第3章 確立と安定

1. 可変容量コンプレッサーへのシステムアプローチ

カーメーカーへの供給に関して、デンソーにとって重要なのは一層の努力を惜しまないことだ。それは、高品質な部品や性能だけでなく、システム統合における専門家としても同様である。

その手法は極めてシンプルで、部品が期待通りの性能を発揮し、生産が滞りなく進むように、システムの知識を顧客とのやり取りに逐一織り込むのである。デンソーの外部制御可変容量コンプレッサー(EVDC)は、その好例である。

DNJPによって開発されたEVDCを、2005年に当時の業界標準であった固定容量コンプレッサーの低燃費オプションとして、DIAMの技術者がデトロイトのカーメーカーに紹介し始めた。

EVDCは、固定容量コンプレッサー(FDC)のオン/オフに比べて動作にメリットがあり、より効果的な冷媒サイクルを生み出すとともに、より予測可能なエンジンキャリブレーションを可能にして、燃料を節約する。

北米でデンソーが最初のEVDCを供給したのは、ダッジ・キャリバーのプログラムであった。2008年にはフォード社が人気のエクスプローラーブランド向けにデンソーのEVDCを採用し、その直後にはGM社が続いた。2012年までにEVDCは業界標準となった。

固定容量から可変容量へ

「お客様のために多くのテストを実施し、EVDCの検証を行っていました」と、2006年にデンソーに入社し、現在は営業部長を務めるブライアン・ケリー(Bryan Kelley)は説明する。「固定容量のコンプレッサーから常時オンのコンプレッサーへの切り替えは一大事です。そこで私たちはお客様のシステムと当社のコンプレッサーをテストし、テストの結果だけでなく、複雑なサーマルシステムの中で当社の製品を効果的に機能させるためのソリューションを提供しました」

デンソーのEVDC技術がなければ、北米のカーメーカーが政府の求める燃費基準を満たすことができなかったと考えると、これは極めて重要なことだった。

「私たちは北米のお客様に必要な技術を提供し、私たちが持つ車両全体の専門知識によって技術の活用をサポートしていました」と、デンソーの上級応用技術者であるクリス・レイニー(Chris Rainey)はいう。「新しい主要構成部品を紹介する際には品質と性能から話を始めますが、車両と環境とシステムにも目を向けてもらいます。これがデンソーのプロセスです。その後、検証計画を見直して何か見落としがないか確認することをお勧めしています」

「最後に、私たちは一歩下がってサーマルを総体的に考えてみて、その後、先進的な試験施設ですべてをテストします」と、ケリーは付け加える。

市場の拡大

DIAMが北米にEVDC技術を導入する以前、デンソーの市場シェアはわずかなものだった。EVDCが業界標準となった後、デンソーは50%を超えるまでに市場シェアを拡大した。

現在デンソーは、電気自動車ラインナップ向けに米国自動車メーカーが使用している革新的な電動コンプレッサーとともに、サーマルとシステムの専門知識を活用し、グリーン(環境経営)の理念を推し進めている。

「EVDCは北米におけるデンソーの成功の柱であり、年間売上は10億ドルを超えています」と、ケリーは語る。

実際、コンプレッサーはデンソーにとっての新しい市場と事業の扉を開いてきた。デトロイトのビッグスリーに最初に供給された製品の一つはコンプレッサーであった。ほかの熱機器がそれに続き、最後にはエアコンシステム全体へと至った。

20世紀の半ば以来、こうしたドアを開き続けてきたものは、品質、性能、技術の強力な組み合わせであり、そこに顧客第一主義を掲げるデンソーのエンジニアリングアプローチが相まって、あらゆる車両システムで期待を裏切らない製品性能が保証されてきたのである。