1. ブラジルにおける景気後退
(1) 赤字転落
ブラジルの自動車販売台数は2004年から9年連続で増加を続け、リーマンショック直後の2009年も、景気テコ入れのためにブラジル政府が自動車の工業税を減税したため増勢を維持した。
しかし経済は2010年代に再び減速する。財政状態悪化を改善すべく政府が公共料金を引き上げるとインフレが加速、これに対応するためにブラジル中央銀行が金利を引き上げた。 急速な利上げで景気は後退して2014 年にほぼゼロ成長となり、2015年と2016年にはマイナス成長に陥った。
自動車販売も2013年には前年比減少となった。減税効果が一巡したことに加え、レアル為替相場下落、金利上昇などが逆風となった。さらに景況感の悪化や大統領選挙を控えての先行き不透明感から2014年も前年割れし、インフレと中銀の利上げが加速した2015年には大幅に減少した。
デンソーのブラジル事業も2015年度に赤字に転落した。すでに述べたように、2000年代後半以降、サンタバーバラ新工場の設立、テクニカルセンター設置、新事業(スターター、メーター 、ワイパなど)の現地生産設備への投資など、大規模な投資を次々に行ってきたDNBRの固定費負担が徐々に重くなっていた。
また新たに現地生産を始めた製品も南米市場では後発参入であり、売り上げは増加しても採算面では苦戦を強いられた。
このような状況を景気悪化と自動車市場の大幅縮小が直撃。さらに、そこから派生したブラジルレアル安によるドル/ユーロ建て部品価格の上昇、パラナ州での輸入インセンティブ廃止、社会保障税の税率アップが重なった。
また主要顧客の新車開発構想が、従来の地域ごとの開発から、グローバル統一開発に流れが変わってきており、製品価格が全世界統一となりつつあった。南米特有の高関税、不安定な為替相場、高金利などの経済的デメリットが製品価格に反映されるのは認められない状況になりつつあったのである。