エネルギーの地産地消モデルを福島から次世代へ

デンソー福島の工場が目指す、水素の利活用を通じた地域活性化

カーボンニュートラルやエネルギーレジリエンスの観点から、エネルギーの地産地消が重要になります。そのための鍵となるのが水素です。

水素の利活用とともに地域活性化を目指し、エネルギーの地産地消に挑戦しているデンソー福島。

「新しいエネルギー社会のモデルを福島から発信する」という想いをもち、地域の皆さんと力を合わせて活動を続ける、その取り組みをご紹介します。

この記事の目次

    なぜ、エネルギーの地産地消が重要なのか?

    2050年におけるカーボンニュートラルの実現や、各地で起きている地震や台風などの災害を契機に、エネルギーの地産地消を目指す動きが活発になっています。

    エネルギーの地産地消は、「非常時のエネルギー供給の確保」「エネルギーの効率的活用」「エネルギー供給への参画」「電力系統の負荷軽減」などの意義があることに加え、「地域活性化」にも貢献するとされています。

    こうしたエネルギーの地産地消を実現するために、注目されているのが太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー。
    しかし、再生可能エネルギーは気候による生産量の変動が激しく、安定性に課題があります。その課題を解消するには、エネルギーを蓄えるための仕組みが重要です。

    エネルギーを貯める手段として蓄電池がありますが、蓄電池は長期間・大量にエネルギーを貯蔵するのには適しません。

    こうした課題を解決するために、貯蔵・輸送がしやすいという特性を持つ「水素」が注目されています。

    水素の利活用には「つくる」「はこぶ」「ためる」「つかう」という段階があります。
    地域で生まれる再生可能エネルギーの余剰を用いて製造した水素を、同じ地域で貯蔵、そして適切に活用できれば、エネルギーを無駄なく地産地消できるようになるのです。

    こうしたエネルギーの地産地消を目指した水素の取り組みを、デンソー福島の工場で始めています。

    工場を起点にエネルギーの地産地消を

    デンソーでは2035年に、工場のカーボンニュートラル化を目指して活動を行っています。
    日本で排出されるCO2における製造業の占める割合は全体の約4割。脱炭素化に向けて、製造業には果たすべき大きな責任があります。

    工場のカーボンニュートラル化のためには、電力のカーボンニュートラル化や生産設備の省電力化が求められます。工場の中でも、工業炉や工業用バーナーのように化石燃料由来の設備を備えている工場は、エネルギーの脱炭素化が必要不可欠です。

    工場の特性や地域の特性によって、カーボンニュートラル化へのアプローチは様々です。

    福島県では、県全体を新しいエネルギー社会のモデルを創り出す拠点にすることで、エネルギー分野から復興を後押ししようとする取り組みが行われています。

    こうした福島県の取り組みに呼応する形で、デンソー福島の工場では、カーボンニュートラル化のモデル工場として先行的に脱炭素化に挑戦しています。その取り組みの一環として、将来のクリーンエネルギーとして注目されている、「水素」の利活用を進めています。
    工場敷地内の太陽光パネルで発電した電力を使用し、水電解装置で水素を「つくる」、そして工場の燃焼炉で「つかう」、その2つの技術開発と実証を行おうとしています。
    このような水素を活用したエネルギーの地産地消モデルを構築することで、水素を「はこぶ」ためのエネルギーやコストの削減を可能にします。

    デンソーからトヨタ自動車に出向し、福島県で、水素利活用による工場や地域の脱炭素化プロジェクトを担当している樋口 和弘は、赴任した当時の印象をこう語ります。

    「最初に福島に来た時に感じたのは、まだまだ復興途上の地域が残されているということでした。
    その雰囲気を肌で感じたとき、なにか、自分たちの取り組みで地域に貢献出来ることはないかと考えるようになりました。」(樋口)

    デンソー福島は、2011年3月11日の東日本大震災が起きた際、震災の前日に完成したばかりの工場を近隣住民の避難先として開放しました。

    震災直後に生まれていた地域との絆。それが水素という媒介を通じて、新たに紡がれようとしています。

    地域のみなさんに寄り添いながら進めていくということ

    「自分たちのやりたいことではなく、地域の人がやりたいことに寄り添いなさい」
    ──デンソーの有馬社長からそう言われ、自らも強く意識してきたという樋口。
    福島に赴任して以来、積極的に水素やエネルギーに関しての勉強会や講演会への登壇を重ねてきました。

    「エネルギーの地産地消に向けた水素の利活用推進は、1社でできることではありません。様々な企業の方々との連携があってこそ目指せるものです。
    ですので、まずは地域企業の方々と共に、水素とはどのようなものかを一緒に考えることから始めました。水素に興味を持っていただきつつも、なかなか自社との関係がイメージしにくい、というのが実際いただいたお声にありました。
    そこで、デンソー福島の工場に導入する水電解装置の中をお見せします、と伝えています。
    さらに、デンソーが持っている環境技術やノウハウを発信することが、地域企業の皆様が検討を深めるヒントになり、長期的な目線で脱炭素化にチャレンジしていくきっかけになれたらいいなと考えているんです」(樋口)

    地域企業の方々とお話する上で樋口が重視しているのが、未来へ向けて試行錯誤を重ねていく必要があるということ。

    「水素の利活用推進と言いますと、聞こえはいいですが、実際に設備を導入したり、運用をしていくにはコストがまだまだ高いという課題があります。脱炭素化は進めなければならないけれど、会社が成り立たなくなってしまっては意味がありません。

    どのように水素を利活用していくのが、環境的にも経済合理性的にも適切なのか。私達が率先して実証を行いながら、地域の皆さんと議論を重ね、試行錯誤を繰り返していくことで、福島において最適なアプローチを共に考えていければと考えています。」

    と樋口はいいます。

    「以前、福島県知事が『福島は震災で灰色になったが、復興して白色になり、そして今、色をつけていく段階になった』とおっしゃっていたことが印象に残っています。私たちは、水素を通じて、これからの福島に素敵な色をつけることに貢献したい。」(樋口)

    福島から水素の地産地消のモデルを世界に広げる

    2023年3月より、水素を「つくる」実証を始めました。トヨタ自動車が開発した水電解装置を工場へ実装しています。デンソー福島内で自家発電した再生可能エネルギーを使用して、水素の製造を行っていきます。

    また、水素を「つかう」においては、2023年の秋頃を目標に、工場内で発生した排出ガスを無害化するアフターバーナー炉で使用している燃料を、水素に置き換えようとしています。水素を高温で燃焼させるとNOxガスが発生するという課題がありますが、デンソーの燃料シミュレーション技術を応用し、NOxガス排出の抑制ができるように設計・開発を進めています。炉のような、電化が難しい熱需要設備において、化石由来燃料から、燃焼時にCO2を出さない水素燃料に置き換えて「つかう」ことで、工場全体の脱炭素化の実現につなげることができると考えています。

    「今年ようやく、デンソー福島内で水素を「つくり」「つかう」ことができるようになります。水素の利活用に関して具体的にお伝えできることがさらに増えます。これらの取り組みは、まだまだ始まったばかりですが、私はデンソー福島の工場をショーケースにしていきたいと考えています。

    水素に興味がある方々に来ていただいて、私達の取り組みをご紹介し、共にカーボンニュートラルな未来について考える、そんな場所です。
    ここでの会話をきっかけに地域の皆さんと繋がり、一緒に新たな仕事を創り出していく。そんな場所にしていきたいですね」(樋口)

    福島の一部から、ゆくゆくは東北の他県、日本の他地域へ。工場や、それ以外の施設にも、水素を利活用するための技術を広げていく。いずれ、世界に日本の水素の技術力を広げていく際の起点が福島となる、そんな未来図を描いて樋口は活動しています。

    「水素は、まだまだ未知の可能性を明らかにしていくフェーズにあります。各地でその地域なりの目的をもって、水素の実証に取り組まれています。

    カーボンニュートラルに向けた取り組みは、一社ではどうにもなりません。今は、取り組みの仲間づくりが必要な段階です。

    長い道のりを、根気強く歩む必要があります。次世代のために挑戦されている方と、共に取り組んでいきたい。福島には、エネルギッシュに活動する方々がたくさんいらっしゃるんです。

    そういう方々と議論を重ねたり、未来を担う若い世代と関わったりして、少しでも地域のお役に立つことをやっていければ。
    水素はそのコミュニケーションツールの1つでもあると考えています」(樋口)

    SHARE

    https://www.denso.com/jp/ja/driven-base/project/fukushima_factory/

    ・2050年のカーボンニュートラル実現や各地での災害を契機に、エネルギーの地産地消を目指す動きが活発に

    ・地産地消という観点では再生可能エネルギーは気候による生産量の変動が激しく、安定性に課題がある。その解決にはエネルギーを蓄えるための仕組みが必要で、貯蔵・輸送がしやすい「水素」が注目

    ・デンソー福島工場では、2035年までに工場のカーボンニュートラル化を目指している。工場敷地内の太陽光パネルで発電した電力を使用し、水電解装置で水素を「つくる」、工場の燃焼炉で「つかう」、その2つの技術開発と実証に取り組んでいる

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