第3章 強化の時代

5. 未来への事業強化

1986-

(1)理想の交通システム

1996年
交通問題の深刻化を背景に、1996年に政府が「高度道路交通システム(ITS)」の全体構想をまとめた。当社は先進技術で社会課題の解決に貢献できる機会と捉え、この関連プロジェクトに積極的に参画した。
ITSの表示装置(1970年代)
ITSの表示装置(1970年代)
CACSの全体構成
CACSの全体構成

1960年代から、先進諸国ではモータリゼーションの進展によって道路交通量が急増していた。この結果、交通事故、交通渋滞、物流停滞といった問題が深刻化しつつあった。

こうした社会課題を解決し、さらに環境保全にも寄与するような、理想の交通システムが望まれるようになった。

それを実現しようという動きが、1970年代に日米欧でほぼ同時期に始まった。最先端の情報通信技術を活用して、安全で快適な道路交通を目指す「高度道路交通システムITS(Intelligent Transport Systems)」であった。

日本では、1973年から通産省(現・経済産業省)工業技術院が中心となって、経路誘導システムの開発が始まった。「自動車総合管制システムCACS(Comprehensive Automobile Traffic Control System)」と呼ばれるもので、これが日本のITSの開始とされた。

それに先立って、すでにトヨタ自動車は情報通信技術を自動車交通の改善に応用しようという試みに着手しており、当社もこの取り組みに協力していた。

こうした経緯があったため、当社は通産省のCACSプロジェクトについては、立ち上がり当初からトヨタ自動車とともに参加した。当社は専門分野である車載装置、路上装置、路車間通信方式の開発を担当し、エレクトロニクスや通信技術で貢献した。

時を経て、日本のITSについては、1996年に関連する五つの省庁が全体構想をとりまとめた。この構想では、重点的に取り組む九つの分野が特定された。

深掘り日本のITS構想
ITSは、最先端の情報通信技術を用いて、人と道路と車両とを情報でネットワークすることにより、安全性の向上、輸送効率の向上、快適性の向上、環境の改善など、道路交通問題の解決と新たな産業の創出を目的として構築する、新しい交通システムであった。
1996年にITS関係の5省庁により、重点開発分野として次の9分野が特定された。①ナビゲーションの高度化、②自動料金収受システム、③安全運転の支援、④交通管理の最適化、⑤道路管理の効率化、⑥公共交通の支援、⑦商用車の効率化、⑧歩行者の支援、⑨緊急車両の運行支援。
9分野のうち、当社が参画している分野とその当社製品は、次の5分野であった。①(ナビゲーション)、②(ETC)、③(自動運転支援システムAHS/ASV)、⑦(AVOS)、⑨(緊急通報システム)。
VICS対応ボイスナビゲーションシステムNAVIRA
VICS対応ボイスナビゲーションシステムNAVIRA

この重点分野の筆頭が、ITSの中でも先行していた「カーナビゲーションシステム」であった。日本のカーナビゲーションの第1号は、当社とトヨタ自動車の共同開発による「エレクトロ・マルチビジョン・システム」であり、1987年に「クラウン」に搭載された。

1990年代に入ると、従来の地図表示に新たに経路案内機能を追加し、さらにGPS(Global Positioning System)技術を使って、自車位置の算出精度を高めた。その後、飛躍的な性能向上やコスト低下により、1990年代後半からカーナビゲーションは広く普及した。

深掘りカーナビゲーションの進化
1990年代に入り、カーナビゲーションを組み込んだ統合システムとして「道路交通情報通信システム(VICS)」が生まれた。VICSは個々の車のカーナビに渋滞等の情報を提供するシステムであった。
カーナビの機能面では、1991年モデルでは地図表示に経路案内機能を追加し、マップマッチングとGPS技術を使って自車位置の算出精度を高めた。さらに音声案内機能を追加し、カーナビの基本機能を仕上げた。1996年モデルでVICS対応のシステムへと発展し、「通信型カーナビ」の時代に入った。その後、コマンドや目的地の音声入力、見やすい3D表示地図、インターネット接続などを実現し、マルチメディア化を進めた。
商用車向けAVOS
商用車向けAVOS

「自動料金収受システム」も、1996年のITS全体構想で重要分野の一つに挙げられた。料金支払いの利便性だけでなく、交通渋滞が解消されることで排出ガスが減少し、環境保全にも貢献するものであった。

当社は1995年に建設省(現・国土交通省)などと共同で開発を始め、2001年に「自動料金収受システムETC(Electronic Toll Collection System)」の正式運用を開始した。ETCの普及は、その後の路車間通信の本格化の契機となった。

サプライチェーンマネジメントとして物流にITSを展開したのが、1995年に当社が日本で初めて実用化した「車両運行管理システムAVOS(Advanced Vehicle Operation System)」であった。

AVOSはGPSの位置情報により、移動する輸送トラックなどとのリアルタイム通信手段を活用した、効率的なシステムであった。

それをさらに進化させて、1996年には衛星通信を利用した画期的な車両運行管理システム AVOSを商品化した。当社のこれらのシステムは、物流の効率化に大きく貢献した。