入社から10年を経て、ソフトウェアエンジニアに転身

──きっかけはキャリア転進プログラム

デンソーに入社して以来、機械設計の分野で経験を積んできた岡村 知晋。学生時代からソフトウェアで自動車開発に携わりたいという想いがありました。入社10年以上を経た2022年、念願が叶い、部署異動を果たします。岡村の背中を押したのは、デンソーが全社で推進する「キャリア転進プログラム」でした。

この記事の目次

    ソフトウェア分野への憧れとジレンマ

    ──岡村さんまずは現在の業務内容を教えていただけますか?

    岡村:電子PFソフトウェア技術部という、自動車に搭載されるさまざまなマイクロコンピューター(マイコン)の上で動作する、カーナビゲーションや先進安全などのアプリケーションが、マイコンによらず動作できるような環境(プラットフォーム)を開発している部署に所属しています。

    主な業務内容は、アプリケーションを開発している部門から、対象のマイコンとプラットフォームに対する要求をヒアリングし、調査や分析をしながらソフトウェアの設計です。

    ──入社当初はソフトウェア開発ではなく、機械設計の部門にいたとお聞きました。キャリアチェンジの背景には、どういった想いがあったのでしょうか?

    岡村:入社以来、機械設計の部門で長らく自動車のオルタネータ(発電機)や駆動用モーターのハードウェア開発に従事してきました。しかし、もともとソフトウェア開発に携わりたいという想いをずっと持っていました。

    というのも、僕は幼少期から父の影響でパソコンが大好きで、高校も大学も情報学部を専攻しました。小さな画面上で組み立てたプログラムが、現実のモノを動かすということにとても感動し、いつかこのような仕事がしたいと思うようになりました。

    就職活動の際には、今までの知識を活かしていきたいということも込めて、ソフトウェアの開発に携わることを軸として入社を決めたのですが、希望先にたどり着くまでにちょっと時間がかかってしまいましたね。

    ──では、ずっとソフトウェア部門への異動を希望されてきたのですか?

    岡村:実はそうなんです。当時の上司とのキャリア面談などで、折に触れて希望は伝えてきました。しかし、そう言いながらも、学生時代とは違う分野で勉強することも大切だと考え、入社後5〜6年は目の前の仕事に必死に取り組むことを選択し、いずれ機会がめぐってくるといいなと思っていました。

    そんな状態が続き、6年目くらいになったころには、内心どこかで「もうここまで来たらその機会もないかな」と思っていたのも事実です。正直半分くらい諦めもあり、今の部署で折り合いをつけてやっていこうかな……と思っていたところに転機が訪れました。

    どうせ苦労するのなら、自分の本当に好きなことで

    ──ソフトウェア部門への異動は、不安を乗り越えた大きなキャリアチェンジに思えます。そうしたなかで、あらためて部署異動を希望されたのは、何がきっかけだったのでしょうか?

    岡村:2021年1月からキャリア転進プログラム(※)という新たな人事制度が全社で開始され、エントリーするか “自分の本心” と向き合ったことがきっかけです。前述のとおり、転進したい想いは常に上司に伝えていました。

    しかし、今振り返ると、この制度ができるまでは本当に転進できるという確信を持てていなかったのかもしれません。この制度にエントリーすることによって、“入社以来の念願の想いが叶うかもしれない” と思うと同時に、ソフトウェア開発に対する不安などが湧いてきました。“異動できたとしても、5〜6年ソフトウェア開発で経験を重ねた人たちと同じような仕事ができるだろうか?本当にやっていけるんだろうか?”という不安が拭えなかったんですよね。

    ですが、それにずっと向き合い続けているうちに“どうせ苦労するなら、好きな分野で苦労するほうがいい”“どちらの業務も新たな学びが必要なら、思い切ってずっと想い続けてきた、ソフトウェアの道で挑戦していこう”と思いました。

    すると、何かが吹っ切れたように、携わる覚悟ができました。

    そうした気持ちの整理をして、晴れてプログラムに参加することになりました。参加できると知ったときは、やはりまた不安な気持ちにもなりましたが、うれしさのほうが大きかったですね。

    ──10年来の念願だった異動に一歩前進されたんですね。プログラムでもっとも学びになったことは何でしょうか?

    岡村:基礎的なプログラミングを学び直すことができたのも良かったですが、やはりソフトウェア開発における最新のトレンドを知ることができたのは大きいと思います。と同時に自分の知識が学生時代のまま止まってしまっていることを痛感しましたね。

    講師は自動車に関わるソフトウェア開発をしてきた外部の方だったので、自動車産業を取り巻く外部環境や具体的な業務活用事例なども交え実践的に話してくださりました。異動した先の部署でも、学んだことが早速生きていると感じます。

    また、他の参加者からも大いに刺激をもらいましたね。同じようにソフトウェアの部署に異動したいという想いを持った人たちで、かつ同じぐらいの年代の人もいました。同じように違う部署に移ろうと頑張っている姿を見ると、「この歳でキャリアチェンジしてやっていけるのだろうか?」という不安もなくなり、とても励みになりました。

    ※キャリア転進プログラム:2カ月半の座学研修でプログラミングの基礎や、デンソーの業務に役立つソフトウェア開発の知識を学んだ後、さらに2カ月半の仮配属で適正を見て、ソフトウェア開発部門へと異動することができます。研修開始前から仮配属までの間、転進者がメンターとなり個別相談ができる環境も整っており、業務の合間に受ける研修ではなく、部署異動扱いとなるため、朝から夕方まで研修に集中できるのが特徴です

    新たな環境で得るやりがいと、気づかされる強み

    ──2カ月半の研修を経て、現在の部署に配属されてからはいかがですか?

    岡村:強く関心を持つ領域を扱う部署に配属されたことで、これまでよりも「一個一個の枝葉まで調べてみよう」など自主的に学ぶことに対する意欲が湧いてきますね。「なるほど!こうやると動くんだ」と仕事でわからなかったことが理解できる瞬間はとても楽しいなと思いますし、そんな瞬間が増えたと感じています。

    もちろん周囲のメンバーと比べるとまだまだ知識や経験が足りていません。「こんなこともできないのかと思われているのではないか」と、情けなく思うこともあります。でも、自分が本当に好きでやりたかったことだから大丈夫。そう考え直し、少しでも早く追いつけるよう頑張っています。

    ──新しい部署でこれまでの経験が活きていると感じることもありますか?

    岡村:プロジェクトマネジメントの点で、これまで取り組んできたことが活かされていると実感しています。私が配属された部署には、たまたまプロジェクトリーダーが不在で、計画や日々の業務管理が手薄になっているところがありました。なので、自分から積極的にメンバーの間を取り持つように立ち回ったところ、全体の生産性を高めることができたんです。

    そのとき、仕事に必要なスキルというのは決して技術的なことだけではないのだと、あらためて気づかされました。新しい部署で必要な知識が不足している状態でも、自分でも気づかずに積み上げてきたスキルで貢献できるということを実感しました。

    ──チームマネジメントで心がけていることはありますか?

    進捗管理をするというとメンバーも身構えてしまうので、「困っていることはない?」と声をかけるようにしています。進んでいることは言いやすいですが、「遅れている」ことは言いづらいと思うんですよね。なので、「困っていること」を聞くようにしています。すると、それなりに何かしら言いたくなるようで、後になって「実は……」みたいなことがなくなりました。言いやすい空気はつくれているのかなと思います。

    実はこれは、前の部署で労働組合の委員を担っていた時の経験から得た気づきだったんです。ちょうどそのとき、全社で「本音で語り合える職場づくり」に取り組んでいるタイミングで、「言いやすい雰囲気を作らないと困りごとってなかなか出てこないんだな」と学びました。そこでの経験をチームマネジメントで活用することで、自分なりのスタイルができあがってきたのかなと思います。

    異なる部署での経験を生かし、さらに挑戦し続けること

    ──異動したことでご自身のキャリアの展望は変わりましたか?

    岡村:異なる領域を経験しているからこその視点を養い、技術に限らずより広く見渡せるマネージャーになりたいと思うようになりました。現在の上司からも「同じ分野に居続けるとどうしても専門的な視点になってしまうけれど、マネジメントは技術面の詳細に気を配るのではなく、広い視野で全体を把握することが必要になってくる。今回の異動をきっかけに、身につけて成長していってほしい」とアドバイスしてもらったんです。

    技術とマネジメントスキルのちょうど良いバランスを見つけることはまだできておらず道半ばですが、今後、新しい部署で必要な経験を重ねることで、そうした道が開けていくと思っています。

    ──ソフトウェアという念願だった領域で、今後チャレンジしたいことはありますか?

    岡村:ちょうど事業部の方針としても、社内にしか提供していない製品を社外にも提供していこうという気運が高まっています。外に目を向けると、今よりも新しいさまざまな知識や考え方も必要になると思うので、少しずつでも新しいことを取り込んでいっていずれは外部のお客様に対してソフトウェアを提供するような業務に携わっていきたいですね。

    また、社外にソフトウェアを提供していくことで、より標準的なソフトウェア開発もできるようになるはずです。「デンソーのソフトウェアはすごい!」と外部からも評価していただけるような仕事に挑戦したいです。

    ※ 記載内容は2023年8月時点のものです

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