空飛ぶクルマで大切な“軽量化”と“効率化”をどう実現したか

デンソーが独自開発したインバーターとSiCのしくみ

デンソーが挑戦する“空飛ぶクルマ”のエンジンはどのような仕組みなのか——。株式会社デンソーが主催する「DENSO Tech Links Tokyo #11」では、空のモビリティ開発に取り組んでいる社員が、空飛ぶクルマの開発について話しました。ここでは、エレクトリフィケーション機器技術1部 開発室の木村光徳氏が、デンソーが独自開発したインバーターとSiC(シリコンカーバイド)について紹介します。

この記事の目次

    電気自動車のインバーター

    木村光徳氏: はじめに、インバーターという電力変換機について、あまり馴染みのない方も多くいらっしゃると思いますので、電気自動車を例にとり、インバーターの説明を先にします。

    高電圧バッテリーの直流の電力を交流電力に変換して、モーターを駆動する。またモーターの回生電力を直流電力に変換して、バッテリーを充電する。こういった動作をコントロールする電力変換機が、インバーターです。

    こちらの回路図に示すように、半導体のスイッチ6つを使うのと、電力平滑用のコンデンサーというものが主な構成部品になっています。この半導体のスイッチングモジュールのスイッチをオンオフ制御すること、つまりモーターの三相巻線に印加される電圧を制御することで、モーターが駆動します。これがインバーターの特徴になります。

    これらは半導体のスイッチング素子ですが、理想的なスイッチではないので、半導体スイッチをオンにして電流が流れる間、またスイッチングをするたびに損失が発生し、発熱します。

    この発熱を抑えることが、インバーターを開発するにあたって大きなポイントになっています。車両向けインバーターでは、この半導体素子の発熱を水に落として、ラジエーターで空気に放熱するという方式、いわゆる水冷方式を取っております。

    デンソー製のインバーター

    次にデンソー製のインバーターの特徴を説明します。従来、片面冷却方式といって、半導体素子の熱を片面から冷却する構造を取っていましたが、デンソーでは半導体モジュールの両面に冷却機を配置し、半導体素子の熱を両側から冷やす、両面冷却という構造を取っています。

    こうすることで、従来の片面冷却と比較して、約2倍の冷却能力を実現しています。この技術で、小型・高出力密度を可能にしています。

    両面冷却の技術は、両面から熱を引くというアイデアに加えて、デンソーがラジエーターで培ってきた熱交換器の技術、また内製の半導体モジュールの技術、それを実現する生産技術、これらを融合して実現しました。

    ここまで、車両向けインバーターの説明をしましたが、ここからは、車両と空モビ(空のモビリティ)の特徴、違いについて触れていきたいと思います。

    機体の総重量を比べると、クルマと空モビはほとんど変わらない重量です。それに対して、モーターとインバーター、電駆動システムの機体総重量に占める割合がクルマと空モビで大きく違うことがわかります。

    この重量は、燃費、飛行距離に直結する重要なファクターになるので、空モビでは軽量化が非常に価値が高く、ここがクルマと空モビの大きな違いと捉えています。

    私たちはこの軽量化に向けてのアプローチとして、先ほどお話しした半導体素子を低損失化し、従来クルマで採用していた水冷構造を簡素化して空冷化することで、システムトータルで軽量化を実現していくことを狙って、開発を進めています。

    本日は空冷構造については詳しくお話できませんが、今回は低損失化のキー技術であるSiC技術について紹介します。車両向けのインバーターではシリコンデバイスが主流ですが、私たちデンソーは内製で、次世代の素子であるSiCを開発しています。

    SiCとシリコンの比較・特徴

    ここからSiCとシリコンの特徴について簡単に説明します。SiCとSi(シリコン)とを、それぞれの物性値、またそれに紐づく物理特性で比較したグラフがこちらです。

    低損失・高耐圧と関わる絶縁破壊電界強度、大電力動作に関わる熱伝導率、耐量に関わる融点、高速動作に関わる飽和速度、高温動作に関わるエネルギーギャップ、すべての特性において、SiCがシリコンを上回っていることがわかります。

    このことからも、SiCが大出力に対応しており、また低損失、高温、高速で駆動する素子であることがわかります。最初のスライドで説明しましたが、半導体スイッチング素子は理想的なスイッチではないので、スイッチングするたびに損失が発生します。

    スイッチをオンして電流が流れる間に発生する損失を「導通損失」、スイッチングするたびに発生する損失を「スイッチング損失」と呼んでいます。

    まず導通損失についてですが、絶縁破壊電界強度において、SiCはシリコンに対して約10倍の強度を持っているので、耐圧を確保しながら、電流が流れる時には抵抗として振る舞うドリフト層の厚みを、およそ10分の1にすることが可能です。こうすることで、大幅に導通損失を低減可能になっています。

    またスイッチング損失に関しては、こちらも理想的なスイッチではないので、スイッチングをするたびに電圧と電流がクロスするような領域が存在し、電圧×電流で損失が発生しています。

    SiCは高速で駆動できるので、その期間を極限まで短くできて、スイッチング損失を大幅に低減可能になります。

    デンソー製SiCの特徴

    次に、デンソー製のSiC技術の特徴について説明します。デンソー製SiC技術「REVOSIC(R)(レボシック)」と呼んでいますが、高品質、低損失を実現するSiC技術の総称で、確信的な技術で世界を変革する、そういった意味を込めて、REVOSIC(R)(レボシック)と名付けています。

    業界最高品質、超低欠陥を誇る6インチウエハから高効率を実現したパワーモジュール、またそれを駆動するインバーターまで、総合的にデンソーでは技術開発を進めています。

    まず高品質を支える技術として、低欠陥RAFウエハという技術を紹介します。RAFとはRepeated A-Face growth methodの略で、異方向の結晶成長を繰り返すことで、欠陥を非常に少なくできる技術で、高品質なSiC結晶を成長させる技術です。

    この技術を用いることで、高品質に加えて、大きな面積を高い歩留まりで実現することが可能になります。

    続いて低損失を支える技術として、トレンチゲート型MOSFETを採用しています。このトレンチゲート構造を採用することで、セルピッチを狭くできて、複数のSiCセルを並べることで、低オン抵抗、低導通損失を実現しています。以上がデンソー製SiC技術の特徴になります。

    私たちは車両向けの開発を通して、ほかにも今回ご紹介できなかったさまざまなインバーターに関わる要素技術を磨いてきました。これらの技術に加えて、SiCの技術や、本日ご説明できなかった空冷の技術を加えて、空のモビリティにチャレンジしています。

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