第6章 課題への対応

7. COVID-19の間、呼吸を楽に安全にするためのデンソースピリットの活用

2020年の約25日間にわたり、デザイナー、製造エンジニア、製造作業員を含む何百人ものデンソーの従業員が協力して、フォードの電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)の部品を開発した。
2020年の約25日間にわたり、デザイナー、製造エンジニア、製造作業員を含む何百人ものデンソーの従業員が協力して、フォードの電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)の部品を開発した。

2020年3月、新型コロナウイルス感染症の流行の初期、パトリック・オブライエン(Patrick O’Brien)は、デンソー・インターナショナル・アメリカ(DIAM)社とフォード社との共同事業をサポートするために、デンソー・マニュファクチュアリング・ミシガン(DMMI)社の社員から人を集めることを名乗り出た。彼らの目的は、最前線の医療従事者が着用する救命用電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR:powered air purifying respirator)の設計、調達、製造を速やかに支援することだった。

その時点でHVACオペレーション担当次長のオブライエンは、その仕事に要することになる長い時間を予想できなかった。すでに全員が有給で帰宅させられていたために、進んで職場に戻ろうというチームを集めることの難しさについて考えていなかった。そして、彼のチームがその努力に対して賞を贈られることになるとは考えてもいなかった。

彼が考えていたのはただ、そうした呼吸用保護具が、他のエッセンシャルワーカーや彼の友人、同僚、家族を治療してくれる地域の医療従事者に、さらなる保護を提供できるということだった。

「恐ろしい時間でした。私たちは新型コロナウイルス感染症のことをよく知らず、社員は自らの安全と仕事に不安を抱えたまま家にいました」と、彼はいう。「デンソーでHVACの組み立て工程を担当していた社員に電話しました。手先が非常に器用で、優れた組み立てのスキルを持つ人たちです」

「人々の命を守る大きなプロジェクトに参加できるのだと伝えました。これまでに誰もやったことのない仕事ができるチャンスだと伝えました。すると全員がこの話に乗りました。参加を選んだのです」と、彼は静かにいった。

家の中にとどまり家族とともに身を隠して感染爆発の結末を待つ代わりに、社員たちはいつでも稼働可能な状態にあったDMMIの工場に向かった。チームは試作から3週間で量産を開始した。

「プロジェクトの終了近くには2交代制で動いていました。工程が1つ、ラインが2つあり、1つのシフトで25人ほどが働いていました。そのように全速力で進めました」と、彼はいう。約25日間にわたり、何百人ものデンソー社員が医療用の個人用保護具の速やかな量産化に取り組んだ。
「常軌を逸していました。感動的でした。彼らのために良い環境を整えました。楽しい音楽を流し、おいしいブラウニー(フィリング入り)付きのランチや、最高のピザのケータリングを用意しました。そして、懸命に仕事に取り組みました。それに大きな意義があることを、私たちはよく分かっていました」と、オブライエンはいう。

ブロワモーターを内蔵する呼吸用保護具ケースを他ならぬ彼のグループが組み立てて、時には工程を改良して部品が適切に密閉されるようにした。「それを完成品として組み立ててからフォード社に出荷しました。フォード社ではそれにホース、バッテリーパック、フードを取り付けます」と、彼はいう。

すべてのDMMI機能グループが協力して力を合わせた力強いサポートがなければ、このプロジェクトは不可能だっただろう。

オブライエンの職場のデスクには今、デンソーの呼吸用保護具プロジェクトチームのメンバーだった数百人の社員の集合写真が誇らしげに飾られている。

2020年、デンソー・マニュファクチャリング・ミシガン(DMMI)は、COVID-19と戦う最前線の労働者を支援するために呼吸器を開発・製造した。その結果、チームはプラスチック技術者協会から自動車イノベーション賞を受賞した。
2020年、デンソー・マニュファクチャリング・ミシガン(DMMI)は、COVID-19と戦う最前線の労働者を支援するために呼吸器を開発・製造した。その結果、チームはプラスチック技術者協会から自動車イノベーション賞を受賞した。

2021年11月にはフォード・モーター社とデンソーの合同チームが、プラスチック技術者協会(SPE:Society of Plastics Engineers)自動車部門から「自動車イノベーション賞(Automotive Innovation Award)」を受けた。SPEの自動車イノベーション賞プログラムは50年近くにわたり、この種のコンテストとして世界で最も権威ある最大規模のコンテストの一つである。

表彰式では、デンソーのエネルギー管理技術担当副社長であるセルジオ・プホルス(Sergio Pujols)が社員の努力をたたえ、「デンソースピリットを持つ彼らが、すべての人のためのより良い世界に貢献するという中核的目標の一つの実現を支えました」と語った。