産休・育休・職場復帰を支えるデンソーの職場力、向上の鍵は「本音の話し合い」

思っていることを正直に本音で話すこと、受け容れることの大切さ

キャリアアップと子育てを両立するには、会社の支援制度だけでなく、職場の理解と応援が欠かせません。センシングシステム&セミコンダクタ開発部の石川 素美は、産休・育休を取得するときに“職場力”の高さが支えになったと話します。デンソーに根づく“職場力”とは何か、石川と上司の本田 匡宏の対談から探ります。

この記事の目次

    産休取得までのキャリア──周囲の評価は“妥協しない技術者”

    石川 素美は、2007年4月に入社。2016年までセンシングシステム&セミコンダクタ開発部に在籍し、次世代製品の材料技術開発などを手がけ、その後、未来視点の開発・研究にチャレンジしたいという想いから、自ら研究部門へ転属を志願。自動運転に貢献する光学製品の性能向上に期待できる先端材料の研究に2年間従事します。

    そして、現部署に復帰したのは2019年のこと。環境に配慮した電気自動車、ハイブリッド自動車に採用されるパワーカード(電源のオン・オフを高速にスイッチする装置)の材料技術開発の担当となりました。

    石川 :「パワーカードの材料の放熱性を上げることでコストの低減や製品性能の向上が期待できるんです。放熱性を向上させた材料の開発はデンソーにとっても私にとっても長年の悲願。今度こそ世に出したいという強い想いがあります」

    石川の挑戦のはじまりは、2012年にまで遡ります。

    石川 :「はじめてパワーカード向けの放熱材料開発に着手したときは、目標とする特性が当時の業界レベルよりかなり高いうえに、私の知識・経験も乏しかったために開発が思うように進みませんでした。

    そこで半年間材料メーカーに常駐させてもらい、材料やプロセスについて徹底的に学ばせてもらったんです。理論設計の面でも、大学との共同研究やグループ会社である株式会社SOKENとの連携を自らお願いして、携わらせてもらいました」

    メーカーや大学との協力によって多くのアイデアが生まれ、石川は目標仕様以上かつ業界最高水準の特性を出すことに成功します。そのあいだに出願した特許の数は20件あまり。大学と共同研究した基礎技術は、後輩に引き継がれ発展し続けています。

    持ち前の積極性が花開いて多くの成功体験を得られましたが、開発した技術は残念ながら製品化に結びつきませんでした。

    そんな石川が実装開発室に復帰したとき、彼女をパワーカード用放熱材料開発のプロジェクトリーダーに推したのが課長の本田です。そこにはもう一つの意図がありました。

    本田 :「石川さんは何事も妥協しない強さを持っていて勉強熱心。何でもすぐに専門家になってしまう方です。その一方で、どんな仕事でもひとりでやり切る“個人商店”タイプでもあります。目の前の仕事を優先して没頭するがあまり、チームワークへの意識がそこまで強くなかった、というのが転属前の石川さんでした。

    転属当初、何度も話し合いを重ねて互いの価値観をすり合わせていくなかで、ひとつのチームを持たせてみることが、彼女のステップアップにつながるのではないかと考えたんです」

    リーダーを任された石川は、一変しました。

    本田 :「大きなプロジェクトを任されたことで、石川さんは、相手とどう連携をとるかが大切だと考えるようになりました。また、もとから彼女は、自分から動けるタイプ。今まではその対象が目の前の仕事でしたが、チーム運営に切り替わっていったのです。

    チームやメンバーを気にかけて、僕への相談も『こんなふうに変えてみようと思います』という相談が増え、僕は『じゃあ、それをやろうか』と背中を押して。チーム運営も、仕事のやり方も変わり、石川さんはすごく頼られる存在になっていきました」

    石川は、チームとしてどう効率よく仕事を進めるか思考するようになり、リーダーとしての頭角を現しはじめたのです。

    休職前の不安を払拭してくれた上司・メンバーのサポート

    悲願達成に向けてチームのメンバーとともに全力で取り組んでいた石川に、2021年1月、転機が訪れます。

    石川 :「正月休み中に、妊娠が判明しました。若いときから実験室にこもりきりで、帰りがフロアで一番遅くなることもしばしばだった自分です。思いっきり自分のやりたいことに集中していたため、子どもを持つことも、子どもを育てながら仕事をすることも、正直想像していませんでした(笑)。

    また当時は、休み明けから課長格に昇進することが決まっていて、『よし頑張るぞ』と思っていた矢先。正直、喜びよりも戸惑いを感じましたね」

    今後、期待をされて昇進しつつ、子育てと仕事を両立する。それは石川にとって、未知の世界。だからこそ、石川にあったのは、「果たしてそれを自分はできるのか」という不安でした。

    石川 :「だけど、休み明けに室長と課長と面談したとき、第一声が『おめでとう』というお祝いの言葉だったんです。その一言でやっと、少し安心することができました」

    本田 :「石川さんが妊娠されたことは、すごく喜ばしいこと。しかし、ちょうど、他メンバーの退社と重なってしまったこともあり、正直、不安でもありました。『彼女がいない間、プロジェクトを進めていくには……』など考えながら、石川さんが妊娠されたことをチームメンバーに伝えると、みんな心から喜んでくれて、産前・育児休暇の間も協力し合っていく意思を見せてくれたんです。

    その時、チーム力の素晴らしさを感じましたね。そして、幸いにして人員の増強も速やかに決まったんです。職場だけで子育てに臨む人を支えるのではなく、会社全体でサポートしようとする文化があることもあらためて感じました」

    休暇を取得する4カ月程前には、すでに石川が抜けたあとの体制が固まっていたため、時間をかけて引き継ぎができ、そして何より、業務を引き継いでくれるメンバーの前向きさに石川はありがたみを感じたと言います。

    石川 :「メンバーにとっては業務量が単純に増えることになるので、引き継ぎは丁寧かつ慎重に進めました。業務内容を教えるだけでなく、その業務の新規性や設計上の理念なども伝えることで、いかにやりがいのある仕事か感じてもらいたかったんです。

    根っからの技術者であるメンバーは『新しいことが知ることができて勉強になる』、『業務範囲がひろがることで自分の成長につながる』と応えてくれました。すごく感謝しましたし、おかげで安心して産休に入ることができました」

    仕事中も、育休中も“本音”で話し合う

    石川は、2021年8月からおよそ10カ月にわたって休暇を取得しました。仕事を引き継いだメンバーのことや、職場復帰のことが気がかりだった石川にとって、助けとなったのが課長の本田が提案した“コミュニケーションタイム”です。

    石川 :「部長、室長、本田課長、チームメンバーと私の7人のミーティングで復帰後の働き方を相談する機会を設けてもらったんです。たとえば、保育園の都合で夕方は会議に参加しづらくなるとか、どんな日に有休が多くなりそうだとか。今までと同じような働き方ができなくなることに不安を感じていることも伝えると、部長は『育児も仕事と同じくらい責任があり大事なことだよ。

    これからは、思い通りに業務時間が取れない時もあるかもしれないけど、仕事の内容やアウトプットで評価していくので大丈夫。それから、育児と仕事が両立できる働きやすい環境を作っていくので安心してほしい』といってくれました。

    また、本田さんには育休中も定期的にメールで部の近況や会議の内容を伝えてもらったり、2カ月に1度メンバーと雑談する機会を設けてもらったりもしました。『育休中でも会社はあなたのことを忘れていないよ』というメッセージが伝わってきましたね」

    本田 :「職場における孤立は誰にとっても課題です。特に育休中の心細さは著しいと思います。石川さんが安心して戻ってこれるよう、帰ってくる場所があることを伝えるためにはどうすればいいかと考え僕から提案しました」

    本田は、メンバー一人ひとりの心理的安全性を確保するために、これまでも率先してさまざまな取り組みをしてきました。

    本田 :「ちょうど石川さんが転属してきた2019年に、従業員が抱えている不満を紙に書いて吐き出すワークショップがありました。普段静かにおとなしくしている社員が、実はもっとしゃべりかけてもらいたいと思っていることを知り、コミュニケーションが不足していた事実を目の当たりにしたんです。何も言ってこなければ上手くいっているものだと勘違いしていました」

    デンソーは、コミュニケーションの活発度合や支え合いの文化があるかどうかを図る、“職場力”という独自の指標を設けています。本田と石川が所属するチームは、2019年当時、望ましい結果ではなく、また、同時期に、会社施策として 「デンソーの変革」に向けた議論が各部で行われることになり、一念発起した本田が中心となって部長や各室の代表と議論を進めた結果、“本音の話し合い心得十訓”というコミュニケーションルールを制定します。

    本田 :「簡単に言えば、職場の風通しを良くしてメンバーが孤立することを防ぐためのルールです。たとえば『相手の立場と気持ちを考えて最後まで耳を傾けよう』といった訓示が書かれています。チームの話し合いのとき、心得十訓のなかからひとつを選んで『きょうは、この訓示を重点的に意識しましょう』などと切り出すことで、メンバーが意見を言いやすいようにしています。

    導入以後、誰かが一方的に話すといったことも無くなりました。その後、うちのチームの職場力は高まり、会社全体としても評価が高くなりました。また、この心得十訓は、部内だけに留まらず、事業部内にも展開されて活用されるようになりました」

    育休中であっても職場とつながり、話し合いをすることで、復帰後の不安をやわらげられたと話す石川。その背景には、時間をかけて築かれてきた「本音で話し合う」文化があったのです。

    ライフステージが変わっても、変わらない“やりがい”は、職場力のおかげ

    2022年5月、石川は職場復帰を果たしました。育児との両立を考え、実験をする日以外は基本テレワークをしていますが、もともと時短勤務が性に合わないと感じていたためフルタイム勤務を選択。復帰後は新たなミッションを任されています。

    石川 :「とにかくみんなが温かく迎えてくれて『こんなことあったんだよ』といろんな話をしてくれることが、すごく助かりました。放熱材料開発のプロジェクトの推進・管理は、産休前に引き継いだメンバーに継続してもらっていて、復帰後は、私がリーダーとしてそのサポートをしつつ、さらに次の世代のパワーカードを見越した開発に取り組んでいます」

    本田 :「やはり育児をしながら働くことを考えると、短期的な目標よりも長期的なテーマを任せるほうが、仕事の時間も調整しやすくて良いと考えたんです」

    実際、石川は自分なりの新しい働き方を模索している段階です。

    石川 :「保育園から子どもが帰ってきたら、どうしても “家庭モード”に入らなくてはいけません。とくに最初の2カ月間は、子どもも保育園を休みがちだったので、有休を取る日も多かったんです。長期的なミッションであることや、カバーしてくれる頼もしいメンバーがいることにありがたみを感じつつ、思うように働けていないことに焦りを感じ、ストレスを溜めて精神的に不安になったこともありました」

    石川の場合、そうした状態を脱するきっかけとなったのが、“仕事をやりきる”という選択でした。

    石川 :「子どもが寝ついた後に、テレワーク制度を活用しながらメリハリつけて集中して仕事をしています(笑)。プロジェクトマネージャーとしての責任もあるので、そこで帳尻を合わせてやり切った感を得ることが、多少疲れたとしても自分の精神状態にとって一番良いのだと気づいたんです。

    本田さんに『今まで通りの石川さんでいいよ』と言ってもらえたことも心の支えになりましたね。もちろん夫との協力なくしては成り立ちませんが、復職に先だって家事を自動化する家電を買ったり、宅食サービスを契約したりと準備もしてきました。唯一のリラックスタイムは、仕事の後に子どもの寝顔をくしゃくしゃとすることです(笑)」

    そんな“やりきった感”を求める石川の原動力は、仕事への熱意に他なりません。

    石川 :「やはり、自分のアイデアや考えが詰まった技術が、製品となって世の中に貢献できることに大きな意義を感じますし、その目標にチームとして取り組める、デンソーの環境そのものにやりがいを感じるんです。振り返れば、結婚、妊娠、出産、復職と自分の状況が変わっていっても、ずっと楽しくやりがいを持って働けています。

    それは、その都度、私の状況に合わせた配慮を、職場の上司やメンバー、夫がしてくれているからなんですよね。特に会社においては、職場力の高さがあってこそです。そこに着目し、働きやすい職場の環境や風土を維持向上しようという取り組みが多いことが、デンソーの魅力だと思います。

    そして、私自身も、自分が働き続けられる環境をつくるために、上司やメンバーに不安な気持ちも含めて思っていることを正直に本音で話してきました。それを、受け容れてくれる上司、職場だからこそ、今があると思っています」

    本田 :「メンバーの状況に合わせてサポートをしてくれる会社だ、という感想は同じです。その基礎には、普段から良い仕事をするために、職場の信頼関係や本音の話し合い、助け合いを大切にする風土がある。それこそがデンソーの職場力です。ほかのメンバーにも、ライフイベントや個人的な問題があるときは、仲間に相談できる・支えてもらえるのだという安心感を持って、思う存分能力を発揮して欲しいですね」

    石川 :「この会社だからこそ、目標とする上司も大勢いるんです。本田課長や室長がいてくれたからこそ、自らも昇進したいと思い頑張れています。私もチームを引っ張るというより、チームに寄り添う人材になっていきたいですね」

    仕事への熱意を共有し、互いに本音で話し合ってきたからこその信頼感がふたりの間に漂います。デンソーの職場力は、こうした一つひとつの関係性の積み重ねによって高められているのかもしれません。

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