半導体の未来を拓く挑戦──技術者が語る8インチSiC量産化の舞台裏

この記事の目次

    Page Top

    • ウエハ製造部 室長渡辺 正樹Masaki Watanabe

      前職にて半導体前工程の生産技術や新規工程の立ち上げを経験し、2019年にデンソーへ入社。2025年に室長に就任。現在、幸田製作所の新規エピタキシャル工程立上げの責任者として生産準備・設備投資を統括。

    • ウエハ製造部 担当成田 拓朗Takuro Narita

      2022年にデンソーへ新卒入社。IGBTのフォトリソグラフィ工程で工程効率改善や設備廃却を経験し、2023年に現部門へ異動。6インチSiCエピタキシャルの量産業務と8インチSiCエピタキシャルの工程開発を同時に推進。次世代製品の試作評価も担当し、サイクルタイム短縮やプロセス条件最適化に取り組む。

    • ウエハ製造部 担当係長田中 修平Shuhei Tanaka

      前職にてNAND型フラッシュメモリーの成膜工程をプロセスエンジニアとして担当した後、高周波フィルタBAWの歩留分析と業務効率化を経験。2024年にデンソーへ入社後、8インチSiCウエハのインテグレーション業務を担当。内製エピタキシャルの開発から量産化、再生加工の確立に向けた評価を推進している。

    Si(シリコン)とC(炭素)からなる化合物「SiC(炭化ケイ素)」を活用した次世代パワー半導体の市場拡大に向けて、デンソーは幸田製作所に新たな専門組織を設置。このプロジェクトに挑むリーダーとメンバーの3名が、日々の中で得られる手応えや挑戦の醍醐味について語ります。

    この記事の目次

      未踏の領域へ挑む、8インチSiC量産化プロジェクト"始動"

      SiCウエハを手に持って確認する様子

      ──はじめに、「SiCプロジェクト」の概要を教えてください。

      渡辺:このプロジェクトは、世界で開発を競う「8インチウエハによるSiCエピタキシャル工程(※)の量産化」に挑戦するものです。SiCは、従来のSiを凌ぐ材料特性を持つ化合物半導体材料で、次世代パワー半導体の中核素材として注目されています。ハイブリッド車や電気自動車など電動車の普及に伴い、SiC市場は今後ますます拡大すると予測されています。

      ※エピタキシャル工程(エピタキシャル成長):半導体製造において新しい層を基板の結晶面に沿って成長させる技術

      当社はこれまでSiを中心に展開してきましたが、SiCの市場成長を見据え、いち早く量産体制を整えるべく本プロジェクトを立ち上げました。SiCは高価で、とくに基板部分のコストが課題となるため、内製化によって競争力を高め、パワー半導体分野での売上拡大をめざしています。

      プロジェクトの中で、私たちはSiC生成の重要工程となる「エピタキシャル装置による成膜を行う新規工程」を立ち上げています。一般的にSiCウエハは基板中欠陥が多く、性能に大きく影響するため、欠陥が少ないエピタキシャル膜によって性能を安定化させています。

      SiCはSiに比べて加工が非常に難しく、国内でSiCパワー半導体を内製している企業は限られています。こうした状況の中で、8インチウエハでのSiC量産に挑むのは、まさにデンソー半導体の未来を拓く挑戦です。

      田中:製造の流れとしては、車載半導体の研究・開発を担う「ミライズテクノロジーズ」が基礎研究を担当し、私たち事業部がその成果をもとに製品化へと展開していく形です。通常は開発フェーズを経て量産に移行しますが、今回のプロジェクトではそのプロセスを大胆に見直し、開発と量産を同時並行で進めています。

      本来、3〜4年かかる量産化を、わずか2年で実現するという高い目標を掲げ、開発段階から生産準備をスタートさせました。8インチウエハは6インチに比べてウエハ1枚あたりのチップ数が約1.8倍となり、生産効率が大幅に向上します。

      これにより製造コストの削減が期待されますが、ウエハが大きくなるほど品質の均一性を保つことが難しくなるため、高度な技術力が求められています。われわれは、研究・開発を担うミライズテクノロジーズとの共同開発によって、それを実現しようとしています。

      三者三様の背景から始まった、SiCプロジェクト

      SiCウエハを見ながらディスカッションする渡辺、成田、田中

      ──皆さんがSiCプロジェクトに携わることになった経緯をそれぞれ教えてください。

      渡辺:私はもともと生産技術のキャリアを築いてきましたが、新しいことにチャレンジしたいと考え、21年から施設技術を担当することになりました。施設技術は工場のインフラ導入が主な業務であり、先んじて新工程の設備導入を検討していきます。これまでの生産技術の経験を活かしつつ、施設技術の知見を習得してきました。

      今回のSiCの新工程を立ち上げるにあたり、当初はインフラ導入に加えて、新工程の設備投資管理を任されていました。その後、新工程の生産準備を企画する段階で、プロジェクトリーダーに任命されました。

      今回のプロジェクトは量産化開始時期を早めるため、ミライズテクノロジーズでの開発段階からわれわれ製造部が入り、さまざまな課題解決に取り組んでいます。施設技術と生産技術の両方の経験を求められる役割であるため、これまでの経験を活かせることにやりがいを感じながらプロジェクトに携わっています。

      成田:私は新卒で入社後、Siのパワー半導体を1年ほど担当していましたが、SiCプロジェクトの立ち上げに伴い異動となりました。SiCは半導体業界において新規分野ということで、おもしろそうだと感じたのを覚えています。

      当初はSiCやエピタキシャルに関する知識がまったくない状態からのスタートでした。とくに、前身となる6インチウエハの量産対応では、エピタキシャルの成膜条件の調整を毎日手作業で行っており、品質の安定化には大変苦労しました。

      わからないことは積極的に周囲に質問し、得られたデータを比較・分析しながら知識を深めていきました。その過程で、作業の一部を自動化する仕組みも構築し、業務効率と品質の向上に貢献しました。こうした経験は、現在取り組んでいる8インチウエハの開発・量産対応にも大いに活かされています。

      田中:私は転職活動時に、デンソーがSiCを内製していることを初めて知り、たいへん驚きました。SiC技術はまだ大学などの研究段階にあると思っていたため、すでに社会実装に向けた取り組みが進んでいることに強く惹かれました。

      前職ではSiデバイスのエピタキシャル成膜を担当しており、その経験を活かしながらも、新たな分野に挑戦できると考え、プロジェクトへの参加を決意しました。

      業務は、装置購入の手続きからスタートし、現在は完成度評価シートの作成を担当しています。品質の高い製品づくりに欠かせない細かな作業を、上司と細部まで丁寧にすり合わせながら進めており、デンソーならではの品質へのこだわりを日々実感しています。

      挑戦の先に見えた、成長の手応え

      パソコンでシミュレーションを確認する成田

      ──プロジェクトに携わることで、どのような学びや成長を感じていますか?

      渡辺:私自身、新規工程の設計や、SiCという新しい技術領域に挑戦することも、いずれも初めての経験でした。その中で、プロジェクト全体を俯瞰して考える力が自然と養われたと感じています。

      さらに、ミライズテクノロジーズで開発された技術を間近で見て、シミュレーションを活用した開発手法の重要性を実感しました。シミュレーションで得た仮説を素早く実証し、結果につなげていく──このアプローチは非常に合理的であり、今後はウエハ製造部の標準的な手法として、他部署にも展開していきたいと考えています。

      成田:私は、データの整理や解析、資料作成のスキルが大きく向上したと感じています。中でも、装置メーカーとの交渉でサイクルタイムを27%短縮できたことは大きな自信につながりました。

      業務を進める中で、「客観的にどうするべきか」と「自分はどうしたいか」という2つの視点を持つことの大切さを学びました。

      田中:私はプロセスエンジニアから工程設計という新たな領域に挑戦することになり、これをチャンスと捉えて取り組んでいます。わからないことばかりの中で、課題解決力やコミュニケーション力の必要性を痛感しましたが、周囲の支えにあらためて感謝する日々です。

      ──プロジェクトリーダーである渡辺さんから見て、お二人の取り組みはどのように映っていますか?

      渡辺:成田さんは6インチウエハでの経験を活かし、生産技術者としての考え方をしっかり持ってくれているので、とても頼りになります。田中さんはインテグレーション業務を幅広く担当し、前後工程との連携も含めて全体を見渡す視点で取り組んでくれています。データの確認や承認を通じて、2人ともそれぞれの強みを発揮しながら、プロジェクトを成功へ導いてくれると確信しています。

      挑戦を歓迎する風土が、「人」を育てる

      SiCウエハを手にしながら説明する渡辺

      ──デンソーで働く魅力はどのような点にありますか?

      田中:私はキャリア入社ですが、入社直後からSiCプロジェクトのインテグレーションという重要な業務を任され、会社からの大きな信頼を感じました。

      デンソーには挑戦を歓迎する風土があり、SiCに詳しい人が少ない中でも「みんなで挑戦しよう」という姿勢を、会社が寛大に受け止めてくれる点に大きな魅力を感じています。

      また、世界的にも新しいロジックに関われていることは、半導体エンジニアとして非常にやりがいがあります。他部署の方々とも想像以上に関わる機会が多く、連携しながら課題を乗り越えていく過程に、仕事のおもしろさと成長の手応えを感じています。

      成田:私も田中さんと同様に、専門的な技術バックグラウンドがない状態でSiCプロジェクトに参加しましたが、個人の努力はもちろん、そうした挑戦を後押ししてくれる風土があると感じています。

      また、製造現場のメンバーと密にコミュニケーションを取りながら仕事を進め、何かを達成した時に「よかったね」と声をかけてもらえる瞬間に、チームでものづくりをする喜びとやりがいを実感します。

      ──最後に、今後の展望について教えてください。

      成田:SiCは会社の成長を支える重要な技術領域です。今後もこの業務に携わりながら、シミュレーションやDXを活用した改善活動にも力を入れていきたいです。SiC技術者として専門性を高めつつ、幅広いスキルを身につけて半導体分野で活躍できる人財になりたいです。

      田中:現在進行中のプロジェクトはまだ途中段階ですが、来年の量産に向けて最後まで走り抜けたいという想いがあります。最初から最後までプロジェクトに関われる貴重な経験を活かし、今後はより広い視野でスキルを磨き、次の挑戦につなげていきたいです。

      渡辺:まずはこのプロジェクトを成功させることが目標です。田中さんや成田さんのように、周囲の意見を取り入れながら成果に向かって進める人、新しいことが好きな人、チームで働くことが好きな人がこの業務に向いていると感じています。そうした想いを持つ人が今後もチームに加わってくれることを期待しています。

      また、ウエハ製造部では新規工程の立ち上げにあわせて工場のレイアウトを見直しており、次のプロジェクトに向けた環境をつくっています。私も今回の経験を活かしてまたリーダーとして新しいプロジェクトに挑戦し、貢献していきたいです。

      製造ラインを背景に立つ渡辺、成田、田中の3名

      ※ 記載内容は2025年9月時点のものです

      キャリア・生き方

      執筆:talentbook 撮影:talentbook

      COMMENT

      あなたが実現したいこと、学びたいこと、可能性を広げたいことに、この記事は役に立ちましたか?
      ぜひ感じたことを編集部とシェアしてください。

      「できてない」 を 「できる」に。
      知と人が集まる場所。