欧州地域の物語

第3章 成長に向けて

デンソーがロバート・ボッシュ社と技術提携契約を締結(1953年)
デンソーがロバート・ボッシュ社と技術提携契約を締結(1953年)

1980年代初め、デンソーのヨーロッパ部門はグループ内で他の地域に遅れをとっていた。要因は、中小規模のOEMが国ごとに存在する市場構造のために、足掛かりを得ることが困難だったこと、また、技術提携していたロバート・ボッシュ社とのライセンス契約による制約があったことであった。しかし1980年代終盤に迎える契約満了を機に、積極的に事業を拡大して欧州市場のキープレーヤーとなる決意をした。他地域に比べて生産量が少なく単独生産による事業性確保が難しかったため、デンソーとして初めての同業他社との協業・アライアンスを基本方針として検討を開始した。

製品ごとに協業先を検討する中、フランス ヴァレオ社と点火コイル事業の協業を行うことを決定し、スペインバルセロナ近郊に出資比率50:50の合弁会社の設立を決めた。これがデンソー欧州における最初の生産拠点(現DNBA)である。しかし、その道のりは順風満帆ではなかった。社屋完成後生産ラインを搬入する段階になって、ヴァレオ社が点火コイル事業からの撤退を決定し合弁契約解消を申し出てきた。デンソーは顧客への供給責任を果たすため点火コイル生産に向けた準備を継続しつつ、電子系製品の生産ラインを導入することを決め、複数事業の生産拠点としての歩みを始めた。これが現在のDNBAの強固なモノづくり力の礎になっている。

デンソー・オートモーティブ・イタリアとデンソー・サーマルシステムズ(イタリア)
デンソー・オートモーティブ・イタリアとデンソー・サーマルシステムズ(イタリア)
デンソー・マニュファクチュアリング・UK
デンソー・マニュファクチュアリング・UK

もう一つの同業他社との協業・アライアンスで大きな成果を上げたのが、サーマル事業でのイタリア マニエッティ・マレリ社(MM社)との協業である。1年間にわたる徹底的な議論・交渉を経て、両社は「この協業で欧州ナンバーワンの熱機器サプライヤーになる」という共通のビジョンにたどり着き、協業契約を締結した。この契約に基づき、デンソーはMMCL社に25%出資するとともに、イギリス シプリーのDNMNを買収、同国テルフォードにニッポンデンソー・マニュファクチュアリング(現DMUK)を設立した。

この提携関係は時とともにますます強化され、主要構成部品の設計から生産における協力へと発展した。MM社との10年間の協業契約の終了を前に、両社で徹底的な議論を行いMMCL社のデンソーによる買収を決定し、2001年にDNTSが誕生した。

欧州サーマル事業は、2000年以降も既存顧客および欧州新規顧客への売上拡大を果たし、それに伴いチェコ、トルコ、スペイン、ポーランド、ポルトガル、モロッコに次々と生産拠点を確立し欧州売上拡大に大きく貢献してきた。

デンソー・オートモーティブ・ドイツの営業・研究開発拠点
デンソー・オートモーティブ・ドイツの営業・研究開発拠点

初期段階からデンソー欧州の成長を支えたもう一つの大きな要因は、国ごとに存在する顧客の近くに営業・技術拠点を設置して顧客ニーズを深く理解し、顧客の期待を超える提案を提供し続けてきたことであった。1984年にドイツにオフィスを設立したのを皮切りに、イギリス(1984年)、フランス(1985年)、イタリア(1986年)、スウェーデン(1998年)、ベルギー(2000年)に次々と顧客に寄り添う拠点を開設した。これらと同時に顧客のパートナーとして技術開発を進めていくための拠点として、1993年にイギリス コヴェントリーに主にEMS試験と現地の技術的支援を担うエンジニアセンターを、1994年にドイツ ミュンヘン近郊にサーマル製品の開発に不可欠な大規模風洞施設を含むエンジニアリングセンターを、2005年には学会・産業界との連携で優位なドイツ アーヘンにディーゼルエンジン関係製品の設計・試験拠点としてのエンジニアリングセンターを設立した。こららは現在、デンソーの技術的な能力をいっそう高める重要な役割を果たしている。

DNBAの電子系製品やサーマルグループの熱関連製品に加え、欧州事業の拡大に貢献してきたのが、パワートレイン事業、特にディーゼル製品やオルタネータ・スタータの回転機事業であった。

デンソーはヨーロッパ市場にディーゼル噴射部品を供給するために、詳細な分析を経てハンガリーに生産拠点を設立することを決定した(1997年)。1年でハンガリーに新工場を建設するデンソー史上最速のプロジェクトは、デンソーにとって大きなチャレンジであった。初期にはいくつかの課題があったものの、継続的な改善に向けた広範な取り組みが行われた。その道のりはハンガリーのチーム内の協調にとどまらず、デンソー全体の同僚や、政治に携わる外部のステークホルダーの協力によって促進された。政治的ステークホルダーのサポートは、このベンチャー事業の初期において大きな役割を果たした。

回転機製品については、サーマル事業の協業で成功を遂げたMM社からの買収を軸に検討を進め、1999年にイタリア サンサルボの生産拠点を買収を決定しDMITを設立した。この拠点は回転機製品の生産ノウハウに強みを持ち、今後の電動化関連製品の生産拠点として期待されている。

ヨーロッパでの成長をけん引する新たな機会を求めたデンソーは、アフターマーケット事業にも注力した。
アフターマーケットセグメントにおいては、補給品を中心に新しい広範な顧客層に照準を合わせた。この中には販売代理店、卸売業者、ガレージ、OEカーディーラーが含まれていた。インダストリアルソリューションズセグメントでは、新たな3つの主要市場(フリート、ライフ&エネルギー、産業用ロボット)に進出し、その後この分野は大きく成長した。イタリア、フランス、スペインで事業を展開する市販製品サプライヤーのCTR社を買収して、ヨーロッパにおける市販事業をさらに拡大した。