第1章 創業の時代
9. カーエレクトロニクスへの着手
1949-
(1)大気汚染への取り組み
- 1960年
- 大気汚染は、自動車産業が直面する、初めての深刻な社会問題であった。1960年に米国で成立した法規制を契機に、当社は燃料噴射技術でこの難題の解決に乗り出した。
1960年代、日本では公害が深刻な社会問題となった。急速な経済成長と重工業化の歪んだ副産物であった。自動車に深く関わるものは大気汚染であり、一酸化炭素などの排出が問題とされた。
先行する米国では、すでに1950年代後半、カーメーカーに排出ガス対策を求める動きが盛んになっていた。1960年にはカリフォルニア州で「自動車汚染防止法」が成立した。これにより、1968年モデルから排気清浄装置の取り付けが義務付けられることになった。
当社は、カーメーカーからの要請もあり、すでに排出ガス浄化装置の研究を重ねてきていた。米国向け輸出車については、当面、対策として「エアインジェクション方式」が有効と判断し、エアポンプの生産体制を固めていた。
一方、当社の中には、将来予想される、より厳しい規制を克服するためには、いずれ「ガソリン噴射装置」にならざるをえないという考えもあった。
1957年にロバート・ボッシュ社から技術導入した「ディーゼルエンジン用燃料噴射装置」の技術を活かせば、ガソリン噴射装置の開発は十分に可能であるという判断もあった。当社は「機械式ガソリン噴射」の開発を決断し、直ちに開始した。
しかし、始めてみると、どれだけ試験・実験を繰り返してみても、機械式では精度にどうしても限界があった。目指す空燃比のための噴射量の条件を満たすことができなかった。次第に、機械式の限界が見え始めてきた。
その頃、電子開発部の技術者たちは、「電子制御式噴射装置」の研究開発に着手していた。機械式での苦闘の経験は決して無駄ではなく、やがて1970年代に入り本格的な「EFI(電子制御式ガソリン噴射装置)」の開発において、花開くことになる。