世界一の技能と経験を、次の世代へ。

自ら考える「人」を育て、モノづくりの未来を支える

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    • 技能人財養成部 デンソー工業学園沓名 佑太Yuta Kutsuna

      デンソー工業学園出身。技能五輪選手として、12年の全国大会(精密機器組立て)で銀賞、15年の国際大会(製造チームチャレンジ)で金メダルを獲得。技能五輪コーチを担当後、試作品の加工や製造現場での工程改善、SiC生産システム開発に従事。現在はデンソー工業学園の指導員として、技能と人間力の育成に取り組む。

    デンソー工業学園で担任指導員を務める沓名 佑太。技術や技能と同じくらい「人間力」の教育に力を入れています。その背景には、自身が技能五輪の国際大会で金メダルを獲得するまでに経験した挫折と挑戦がありました。デジタル化やAIが進む時代にも揺るがない、デンソーのモノづくりの核に迫ります。

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      デンソー工業学園の担任として、技能とともに「人間力」を育む

      ──沓名さんは、母校であるデンソー工業学園でどんなことを教えていますか?

      工業高校課程の担任を務めながら、機械工作や安全の専門科目を教えています。技術や技能を伝えるだけでなく、現場で活躍できる人財になってもらうために、合宿や研修での心身訓練を通じて「人間力」を育てるようにしています。

      ──人間力とは、興味深い観点ですね!具体的には、どういった力を育んでいますか?

      人間力とは、自らを律する力や自ら考えて行動し、周囲から信頼される力だと思っています。そのため、挨拶や時間を守るといった基本的なことから、何が最適なのかを考えて行動する力、周囲の仲間に感謝し協力する力、そして諦めずに挑戦する力などを教えています。

      ──人間力を高めることは、モノづくりにおける「品質」や「安全」にどう結びつくのでしょうか?

      人間力が高い人は、安全や品質を「自分事」として捉えられるため、結果として品質や安全を守ることにつながると思っています。

      実は、現場で起きる不具合や事故などは、技能面だけでなく、慣れや思い込み、確認不足が影響しているものも少なくありません。だからこそ、決められたことを確実に守りながら、違和感を覚えた時には流されず、立ち止まって考えることが重要です。そうした一人ひとりの意識の積み重ねが、製品の品質を守り、その先にいるお客さまの安全と信頼につながっていくと考えています。

      ──最終的に信頼へとつながる「人間力」の重要性が理解できました。一方で、学園生は10代の若者です。壁にぶつかって思い悩むこともあるのでしょうか?

      おっしゃる通り、挑戦する中でうまくいかず、悩みや不安から立ち止まってしまう学園生も少なくありません。そんな時は「気持ちを話しに来るだけでもいいよ」と声をかけ、とにかく寄り添って話を聞くようにしています。

      気持ちを受け止め、一緒に考えることで、「独りじゃないんだ」と感じてもらいたい。そうする中で、もう一度前を向いてもらえたらと思っています。

      ──学園生と接する上で、心がけていることがあれば教えてください。

      自分も完璧ではないことを、忘れないようにしています。信頼される立場であり続けるためには、私自身にも、律する力や考える力が欠かせません。

      学園生や同僚からどう見られているか、自分の行動が正しく伝わっているかを客観視しながら、「一緒に考えて、一緒に成長する」ようにしています。

      窓から見える建物と緑の木々
      同僚とPCを見ながら笑顔を交わす沓名 佑太

      1人で届かなかった日本一、3人で手にした世界一

      ──沓名さん自身の歩みについても、ぜひ聞かせてください。なぜデンソー工業学園に入学し、技能五輪に挑戦しようと思ったのですか?

      正直なところ、最初はモノづくりに特別な思い入れがあったわけではないんです(笑)。卒業生だった兄の影響もあり、早いうちからキャリアを形成しようと入学しました。

      でも、基礎を学ぶ中で技能五輪の存在を知り「かっこいい!」と思って。「自分も1つのことに没頭して、日本一や世界一をめざしてみたい」と挑戦することにしました。

      ──憧れだった技能五輪の世界に飛び込み、挑戦を続ける中で、とくに印象深かったことはありますか?

      挫折を乗り越え、3人1チームで挑んだ国際大会で世界一になったことです。実は私、1人で挑んだ「精密機器組立て」の全国大会では金賞を取ることができなかったんです。当時は「自分のやり方が正しい」と思い込んで、どこか独りよがりになっていて……。その過信が本番でのミスにつながり、日本一には届きませんでした。

      その後、技能五輪のコーチになったものの、指導した選手がなかなか良い成績を収めることができず、自分の考えの甘さや至らなさを痛感した時期がありました。

      ──とても苦い経験をされたんですね。そこからどうやって世界一になったんですか?

      ありがたいことに、「製造チームチャレンジ」の職種で、国際大会のメンバーとなるチャンスをいただいたんです。そこで集まった3人は全員「全国大会で日本一になれなかった者同士」でした。

      だからこそ「絶対に国際大会で金メダルを取る」という強い思いで、納得のいくまで皆で話し合いました。互いに足りない部分を補い合うために何をすべきかを考え抜き、チームで挑む中で、物事をより深く考えられるようになったんです。

      結果的に金メダルを取ることができましたが、1人では決して得られなかったものだと思っています。競技を通して、技術だけでなく「人のつながり」や「感謝の気持ち」の大切さを身をもって学んだ経験でした。

      ──仲間と本気で向き合ったからこその金メダルだったんですね。そうした経験を積むことで、コーチとしての教え方も変わりましたか?

      はい。以前は、自分のノウハウを伝えなければと必死でしたが、復帰後は選手と一緒に考えながら、「自分で最適解を導き出せる」ようにする指導へ切り替えました。

      競技の中では、迷いが生じることも、予期せぬトラブルが起きることもあります。そんな時にも、自ら考え抜いた経験があれば「状況に応じて最善の判断を下す力」になるんです。そうした思いのもと指導を続け、コーチ復帰1年目に、指導した選手が結果を残した時は本当にうれしかったです。

      ──技能五輪選手の指導の後、試作品の加工や製造現場での工程改善に携わり、生産技術部ではSiC生産システム開発業務も経験したそうですね。現場・開発業務の経験は現在の指導にどう生きていますか?

      現場では品質・安全・コスト・納期を同時に成り立たせる必要があります。その難しさを身をもって体験したからこそ、まだ現場を知らない学園生に「現場ではこの考え方がなぜ必要なのか」を説得力をもって伝えられると感じています。

      また、チームメイトが何を考えていて、どう伝えれば届くのかをとことん考え、本気で対話した経験や、現場でさまざまな人間関係を築いてきた経験が、指導者として、学園生一人ひとりに向き合う姿勢に生かされています。

      ※ SiCとは、炭化ケイ素を用いた次世代パワー半導体材料のこと

      作業台が並ぶ実習場で技能訓練に取り組む学園生たち
      作業帽と保護メガネを着用し、画面を見つめる学園生
      実習場で円になって話を聞く学園生たち

      真にAIを使いこなすために必要なのは、現場で培った経験と問いの深さ

      ──ここからは、近年のモノづくりに関する環境の変化について伺わせてください。DXやAIを使った自動化が進む中で、沓名さんはどのような思いを持っていますか?

      作業の効率化により、人間が本来深く考えるべきところに時間を使えるようになったのは大きな利点だと思っています。ただ、何の経験もないままに、簡単に情報を得られることで満足してしまったり、他者とのつながりが希薄になったりすることには懸念があります。

      だからこそ、私が技能五輪で培ったスキルや経験とともに、自ら考える力や、周囲と協力する力を伝えるようにしています。

      ──変化する時代の中でも、経験やつながりといった「基盤」が重要なんですね。

      そうですね。とくに経験という点で、モノづくりの現場は大切です。現場には、音や振動、匂い、温度といった、データ化されていない情報が無数にあります。

      数値上は適正範囲内であっても、小さな「バリ」や打痕、傷による「むくれ」など、微細な違和感を直感的に察知する──こうした能力は、長年経験を積み、五感を働かせてきた人間ならではの強みです。DXやAIが進む中でも、現地現物で培ってきた経験が、モノづくりの基盤になると思います。

      ──そうして培ってきた経験をもとに、AIとは今後どのように向き合っていくべきでしょうか?

      AIは「副操縦士」のように隣でサポートしてくれるパートナーだと捉えています。それに対して、最終的な判断や取捨選択をして責任を負うのが人間の役割です。

      技術は日々進化するので、技能や行動をデータ化することも、いずれ可能になるかもしれません。しかし、人の思いや信念、どこに向かうべきかという大義は、AIが受け継ぐことはできません。

      問いを与える人間側の思考が深くなければ、AIから良い答えを引き出すことはできません。自分の中に技術や知識、思考のプロセスが備わっていて初めて、AIを真に使いこなせるのだと思います。人間が考え、研鑽することをやめてしまったら本末転倒ですから。

      机の上に置かれたライオンのマスコットがついた筆箱、ノート
      クラブ活動やボランティア募集が書かれた学園のホワイトボード
      沓名 佑太

      人が育つから、モノづくりは進化する。受け継がれていくデンソーの文化

      ──技術が進化していく中で、これからのデンソーのモノづくりはどのように変わっていくと思いますか?

      「技能」「人間力」「AIなどのデジタル技術」の融合です。どれか1つだけに偏るのではなく、それぞれの強みを自覚し、現場でうまく共存させたモノづくりが求められる時代になると思っています。

      ──融合と共存が軸になってくるんですね。そうした時代の変化の中でも変わることがない、デンソーの核は何でしょうか?

      「人を育てる文化」です。デンソー工業学園の歴史が示すように、この文化は70年以上脈々と受け継がれてきました。どんなにAIや技術が進歩しても、最終的に考え、新たな価値を創造するのは「人」なんです。

      だからこそ私も、指導員という道に進みました。自分が現場で得た学びや考え方を、なるべく多くの人に伝え、活躍をサポートしていきたいと思っています。

      ──次世代へ受け継ぎ、活躍の土台をつくる。まさにデンソーの核を担う挑戦ですね。指導員としての、今後の展望を教えてください。

      めざしているのは、自己満足に陥らないモノづくりを実践できる人財の育成です。「何のために、誰に価値を届けるのか」という目的を常に自問自答し、自分のことだけでなく周りの仲間や現場全体を見渡しながら、チームで大きな成果を出せる人になってほしいと思っています。

      一番の願いは、私が伝えた考え方を「自分の引き出し」として持った教え子たちが、現場で生き生きと活躍してくれることです。それ以上にうれしいことはありません。そうなるためにも、学園生と一緒に成長しながら指導力をさらに磨いていきたいです。

      教室で学園生と向き合う沓名 佑太

      ※ 記載内容は2026年8月時点のものです

      キャリア・生き方

      執筆:talentbook 撮影:幡野広志

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