第3章 確立と安定

6. コラボレート、コモナイズ、コンパクト:デンソーのCOA製品の歴史

デンソーは、2004年に初めてのPACE賞を受賞した。その受賞理由は、非常に高圧のソレノイド燃料噴射システム(または1800バーコモンレールシステム)であり、このシステムはエンジンの出力を向上させながら車両の排気ガス中の汚染物質を減少させるものだった。写真: ディーゼル噴射およびガソリン噴射生産部門のディレクターである徳田寛氏(左)が、デンソーを代表して賞を受け取った。このストーリーは、「ビジョン」第10巻第2号に掲載されている。
デンソーは、2004年に初めてのPACE賞を受賞した。その受賞理由は、非常に高圧のソレノイド燃料噴射システム(または1800バーコモンレールシステム)であり、このシステムはエンジンの出力を向上させながら車両の排気ガス中の汚染物質を減少させるものだった。写真: ディーゼル噴射およびガソリン噴射生産部門のディレクターである徳田寛氏(左)が、デンソーを代表して賞を受け取った。このストーリーは、「ビジョン」第10巻第2号に掲載されている。

2015年、デンソーは業界初の標準化されたエアコン主要構成部品に対して、『Automotive News』誌から念願の「PACE」賞を授与された。デンソーがこの名誉ある表彰を受けたのは十数年ぶり2度目のことだった。

デンソー社内では通称「COA」と呼ばれるこの軽量でコンパクトなエアコンは、各車種や仕様に合わせて設計・調整する必要があった従来のエアコン設計とは大きく異なるものだった。

COAの興味深い裏話は、その変わった頭文字から始まる。北米においてDNJP設計部品のアプリケーション開発を指揮したトム・ピアード(Tom Peard)が語る。

「COAの最初のアイデアは、デンソーの最先端技術を活用して、グローバルに自動化された量産設備向けの高度に『共通化された(COmmonized)』『コンパクトな(COmpact)』エアコンを開発するために、複数の関係者と専門家の『共同作業(COllaboration)』を求める、というものでした。これがCOAの名前の由来です」

2015年のデンソー・インターナショナル・アメリカのミシガン州サウスフィールドにあるCOA HVACチーム
2015年のデンソー・インターナショナル・アメリカのミシガン州サウスフィールドにあるCOA HVACチーム
2019年7月22日に、2番目のCOA HVAC生産ラインが稼働を開始した。このラインは、現地で初めて構築され、IoT接続を使用し、協働ロボットを取り入れたラインであった。
2019年7月22日に、2番目のCOA HVAC生産ラインが稼働を開始した。このラインは、現地で初めて構築され、IoT接続を使用し、協働ロボットを取り入れたラインであった。
設計の伸張

ピアードは製品の適応性を基本設計の「伸縮性」になぞらえた。これはつまり、顧客が小型車両で共通の基本設計を使用してそれを「伸張」すれば、大規模な製品開発を行わず、品質と製造のリスクも負わずに、大型車両向け製品においても、性能と機能の追加が可能になるということを意味する。

デンソーはCOAを適用するにあたって北米の顧客に対してシステムベースのアプローチを採用したが、この主要構成部品がPACE賞に値したのはそのためではない。
ピアードが理由として挙げるのは、デンソーのスライドドア技術、先進的な熱交換器、新しい機能部品の組み合わせに基づくCOAエアコンの世界的な訴求力である。これによってモジュールの大きさと容量の大幅な削減が可能となり、同時に性能の向上と騒音の低減が実現したのだ。 

DNJPからのCOA HVAC
DNJPからのCOA HVAC
卓越した研究開発

「COAはデンソーの研究開発の優れた一例でした」と、ピアードは語る。「DIAMでは常に設計の進化と最適化を続けていますが、開発から10年以上経った今でも多くの見積依頼への対応にこの手法を使っています」

重要なことは、北米市場におけるCOAの成功を支えているのが、デンソーの顧客へのエンジニアリング支援と、共通設計を北米の車両特有のニーズに適応させるスキルであることだ。

「COAで大変だったのは、業界をリードするデンソーの技術を用いた高度に共通化された設計を採用して、それを北米のお客様が熱狂的に受け入れて、取り込み、購入できる製品に仕立てることでした。 元の設計が持つ製造面と性能面の魅力を損なうことなくこれを遂行するのです」と、ピアードはいう。

適応のコツ

さらにピアードが「厳しい」エアコン市場と表現する環境の中で、デンソーの北米工場は、品質を犠牲にすることなくCOAの市場競争で勝てる製造とコストのシナリオを構築しようと力を尽くした。 

「焦点を絞ったクレバーな適応がCOAの成功の鍵であり、デンソーがどう動いたかの証でした」と、ピアードは回想する。

GM社担当チームに所属し、シグマ・プラットフォームのサーマルシステム業務を担当していたジェイソン・ヘンドリー(Jason Hendry)は、COAエアコンは重要な顧客との関係における次を担うものとしてふさわしいものだと付け加えた。

ペース(PACE)を上げて

「われわれはCOAの基本設計を終え、新たな賞への準備に入ったところでした。われわれは車両に求められる共同作業と統合を柔軟に行うことができました。まさにWin-Winの関係でした」
この最初の成功が2015年のPACE賞の受賞につながり、その他の共同作業をもたらし、独自のメリットを持つCOAエアコンはデンソーをさらに支えることとなり、はるかに大きな成功への道を切り拓いたのである。