ一人一人を認めることでモチベーションを向上させた。会社と共に歩いてきたことを思い出に残すため、今までの出向者を含め、全従業員に総経理署名入りの記念カードやデンソーロゴ入りの記念品を配布した。従業員は、会社からの暖かさを感じ、DMHZの一員である事を誇らしく思った。

23年6月モータ事業部堀HBUがご来訪頂いた際、DMHZ稼働十周年をともに祝うため、記念植樹を行いご祝辞を頂いた。13年の開業祝典で植えた杭州市の花「木犀」、19年の社名変更で植えた杭州市の木「楠木」に続けて、今回の十周年記念ではDMHZ「勇力潮头(先頭に立ってリードする)」の精神の象徴として、「桜前線」に象徴される「吉野桜」を植えた。滞在期間中、堀HBUには、DMHZ管理職とのダイヤローグなどで中国市場、杭州及びDMHZについての理解を深めて頂くと共に、ご自身のキャリアに基づいた感想も共有して頂いた。仕事に対してポジティブに考えて自ら実践する;部下に対して責任を持って育成する;外部環境に対してグローバル視点で変化を把握する、などの貴重なアドバイスを頂いた。そして、地域や自身の強みを生かし、ビジネスチャンスを探って、継続的に競争力を向上させるよう皆を鼓舞した。

2023年9月には、コロナの影響で中断していた社員旅行も復旧した。浙江省内の安吉、象山から丽江大理、甘肃青海、海南など、7つのコースを設けて実施した。美しい景色に癒されると同時に社員間の交流を深め、一体感醸成にも繋がった。

一連の十周年記念イベントがこれでひと段落ついたが、DMHZのストーリーはまだ続く。二十年、三十年、四十年...これからも全社員「先進、信頼、総智・総力」のデンソースピリットを抱え、ONE TEAMで我々DMHZの未来を描こう!

「先頭に立って、未来へ挑戦」

過去十年を振り返ってみると、様々な困難があったが、全体的には良い成果を収める事が出来た。ただし、今後の長期的・継続的発展の視点から見れば、危機と挑戦も存在している。電動化などに伴うEVの急上昇により、従来の自動車企業はまだモデルシフト中であり、市場全体の競争が激しくなっている。中国市場においては、地域完結、現地技術・技能強化及び変動対応力向上が課題となっている。DMHZについては、35年に向けて企業競争力の継続的向上、コア製品の販売拡大及び新事業・新製品の企画が会社存続のキーである。
23年、浙江省杭州市において盛大な「アジア競技大会」が開催され、この町の「青春活力、智能创新、热情开放(青春活力、知能革新、情熱開放)」というスローガンが世界的に印象付けられた。光栄の至りで、DMHZの従業員(杭州5月1日労働賞受賞者)がアジアパラ競技大会の聖火ランナーに選ばれた。
DMHZは「先進、信頼、総智・総力」のデンソースピリットを受け継ぎ、浙江省杭州市という立ち位置の強みを生かし、「DMHZらしさ」の企業文化を作り・伝承していき、人材、組織力、製品、技術などあらゆる面において企業競争力を高め、会社発展と社員の自己実現を両立させ、デンソーグループの継続的発展と中国自動車業界産業の高度化に貢献していく。