再生可能エネルギーシフトを加速させる、充放電サービス

グローバル視点で挑む、エネルギー問題の解決

  • 自動車&ライフソリューション部齋藤 功太郎

    家電メーカーを経て、2013年1月デンソー入社。現在は、エネルギー関連のシステム開発を推進している。

地球温暖化は世界的な問題となり、再生可能エネルギーを始めとしたエネルギー利用の大転換が始まっている。デンソーはモビリティのみならずHEMSや充放電器でも、以前からエネルギーマネジメントに取り組んできた。これまで培って来たノウハウを活かしたインフラ側の電動車充放電サービスによって、デンソーはカーボンニュートラルな社会の実現を目指す。

この記事の目次

    モビリティのノウハウで、エネルギー問題に取り組む

    世界的に再生可能エネルギーへの転換が始まっています。自動車メーカーも電動車へのシフトを前面に押し出すところが増えてきました。そうした中、デンソーはエネルギーマネジメントの新事業を始めようとしていると伺いました。そもそも、デンソーとエネルギーマネジメントはどのような関わりなのでしょうか?

    斎藤:皆さんの印象ですと、デンソーはクルマの部品を手がけている会社でしょう。デンソーはこれまで、環境への負荷を減らせるよう、クルマ内部でのエネルギーマネジメントにずっと取り組んできました。そうした技術を活用すれば、クルマだけでなく、より広い社会にも貢献できるのではないか。そういう思いのもと、実は以前からエネルギー関連製品も積極的に展開してきました。

    たとえばカーエアコンのノウハウを活用した全館空調システムや、ヒートポンプ技術を用いた世界初の「自然冷媒家庭用給湯機エコキュート」などです。
    2011年には、HEMS(Home Energy Management System)、つまり家庭においてエネルギーを効率的に使うためのシステムを発表しています。このHEMSはユーザーが電力消費量をリアルタイムにモニターできるというもので、無駄な消費電力への気づきを与えて省エネ行動を喚起します。

    2014年からは、自動エネルギーマネジメント機能も搭載され、太陽光発電の余剰電力は、自動的に蓄電池や充電器を介して電動車両に蓄電したり、家庭内で活用したりすることができるようになりました。お客さまが余剰電力を気にし、手動制御する手間を省いて時短につながります。2011年にはHEMSの通信プロトコルであるECHONET Liteが経産省に標準規格として認定され、各社から対応機器が登場しました。こうした機器もHEMSにつないでお客さまがお持ちのスマホやタブレットで宅外から遠隔制御することができます。
    そして2019年にデンソーが発表した製品が、「V2H-充放電器」です。V2Hとは、Vehicle To Home、つまり電動車用電池を家庭でも活用するための製品です。太陽光発電でつくった電力を電動車に貯めておき、家庭内の機器や電動車の走行に使用することができます。

    V2H-充放電器
    V2H-充放電器

    V2H-充放電器の企画は、どういったところから始まったのですか?

    斎藤:2011年は未曽有の東日本大震災があった年であり、昨今でも台風などの自然災害による停電は増加傾向にあります。いざという時にモビリティの電力を家庭で使うことができれば、お客さまに安心を提供できるのではないか。それはモビリティの価値を上げることにもつながるだろう、そういう開発意図がありました。

    V2H-充放電器は、HEMSと連携して動作するのですか?

    斎藤:V2H-充放電器単独でもエネルギーマネジメントは行えますが、HEMSと組み合わせることで、さらにいろいろな機能が使えるようになります。たとえば天気予報をもとに翌日が晴れであれば、太陽光発電で家庭内の電力を賄いつつ、電動車を充電することができます。翌日が雨であれば、安い夜間電力で充電を行うことで、いざ翌日使いたいときに電動車の電池が足りないというトラブルを予防します。
    そしてHEMSやV2H-充放電器などでのノウハウを活かし、技術を発展させて「電動車充放電サービス」を開発しています。

    デンソー製HEMSと連携し、天気予報連携で太陽光の余剰電力を有効活用できる
    デンソー製HEMSと連携し、天気予報連携で太陽光の余剰電力を有効活用できる
    デンソー製HEMSと連携し、天気予報連携で太陽光の余剰電力を有効活用できる

    電動車をまとめて管理する充放電サービス

    どんなサービスになるのでしょうか?

    斎藤:これまでのHEMSは主に戸建て住宅を対象にしていましたが、電動車充放電サービスではさらに対象を広くし、集合住宅や事業所などでの活用を視野に入れています。
    このサービスでは、集合住宅や事業所などの駐車場で電動車を充電スタンドにつないだとき、電動車の電池の充放電を適切に制御するシステムを提供します。たとえば集合住宅や事業所の場合、住人や社員が使いたいタイミングでモビリティを使えなければ困ってしまいます。利用者がモビリティを使いたいときに邪魔をせず、なおかつ夜間電力や太陽光発電も使って電気代を節約したり、必要に応じて電動車の電池を放電させたりして活用することを目指しています。当然、停電や電力ピークが発生するような有事の際には、電動車の電池から電力を供給することも可能です。
    デンソーは、電動車の電池劣化を抑制できる、電池に優しい充放電のノウハウを蓄積していますので、それも技術として取り入れていきたいと考えています。

    どういうところから企画は始まったのでしょう?

    斎藤:ガソリン車は、ガソリンスタンドで燃料を補充することが必要で、燃料の状況を常に意識する必要がありますよね。しかし電動車で、なおかつ自宅や会社で手軽に充電できる環境が整えられたら、燃料切れの心配がなくなり、気軽に利用することができるようになります。
    市場ヒアリングをすると電動車を購入したい方は多いのですが、導入における課題も見えてきました。個人の4割は集合住宅にお住まいなのですが、電動車を購入したくても充電インフラが完備されているところは少数派です。
    また電動車を導入したい法人のお客さまも多いのですが、「導入すると電気代が増えてしまうのではないか?」、「営業車を使いたいときに充電中で使えないのでないか?」といった心配の声を頂くことがあります。
    そうした課題を一つひとつインフラ側からも解決していくことが電動車の普及に必要不可欠と考えています。

    最近では、VPP(バーチャルパワープラント)が話題になっています。これは、太陽光発電や蓄電池、電動車や住宅設備などをまとめて管理し、地域の発電や蓄電を1つの発電所のようにコントールする仕組みですが、電動車充放電サービスも関わりますか?

    斎藤:はい、大きな意味を持ちます。
    カーボンニュートラルを実現するためにモビリティの電動化はどんどん進んでいますが、モビリティが電動化するだけでは不十分です。発電の段階で化石燃料を使って電動車に充電していては、環境に優しいとはいえません。
    再生可能エネルギーへのシフトが社会的なコンセンサスになってきていますが、問題は再生可能エネルギーの不安定さです。悪天候で発電できないとき、あるいは逆に余剰電力が出たときなどに、再生可能エネルギーの不安定さを吸収し、送電網に負担を掛けないことが重要です。
    今後ますますVPPが果たす役割は大きくなるでしょうし、そこで電動車の電池も大事な役割を担うことになる。それは私たちがサービスを開発するモチベーションにもなっています。

    VPPによって地域全体で電力をシェアして使用量の調整ができる
    VPPによって地域全体で電力をシェアして使用量の調整ができる

    サービスの構成は、どうなっているのでしょうか?

    斎藤:システムとしては、大きく2つの要素に分かれています。
    1つは、エッジ側です。弊社のV2H-充放電器などに接続されるIoT端末を開発中です。この端末には、電力の計量や遠隔制御のための機能が搭載されます。
    もう1つはサーバー側です。複数の端末から情報を集約して分析し、個々の充放電器に最適な充電・放電の指示を出します。
    特にポイントとなるのは、サーバー側のアルゴリズムです。

    電動車充放電サービスの構成
    電動車充放電サービスの構成

    HEMSやV2H-充放電器でもエネルギーマネジメントを行ってきましたが、このサービスではどのような点が異なるのですか?

    斎藤:夜間電力や太陽光発電を活用してピークカットを行う部分に関しては、これまでに培って来た技術と共通部分が多くあります。電力の計測などに関しても、社内のさまざまなシーズ技術を活用しています。
    大きく異なるのは、複数台のモビリティを扱うということです。モビリティの使い方は、利用者によってさまざまです。ある車両は午前中によく使われる一方で、別の車両は午後に使われるかもしれません。全部の車両を同じように充放電していては、お客さまの使い方に合わなくなってしまう。こうした課題解決のカギを握るのが、「エネルギーマネジメントのための新たなアルゴリズム」です。
    サービスのシステムは、2ステップで開発を進めていく予定です。第1段階では、集合住宅や事業所など、1つのカテゴリー内でしっかりとエネルギーマネジメントを行う。お客さまの邪魔をせずに、効率的に電力を使えるようにシステムを開発しています。そして第2段階として、社会が電力を必要とするときは放電も行えるシステムを目指しています。

    グローバル視点でエネルギー問題に挑みたい

    ここでもカギになるのは、ソフトウェアなのですね。

    斎藤:デンソーでは、In-Car(モビリティ内部のシステム)、Out-Car(モビリティ外部のシステム)の両面でさまざまな技術を培って来ました。こうした技術をお客さまの嬉しさにつなげるのが、私たちのミッションです。
    技術を形にしてタイムリーにお客さまに届けるには、やはりソフトウェアの力が必要になります。

    電動車充放電サービスのシステム開発では、どんな人材が求められているのでしょうか?

    斎藤:システムの機能アップはサーバー側がメインになりますから、ソフトウェアやクラウドなどに関するスキルがあることが望ましいですが、「エネルギーに関する社会課題を解決したい」という気持ちも大きな推進力になります。
    再生可能エネルギーへのシフトによる環境問題への対応、お客さまに対する利便性の提供。そうしたことに社会的な意義を感じ、実現したいという熱意。システムの要件を作って実装し、プロジェクトをマネジメントし、お客さまに嬉しさを届ける。そこに面白さを感じる方と一緒に、サービスを作り上げていきたいと考えています。

    サービスの海外展開も考えられていますか?

    斎藤:最初は日本国内で始めることになりますが、もちろんグローバル展開も視野に入っています。
    エネルギー問題は日本だけの課題ではありません。再生可能エネルギーへのシフトは欧州で大きなトレンドになっていますし、現在化石燃料が主力のアジア圏でも盛んになってくると思います。どの地域、国においても、再生可能エネルギーへのシフト、電動車の普及を目指すとなれば、既存電力網との連携など同じような課題に直面することになります。
    デンソーは海外拠点も多く現地との連携も盛んに行っていますので、グローバルに活躍するチャンスもあります。

    エネルギーマネジメントシステムやVPPとなると、集合住宅や事業所を持つ企業以外にも、さまざまなパートナーと協力することになりそうですね。

    斎藤:パートナーやお客さまの要望をくみ取って、仕様を決めて実際のシステムを作り、PoC(概念実証)をする。お客さまのフィードバックをもとに機能を改善するなど、いろいろな業務を一気通貫で進められる面白さがあると思います。
    お客さまに成果物を直接届けられることは、エンジニアとして大きなやりがいを感じます。

    適したポジションやイベントがある場合は、個別に連絡が届きます。
    こちらからぜひキャリア登録をご検討ください。

    デンソーの生活関連機器の詳しい特長や事例紹介は、こちらをご覧ください。

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