トップメッセージ

デンソーらしさについて

今我々が生きるのは、過去に類を見ないほど変化が激しく、先行き不透明な時代である。このような時代を生き抜くには、デンソーのように歴史ある大企業こそ、変えるべきものと変えてはならないものを冷静に見極める必要がある。

自動車産業の大変革期の中、生まれ変わる覚悟で経営改革を進めなければならないという点で、75年前と今は重なる部分も多い。それゆえ、創業の精神である社是に立ち返ることが極めて重要であり、ここ数年は全社を挙げて原点回帰に取り組んできた。そして、社是とともに、先人たちのとてつもない覚悟や強い意志に思いを馳せると、改めて人の尊さに気づかされるのではないか。逆境でも決してブレない信念、仲間を信じて任せる勇気、何が何でも愚直にやり遂げる力。いつの時代も未来を切り拓いてきたのは、これらを体現し続けてきた人の力に他ならず、そこには常に人を中心としたドラマがあった。

一方、テクノロジーの進化は凄まじく、当時とは比べ物にならない勢いで高度化し、今や人の価値観まで変容させつつある。このままAIやデジタル化の波にのまれ、利便や効率ばかりを追い求めれば、テクノロジー中心の社会へと様変わりし、知らず知らずのうちに心の豊かさが失われ、感情が劣化してしまうことを大変危惧している。だからこそ、今一度先人の熱い想いや燃える心に触れ、人の尊さや人が持つ力の偉大さを学ぶ必要がある。

「らしさ」とは単なる特徴ではなく、強みであり、圧倒的な個性である。それを強み足らしめるために、先人は何を必死に守り抜き、何を大胆に変えてきたのか。75年史を通じて、先人の心を読み解き、これからの時代を逞しく、そして心豊かに生き抜いていく一助としてほしい。一人一人が継承者であることを自覚し、自分なりのデンソーらしさを見出しながら、次世代に襷をつないでくれることを期待している。

取締役会長 有馬浩二

取締役会長
有馬浩二

2025年6月

歴史を学ぶ意義

歴史を学ぶ意義とは何か。それは、人がその人生を力強く生き抜くために受け継がれるべき“魂の伝承”にあるのではないだろうか。

有史以来、人類は様々な変化を乗り越えてきた。そのことは多くの歴史書に活字として記されている。しかし、私たちが読み解くべきは、活字としての史実ではなく、むしろ、その時代を生き抜いた先人たちの想いにこそある。数々の史実の裏には、その時代を生きた先人たちの魂が息づいている。新たな時代を拓くために、彼らは、何に立ち向かい、何を守ろうとしたのか。如何なる志を立て、どう自らを鼓舞したのか。それぞれの時代に身を投じ、思いを馳せることで、読み解くべき先人の魂が見えてくるのである。

時代の変化は止まない。私たちもまた、現代という変化の時代を生きている。その変化の中に、ただ漫然と身を置き生きるならば、人生は混迷の中で過ぎ去ってしまうであろう。そうではなく、多くの先人たちの魂に触れ、自らの魂をそれらに共鳴させ燃え上がらせることで、揺るぎない志を定め、力強く生きていく。そんな“魂の伝承”こそが、歴史を学ぶ意義ではないだろうか。

本年、デンソーは創業75年を迎える。1949年、「日本電装」が誕生して以来、あくなき挑戦を重ねることで様々な苦難を乗り越えてきた多くの先人たちの想いが、今日のデンソーを作り上げた。それぞれの時代において、先輩方が、如何なる想いで、どう振る舞い、仲間と共にこの歴史を紡いできたのか。この75年史には、先人一人ひとりの魂が息づいている。改めて、75周年という歴史の節目を迎えられたことに深く感謝したい。

歴史を学ぶことで、先人からの魂を伝承し、確かな志を立て人生を力強く生き抜く。そのことが、今を生きる私たちの”魂”をこの先の未来へとつないでいくことになるのであろう。

取締役社長 林新之助

取締役社長
林新之助

2025年6月