2. 聖域なき変革
1986-
(2)変革の全社展開
- 1994年
- 徹底した企業体質強化のため、「変革」を標語に掲げた。時間のゆとりはない。トップダウンで一気に推進するため、1994年に役員懇談会を行った。まず、役員の意識付けと結束の強化であった。
「変革」という言葉を当社の経営施策の柱として用いたのは、構造変化対応要綱が初めてであった。これには石丸典生社長の強い想いが込められていた。
それまで当社では「改革」「革新」などの言葉を使用してきた。しかし、それら使い古された言葉ではインパクトが弱い。石丸社長は満足できなかった。
会社を根本的に変える。熱い想いを込めて、全社員にその覚悟を伝えたいとして、今回の要綱には、あえて「変革」という、馴染みのない強い言葉を選んだ。
構造変化対応要綱では、その推進の仕方もこれまでとは違う、斬新なやり方を選んだ。要綱の推進母体として、既存組織の事業部・機能部ではなく、「特別委員会」を新たに設置することとした。
「拡販促進」「原価企画」「不採算製品改善」「円高活用」「生産性向上」の五つの特別委員会を設立した。
各特別委員会は専務クラスを責任者とし、全社横断的な責任と権限を持たせ、トップダウンで既存組織を超えて必要な施策を強力に推進した。
- 深掘り変革の要点
- 構造変化対応要綱で何を変革するかについては、二つを重視した。
一つ目は「製品を変革する」ことであった。製品の国際競争力を格段に強化し、それでもって事業成長を確保するということである。
二つ目は「会社を変革する」ことであった。特に、円高など急激な環境変化にも素早く対応できる、グローバルでスリムな企業体質をつくり上げるということである。
- 深掘り変革の実行計画
- 要綱に示された方針と施策は、全て具体的な行動計画に展開しなければ成果は出ないと考えた。各特別委員会と社内各部門は、それぞれの実行計画として「3カ年計画」を作成した。要綱の重要施策に特に関係の強い部門については、石丸社長がヒアリングを行い、その「3カ年計画」の内容を厳しく吟味した。
変革の実現については、石丸社長は役員のリーダーシップと責任を、これまで以上に重視し、期待した。
まず、役員の意識付けと結束をより確かなものにすることであった。1994年3月、海外駐在役員も含めた全役員を招集し、「役員懇談会」を行った。
懇談とは名ばかりで、変革に向けた本気の議論の場であった。「会社の変革」「役員自身の変革」という二つのテーマについて、終日、徹底的に議論を続けた。
- 深掘り役員懇談会からの提言
- 役員懇談会では、役員分担の変革、組織の変革、新事業推進のための仕組み作り、CI(コーポレート・アイデンティティ)の見直しなどが役員から提言された。
各提言は、経営企画部門が内容を整理・精査し、その具体化を関係部署に割り振り、必要に応じて実現に向けたプロジェクト活動などを立ち上げた。
さらに、石丸社長はこの懇談会の後、全役員に「決意表明」を書面で提出することを求めた。この書面で、各役員はそれぞれどんな変革に重点的に取り組むのかを宣言した。

こうしてトップダウンによる会社の「変革」が動き出した。しかし、石丸社長には不安があった。それでもまだ、社員の危機感が足りないと感じていた。
社内の本気度が不十分だとしか思えず、このままでは「変革」は中途半端に終わるのではないか。そう危惧していた。必要なものは全て変革する。何かそういう、象徴的な活動が必要であった。
石丸社長は、CI(Corporate Identity)の見直しに、思い切って着手することを決意した。
先の役員懇談会において提案があった施策の一つであった。「変革」への会社の本気度を見せて、社員の意識改革を徹底するためには、これは効果が大きいと考えた。
当社は、創立当初以来の理念である「社是」、長年歌われて愛着のある「社歌」、さらに会社設立の想いの込められた「社名」について、見直しを断行することを決意した。
ここまで踏み込むことにより、今求められている「変革」を何としてもやり遂げなければならないのだという、会社の強い意思を全社員に実感してもらいたかった。
「社是」と「社歌」については、直ちにそれぞれの見直しのプロジェクトが立ち上がった。
「社名」については、1996年10月1日、「日本電装株式会社」から「株式会社デンソー」に変更した。
- 深掘り新社名に込めた想い
- 1996年10月1日に開催された「新社名記念祝賀式典」において、岡部弘社長は次のように語った。
「本年は構造変化対応要綱3年目の締めくくりの年でもあります。デンソー基本理念のこころを反映し、また、現在の事業規模、事業内容にふさわしい社名とするため、現社名から『日本』を取り、電装品を表す漢字の『電装』からカタカナの『デンソー』に社名を改めることにより、今日から新たな決意をもって、社員の皆さまとともに、新生『デンソー』の次なる輝かしい歴史を創っていくことを誓い合いたいと思います」