3. モノづくりの確立
1971-
(3)工程の創造
- 1969年
- 点(単一工程)から線(ライン単位)、さらに面(製品単位)へと、当社は合理化を進展させた。それとともに、生産技術者の役割を進化させてきた。そして当社独自の重要な職種として、「工程設計」を生み出した。
「競争に勝とうとする会社では、設計→試作→評価→改良を短いサイクルで繰り返し、レベルアップを図れる仕組みをもち、しかも生産技術者は燃える情熱で日々努力することが大切である」
これは当社生産技術の生みの親といわれる、元副社長の青木勝雄の言葉である。この想いは当社生産技術者の信条として、今日まで継承されている。そして、これを体現しているものが、当社が独自に生み出した重要職種、「工程設計」である。
当社の生産工程の合理化は、1950年代にそれまで手で行っていた作業を機械化するという形で始まった。いわゆる「点(単一工程)の合理化」であり、その基本は社内での専用機の製作であった。1960年代に入ると、トランスファーラインによる「線(ライン単位)の合理化」へ、さらに1980年代には「面(製品単位)の合理化」へと進化した。製品ごとに高速自動化ラインや、素材から組付け・検査までを集合した一貫ラインを導入した。
合理化の範囲が拡大するとともに、生産技術者の役割も変わった。
「面(製品単位)の合理化」の段階になると、製品設計の上流からライン立ち上げの下流まで、一貫してプロジェクトを推進することの重要性と必要性が強く認識されるようになった。これを担うものとして、当社は「工程設計」という、独自の職種を生み出した。
工程設計者には三つの役割があるとされた。「新製品を成立させる新工法や生産ラインを実現すること」「工場を革新する生産システムを開発すること」「それを創り上げるプロジェクトをリードすること」であった。
1969年に「工程設計手順書」がまとまった。その最後は「工程設計者は工程を創造しろ」と結ばれていた。他社が真似できない生産技術で競争力ある製品を開発し、高速高生産性ラインの設備投資を行って工場を革新せよ、ということであった。工程設計者がモノづくりの多岐にわたって重要な役割を果たし続けるというのは、当社独特の姿であった。
- 深掘り工程を創造する
- 工程設計者のあり方については、「今ある技術を上手くまとめるだけではダメだ。作りたい姿を示し、それを実現するために、固有技術や設備技術の部隊に抵抗されようが変革を強いる。そしてみんなが担ぎたくなる神輿を作る」とされている。1969年にまとめられた「工程設計手順書」では、「工程設計者は工程を創造しろ」という書き方がされていた。
それでは、工程を創造するためには、具体的に何をすればいいのか。当初はその真髄になかなか辿り着けなかった。工程設計者たちは頻繁に議論を行い、最先端と呼ばれるものを拾い集める中で、「創造」をやり遂げるのに必要なのは「必然性ある高き目標」であることに辿り着いた。それはやれるかやれないかは関係ない、絶対にやり遂げなければならない目標ということであった。
1980年代前半までは、工程設計は主に機能部である生産技術部が担った。しかし、事業規模の拡大とともに、各事業部製造部の工程設計者も増加の一途をたどるようになった。全社の工程設計者の底上げが必要な状況となっていた。
1988年、工程設計の技術開発活動を開始した。属人的といわれた工程設計の仕事のやり方であったが、様々な次期型製品の合理化活動で培った経験を広く集め、そこから重要な項目を抽出し、生産技術部内での研究・議論を通して体系化を進めた。
1990年代に入ると、「工程設計デザインレビュー」が始まった。ここでは、製品個別の解ではなく、どんな製品に対しても展開されうる生産システムの模範解答を目指した議論を進めた。そして、これらの成果をもとに、「工程設計教育テキスト」を編集し、本格的な全社教育を立ち上げた。
こうした教育体系にさらに各部門でのOJTを組み合わせ、計画的な工程設計技術者の育成を展開することとなった。2000年代以降のグローバル生産の時代になると、現地人材も視野に入れた人材育成を広く進めていった。
- 深掘りグローバルに通用する生産技術者育成
- 2000年代に入り、グローバル生産が急拡大すると、海外で通用する論理性を持ち、指導的な役割を担えるコア人材の育成が急がれた。既存の生産技術教育体系はデンソーのこれまでの工程設計や生産ラインづくりの経験を独自に体系化したものであり、デンソーの外部にはその目的に叶うような専門教育を行う機関はなかった。
当社は生産システム工学を専門とする大学教授に協力を依頼し、分野ごとに様々な大学の専門家からの協力も得て、最先端の生産システム技術も取り入れながらデンソー向けにアレンジした独自のカリキュラムにまとめた。こうして2001年、ハイタレント研修「生産工学」が始まった。デンソーのモノづくりや生産システムの基盤技術を長期的視点でとらえる風土の醸成、専門技術を有する人材の計画的な育成を狙ったものであった。視野を広げ、モチベーションを高める研修の成果は、徐々に海外における現地人材の育成にも活かされるようになっていった。