4. 人作り:良い時も悪い時もグローバルな焦点

デンソー・メキシコ(DNMX)社は、新しい社員の研修とメンター制度を大いに重視することで優れた労働力を成長させており、これはデンソーの文化の中で「ヒトづくり」(継続的な人財開発)としてよく知られている概念であると、デンソー・メキシコ社のアポダカ工場室長アナ・バルボサ(Ana Barbosa)はいう。
そして彼女自身、その概念がどのように機能するかのよい事例である。
バルボサはいう。「主要なプロジェクトの一つが『技能五輪国際大会』です。フルタイムのインターンシップに似ているこのプロジェクトでは、基本的な知識の学習とともに、新入社員に思いもよらない機会が提供されます。例えば日本やタイに行き、以前の技能五輪国際大会で金メダルを獲得した出場者から細かな指導を受けて、さらにスキルを磨くことができます。参加者はスキルの水準を証明するために世界と競い合い、帰ってきた時にはすっかり見違えています」
「私たちはこのようにして未来の人財に投資しています。90%を超えるリーダーが社内で育成されています。デンソーのおかげで『仕事』の見方だけでなく世界の見方にも良い影響があったという意見を、本人たちから聞いたこともあります。デンソーがいかに地元地域にリソースを投じることで良い影響を与えているか、彼らには分かっています」と、彼女はいう
専門職としてデンソーに入社した16年前、「20歳代前半でとても若く、この組織が好きなのか目の前のチャレンジが好きなのか、分かっていませんでした」と、彼女はいう。「しかし時がたつにつれ、デンソーの文化が好きになりました。今では、継続的な挑戦、論理、規律の価値を理解し、大切にしています。働き始めた当初、さまざまな日本人リーダーの皆さんが大変重んじていた価値観です」
「この期間、コーチングとメンタリングにたけたリーダーに恵まれ、ハイレベルマネジメントについて多くのことを教わりました。彼らの姿を見たり、決断や行動の背後にある論拠に耳を傾けたりして学びました。最も重要なことは、彼らが私に信頼の価値を教えてくれたことであり、それは今ではリーダーとしての私の中核を成す理念の一つです」と、バルボサは語る。
そうした種類のリーダーシップは彼女の心に訴えるものだった。そして長年にわたって不況や新型コロナウイルス感染症などのさまざまな課題にメキシコが直面した際にも、それがうまく機能したと彼女はいう。
「私は人事部のそばにいて、こうした危機的状況を乗り切ろうと努める社員の支援をしていました。メキシコでは会社を閉鎖したり社員を一時解雇したりする企業が一般的でしたが、デンソーは決してそうしませんでした。もちろん、空調の使用を止めたり不必要なコストを省いたりするなど、コストインパクトを補うためにさまざまな工夫をして対処しましたが、全員が必死に仕事を継続しようと努めました」と、彼女はいう。

新型コロナウイルス感染症の世界的流行の際にこの取り組みが功を奏したと、バルボサは語る。社員の幸福を優先するDNMXは、地域行政が閉鎖されている間も社員の給与を支払い、危機の後にその労働時間を埋め合わせたのだ。「デンソー経営陣の姿勢は明確でした。社員を守り、社員の安全を維持する必要があるということです。戻ってきた社員はそれに応え、自らの仕事に非常に熱心に打ち込ました」と、彼女は説明する。
社員に対する会社の姿勢こそエンパワーメントに他ならないと、彼女はいう。「その理由の一つとして、それによって社員が刺激を受け、安心して仕事をしながら、社会にもっと貢献しようと考えるようになることが挙げられます」
「それがデンソーWAYなのです」