第2章(1999~2010年)成長への意志が「優秀」と「最高」の差となる

2. 品質危機管理に妥協なし

(1) DNKIにおけるDOJOの始まり

品質感覚を養うための体系的アプローチの概要

品質に関して妥協は一切許されない。これが、2011年に大きな痛手を負った際のDNKI(デンソー・キルロスカ・インダストリーズ)上層部の信念だった。品質問題が発生した際には、デンソー流の手法に従って品質回復の取り組みを再開した。

DNKIがデンソーWAYを通じて品質を再実現するために品質問題への取り組みを開始

2009年、トヨタ自動車の大規模プロジェクトであるエティオスに対応するために、工場の拡張が開始された。 2010年12月に生産が始まったエティオスのおかげで、DNKIのインド市場における事業拡大への期待と士気が高まった。しかし喜びもつかの間、2011年9月と12月に新たに発売された車両に2件の大きな市場クレームが入った。

最初の市場クレームは2011年9月であった。サプライヤーによるチューブ被覆材の反転が原因となってエバポレーターとコンデンサーが早期腐食し、漏えいが発生した。さらにもうひとつ、電動ファンのねじの緩みの問題があった。
2度連続して車両の回収が必要な問題が生じたことで、DNKIは極めて難しい状況に追い込まれた。経営陣は、これがデンソーの「品質至上」主義のブランドイメージに対する大きな打撃になると認識していた。

根本原因の特定

根本原因を見つけるために経営陣が詳細な分析を行った結果、原因はデンソーの経営陣と話し合わずにサプライヤー側が行った材質変更、そして次に、品質チェックを行う人員の熟練不足であったことが特定された。

電動ファンの件は、エアドライバーを使用するためのセンシング技能が不足していたこと、そして製品の全機能を理解していなかったことが原因であった。技能訓練は行われていたものの、「DOJO(道場)」はなく、DNKIは70%の少人化で操業されていた。
DOJOがなかったために、人員の入れ替わりによって、訓練を受けている人員と受けていない人員が存在した。そこでDNKIは品質問題「ゼロ」を目指して本格的にDOJOを開始した。過去7年間にわたりベンガル―ルのトヨタグループ企業の中で最高クラスの成果をあげているDNKI DOJOは、DOJOを改善するための指標となっている。

さらにDNKIはサプライヤーの品質を向上させるためにそのシステムを研究し、持続的な努力を通じて深く浸透を図ることで品質規格を向上させた。現在は強固な品質管理システムによって顧客が満足する品質規格を管理しており、トヨタ・キルロスカ・モーター社、ホンダ、マルチ・スズキ・インディア社、BMW社などのほとんどの顧客から表彰を受けている。

短期間で成功をもたらしてくれたインドグループ会社、海外グループ会社、デンソー本社のメンバーの各部門の特別な貢献についても言及することが重要だ。ESC(Early-Stage Control、初期流動管理)も導入し、早めに問題を把握できるようにした。実際この取り組みによってトヨタ・キルロスカ・モーター社から「主体的サプライヤー」として表彰された。

ともに困難な時代に立ち向かう

問題は解決したものの顧客への無償交換が必要だったため、会社は財政危機という別の問題に直面した。財務損失の額は大きく、インド会社法に従ってDNKIは「不健全部門」であると発表されることになる。しかしデンソー本社の支援を受けて適切なタイミングで資本注入を受けたことが、大きな後押しとなった。

こうした困難にもかかわらず、DNKIはあきらめなかった。品質の向上に先手を打って取り組んだ。DOJOプログラムは、正しい方向へと向かう大きな一歩となった。品質に関して妥協は一切許されないことを会社は学んだ。一貫性のある研修に投資し、品質規格を強化することで回復したDNKIは主体的なサプライヤーとして再生し、顧客の信頼と称賛を得ることができた。

力強い未来への回帰
  • 2013年3月にDNKIが回復計画(Recovery Plan:RP)に着手
  • 2014年3月にタタ・モーターズ社が加わる
  • 2015年、DNKIが黒字転換 ― 回復計画達成
  • 2016年、顧客のBMWインディア社への最初の納入
  • 2022年、自動車ディーラーへの最初の納入(OES事業)