3. しなやかな問題解決者 繁栄と苦境における柔軟な社員

デンソー・マニュファクチャリング・テネシーのインストゥルメント・クラスター部門のチームは、ビル201のほぼ全床を浸水させた水道管の破裂に対処するために、決して諦めずに懸命に働き続けた。
ヒトづくり:「最高の製品は最高の人材によって作られる」
創業から75年の歴史の中で、デンソーが人材に重きを置いてきたことは明らかである。社員こそが会社にとって最も大切な資産なのだ。
厳しい経済状況、世界的な金融情勢、サプライチェーンの混乱、危険な気象現象、事業環境の悪化、顧客の緊急事態が頻発した70年間を、デンソーは社員とともに乗り切ってきた。
デンソーの社員たちは会社が自分たちを支えてくれるとわかっているので、逆境の時には独創的な問題解決のアイデアと卓越した行動でそれに応え、会社を立て直す力となる。

地球規模の災害から「家庭における」一回限りの事件まで
デンソー・マニュファクチュアリング・テネシー(DENSO Manufacturing Tennessee、DMTN)社の生産管理担当次長であるトム・コール(Tom Cole)は、さまざまな経験を積んできたと自負していた。30年近くデンソーで働く間、担当部門を指導しながら、日本沿岸を襲った津波やフィリピンの洪水の影響、そして国を越えたさまざまな困難な状況に対処してきた。そのため2011年の土曜日の朝に近くの水道管が破損し、テネシー州メアリービルの201号棟が水浸しになった際に、社員たちがそれまで同様にデンソースピリットを発揮しても、驚きはしなかった。コールは、同僚たちが感動的なほど「総力を挙げて」問題解決にあたる姿を目撃した。
「到着して裏の荷物搬入口のドアを開けると、水が溢れ出してきました。社員たちが急いで同僚に救援を求めるメールを送りました。すぐに100人を超える社員が駆けつけて、手近なあらゆるものを使い、水を取り除く手伝いをしてくれました。箒、スキージ、何もかもです」と、彼はいう。「勤務の予定のない人に電話して来てくれるように頼んだわけではありません。それでも彼らはとにかく駆けつけてくれました。しかも週末に」
「土曜日の午後に100人を超える社員が私たちや会社の応援に来てくれたのです。その大規模な対応のおかげで、お客様に影響を与えることなく、迅速に工場を再稼働させることができました。素晴らしい形でチームワークが発揮されたのです」と、コールはいう。
新型コロナウイルス感染症:前例のない状況が新たな課題をもたらす
その後、2020年の初頭に新型コロナウイルス感染症の世界的流行が発生した。デンソーの社員もその影響を受けた。いつものようにメアリービルの社員は工場での組み立て準備を終えていたが、アメリカの沿岸では300基以上の部品のコンテナで「溢れた」のだ。
「米国の経済もお客様も機能を停止していました。社員たちは家に帰されました。すでに300基を超えるコンテナが海路で運ばれていることは分かっていました。それをどう処理するのでしょうか。恐ろしい時間でした。300基のコンテナには大量の部品が入っているのです」と、コールはいう。
「それまで誰も、そのような状況について考えたことがありませんでした。そんなことはそれまで一度も起きなかったからです。世界的には、国境が閉じて部品が手に入らなくなっていました。それに対して私たちは、大量の部品がこちらに向かっているという、逆の問題を抱えていました。まさに未知の領域です」
コールによると、DMTNで問題や危機が発生した場合、「私たちは団結し、一つのチームとして行動します。この時は、在庫を保管できる大きなレンタル倉庫を近隣の郡で急いで見つけました」。
「300基分のコンテナの部品を使うには長い時間を要しました。お客様が操業を停止し続けていたからです。しかし結果的に、迅速に状況を切り抜けた姿に感銘を受けたという言葉を、後にお客様からいただきました」と、彼はいう。
彼はまた、2008年から2009年にかけてのリーマンショックによる連鎖的な影響で、大手カーメーカーがデンソーへの受注を削減した際などに、厳しい状況下でも熟練した労働力を維持し続けたデンソー経営陣の姿勢を高く評価した。
「この時も、デンソーは誰ひとり解雇しませんでした。全員に給与が支払われました。造園をしたり、床を掃いたり、屋内や屋外でペンキを塗ったりしている社員の姿を見ました。技術者が縁石を黄色く塗りつぶしているのも見ました」
「デンソーは社員を支え、私たちが製造の現場に戻る日までずっと面倒を見てくれたのです」と、コールはいう。「私はこのことを誇らしく思います。このような誠実な会社で働くことができて幸せです」