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デンソーボート部「デンソーオルカリス」でキャプテンを務める山本 昌奈。大学でボートと出会って急成長し、デンソーでは6年目を迎えました。競技と社業を両立させ、従業員たちとの絆を深める中でどんな気づきがあったのか。そして、「多くの人の心にボートの魅力を刻みたい」とさらなる飛躍を誓う思いを話します。
この記事の目次
大学でボートと出会い、とりこに。デンソー監督に直談判して加入
──ボートを始めたのは大学時代だそうですね。どんなきっかけでしたか?
大学に入学して最初の頃は、みんなでいろんなスポーツを楽しむサークルに入っていました。でも夢中になれる感じではなくて、少しもやもやした気持ちだったんです。
そんな1年生の夏、キャンパスを歩いていたら大学のボート部のキャプテンから「練習の見学に来ない?」と声をかけられたんです。身長が172cmと高かったので、競技に向いていると思われたのかもしれません。
キャプテンがいきいきと話している様子から普段の活動が充実していることがすぐにわかりました。試乗会でボートに乗ってみると、水面をスーッと滑るような感じがとても心地よくて。ちゃんと漕げているのかわからないけれど「いいよ、いいよ」と言われて気分がよくなり、入部を決めました(笑)。

──ボートに情熱を傾ける中で、ターニングポイントになる出来事はありましたか?
大学4年生の時、キャプテンを務め、関西選手権で優勝できたことですね。大会で1番になるのが初めてだったのでとてもうれしくて、その時「卒業後もまだまだボートを続けたい」と思ったんです。そして、今があります。
──デンソーにはどのような経緯で入社したのですか?
とあるボートの大会で知り合った選手に「卒業後もボートをやりたいんだよね」と話したら、「私、今度デンソーの練習に参加するよ」と言ってくれて。その時、「これはチャンス!私もデンソーのボート部の練習に参加したい!」と思ったんです。
実際にデンソーに行くと設備は整っているし、選手の皆さんは貫禄が漂っていてかっこいいと感じました。その場で三本 和明監督に「私、卒業後も競技を続けたいんです」と直接伝えてみると、「じゃあ、デンソーでやってみたらいいじゃん」と言ってくださって。このお話を断ったら自分にボートをする未来はないと思い、入社を即決しました。

デンソーの技術と共に歩んでいくスポーツの価値
──ボート部の拠点があるデンソー先端技術研究所との関係も教えてください。
ボート部は、1991年に発足したデンソー先端技術研究所(当時は基礎研究所)と共に活動を始めました。先端技術研究所は先端機能材料やAIの研究、自動運転分野の研究開発・実証などをしている研究所で、ボートの練習をサポートするアプリも開発し、私たちの技術の強化に協力してくれています。
──どんなアプリですか?
ボートのコース逸脱を防ぐためのアプリです。ボート競技は進行方向に背を向けて漕ぐので、慣れない場所だと川岸の消波ブロックなどに衝突する心配があるんですが、アプリは逸脱前に注意を促してくれます。先進技術を駆使したデンソーならではのサポートですよね。

──ボートをしながら社業にも携わっているのですか?
はい。毎日、午前の練習を終えると午後からは先端研総括室で働いています。主に各種契約書の電子化や、会議室、備品の管理などを担当し、業務はスポーツやセカンドキャリアに向けても大事な勉強の場だと思っています。
──従業員の皆さんによるボート部への応援をどう感じていますか?
本当に感謝の気持ちでいっぱいです。いつも「今日の練習はどうだった?」と気にかけてくれたり、「魅せるレースをありがとう」と言ってもらえたりして、徐々に「私が頑張ることでみんなを勇気づけ、会社に貢献できるんだ」と強く認識するようになりました。
こうして従業員の皆さんと一緒に歩んでいくプロセスにこそ、スポーツの価値があると感じています。

新種目に挑み、世界選手権に参戦。トップ選手の力に圧倒される
──最近取り組んでいるビーチスプリントとはどんな種目ですか?
2028年のロサンゼルス・オリンピックで新たに採用される、ボート競技の1種目です。1対1の対戦形式で、砂浜を走ってボートに乗り込み、沖合に設けられた目印を通過して砂浜に戻り、フラッグを先に取った選手の勝ちです。

──なぜ挑戦することに?
新種目でどの選手も手探り状態だからこそ、挑戦のしがいがあると感じましたし、自分の成長のきっかけにもなればと始めました。
──今年7月の全国大会では、いきなり優勝。どんなレースでしたか?
この結果には自分でも驚いています。日本海の荒れた波を楽しみながら果敢に挑む選手がいた中で、私は慎重に漕ぎ続け、気づいたら勝ち上がっていましたね。優勝したことで今年9月の世界選手権の代表に選ばれ、手応えをつかみました。
砂浜で走る力を身につけるために坂道ダッシュを繰り返したり、デンソーにすでにあった専用ボートで感触を確かめたりして準備してきたのが生きたと思います。

──世界選手権に出場して感じたことを教えてください。
下位に終わり、自分の力のなさを痛感しました。周りには190cmほどの女子選手もいて、トップ選手たちの漕ぎ始めの勢いにまず圧倒されて。
荒れる波への対応力も抜群。ただ一生懸命に漕ぐだけじゃなく、時には漕がずに波にうまく乗っかるなどボートを自在に操っていて、コンディションの悪さも味方につけるようなテクニックに刺激を受けました。
今後、この種目でオリンピックをめざすかどうかはまだわかりませんが、後輩たちには種目自体のおもしろさを伝えていきたいと思っています。
ボートをもっと身近な競技に。新たな練習拠点でさらなる飛躍を

──ボート部は最近、先端技術研究所のそばにある愛知池に加え、名古屋の中川運河でも練習するようになったと聞きました。その経緯を教えてください。
愛知池では終盤にカーブに差しかかるので減速せざるをえず、トレーニング効果が少し落ちていたんです。中川運河ではその問題が解消されるので、レース終盤の力尽きそうな場面で踏ん張れるようにラストスパートをさらに磨いていきたいです。

──あらためて、ご自身にとってボートとはどんな存在ですか?
先日、三本監督から「ボートがあなたにもたらしてくれたものは大きいよね」と言われて、その通りだなとしみじみ感じました。ボートと出会わなければデンソーへの加入もなかったでしょうし、キャプテンとしてさまざまな場面で対応したり、日本代表として世界のトップ選手と交流したりすることもなかったと思います。
──今後、この競技をより広めていきたい思いはありますか?
その思いが膨らんできていますね。ボート部の地域貢献活動として子どもたちに競技を教える際にも、「子どもたちが夢中になれるものの選択肢のひとつにボートを加えてほしい」と願っています。
そして、強豪ではない大学から日本一をめざすような実業団に加入できた自分の経験を通して、「必ずしも強豪校出身でなくてもボートを続ける道はある」ということも伝えていきたいと思っています。

──どんな未来になってほしいと思い描いていますか?
日本の皆さんにとって、もっと身近な競技になってほしいです。海外ではボートが日常生活にとけ込んでいて、住民の皆さんがお食事をしながらお酒を飲んでいるようなリバーサイド付近で試合や練習が行われています。
なので、ボート部の新しい練習拠点の中川運河では、多くの人に私たちの練習などを見ていただけたら最高だなと思っています。私がボートの上から手を振ったら手を振り返してくれるような、ささいな交流を積み重ねて、最終的にたくさんの人たちの心にボートの魅力が刻まれていったらとてもうれしいです。ボートは本当に楽しくて気持ちのいいスポーツです。

※ 記載内容は2024年10月時点のものです
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