地域の困りごとを解決する地域情報配信サービス「ライフビジョン」

テクノロジーの力で地域の個性を活かしながら持続可能な経済社会を目指す。

この世界に、同じ町はひとつもありません。それぞれに個性があり、そこにしかない体験、そこにしかない人生があります。人・モノ・情報の移動をもっと自由にして、暮らしの不安や不便をとりのぞいていくこと。また、文化や歴史、そして住民同士の交流など、「そこにしかないもの」 を紡ぎ合わせていくことで、その土地でしか味わうことのできない喜びを際立たせていくことができる。そんな思いを胸に、デンソーはあらゆる地域の困りごと解決のプラットフォーム 「ライフビジョン」 の開発を進めています。

この記事の目次

    大きく変わる、“場所” の考え方

    なにかと忙しい現代人。満員電車で人の海に埋もれてしまったり、スマホの使い過ぎで情報に溺れてしまったりすることもしばしば。せわしない日常の中で、「時間に余裕をもって人生を楽しみたい」と、スローライフやデュアルライフのような、地方に拠点を構える生き方を選ぶ人が増えてきました。

    コロナ禍はその流れをさらに加速させました。会社に行かなくても、ふつうに仕事できちゃうんだな、という状況をみんなが一斉に体験できたことで、場所にとらわれない働き方が、より身近なものになってきています。

    「人が多い都会の方が、豊かで便利だ」 という考え方も変わりつつあります。
    モノがたくさんあるのと同じくらい、パーソナルスペースや時間のゆとりがたくさんあることもまた、人生を豊かにする大切な要素であるという感覚を、多くの人が体感する機会となりました。

    いま、自分らしくいられる場所や、自分のペースに合う時間が流れる場所を求めて、「地方でのより良い暮らし」 が注目され始めています。そして、そんな人々の願いを叶えるために、テクノロジーは急速に進化しています。
    では、わたしたちを “場所の制約から解放してくれるテクノロジー” とは、いったいどんなものなのでしょうか?

    “あらゆる移動” をつなぐプラットフォーム

    わたしたちを場所の制約から解放するためには、人・モノ・情報、あらゆる移動の制約をひとつずつなくしていくことが大切です。今、世界中でその実証実験が進められています。

    例えば「人の移動」。自動運転の低速走行モビリティが街中を走り始め、運転免許を持たないお年寄りの方でも、街中を自由に移動できるようになっています。観光客にとっても、その街の人や文化と触れ合えるよいきっかけになっていくでしょう。

    「モノの移動」も劇的に変わっていきます。例えば、ドローンによる配達は、交通インフラの整っていない離島などにも気軽にモノが運べるようになります。モバイル冷凍庫は、生鮮食品やワクチンなど、繊細な温度管理を必要とするものを、インフラ設備に依存せずに配送することを可能にしていくでしょう。

    「情報の移動」も、人の移動が制限されたコロナ禍の社会において、今後必要になる変化の輪郭がいくつか浮かび上がってきました。

    「行政の手続きも自宅でやれるようにしてほしい」
    「学級閉鎖になっても、リモートで授業を滞りなく進めてほしい 」
    「寝たきりの祖母の診察をオンラインでやってほしい 」

    そうした、生活者の「こうだったらいいな」を叶える地域の人・モノ・情報の移動をつなぐプラットフォームがあれば、全国各地、あらゆる自治体の暮らしを、もっと豊かに彩ることができる――そんな未来を見据えながら、デンソーは地域情報配信システム「ライフビジョン」の開発を進めています。

    「だれひとり取り残さない」 情報プラットフォームのあり方

    ライフビジョンの基本機能は、自治体と住民をつなぐ情報サービスアプリです。自治体が発信する暮らしに関する大事なお知らせが一元化され、住民はそれらをアプリで簡単に取得できます。こうした基本機能にプラスして、見守りサービスやデマンド交通との連携など、地域ニーズに合わせた機能を柔軟に追加していけるところが、大きな特徴となっています。

    ただ、どれだけ革新的な技術・サービスであったとしても、その地域の住民の日常に溶け込む存在でなくては意味がありません。言うのは簡単ですが、老若男女どのようなステータスの人でも使いやすく、誰も取り残さず、それでいて時代にも取り残されない。一体どのように作っていけば、そんなサービスの形を実現できるのでしょうか。

    まず、スマホ利用前提のサービスになってはいけない。現時点では、スマホに限らず、特定のデバイスを持っていない人、使いこなせていない人でも使いやすいものを目指すべきです。そのため、ライフビジョンはマルチデバイスに対応しています。その上で、IT機器を使い慣れていないお年寄りを考慮すると、アプリをインストールしたタブレット端末を配布するのがベストと考えました。ライフビジョンのタブレット端末には、重要なお知らせを音声で読み上げる機能を搭載しています。仮に積極的に使わなかったとしても、家に置いておくだけで防災無線や回覧板の代替となる。これが各戸に配布されれば、今までよりもローコストかつ確実に、大切な情報を住民に届けられます。

    そして、何よりも重要なのは、地域ごとの特色に合わせて機能をカスタマイズしやすくする「システムの柔軟性」。この条件をクリアするために、開発チームがこだわったのは外部サービスとの連携のしやすさでした。基本的な機能をシンプルかつ最小限に押さえる一方で、さまざまな外部サービスとのシステム連携が取りやすいように、拡張性を幅広く持たせていく。地域ごとの課題は多岐にわたり、そのすべてをデンソーの持っている技術やノウハウだけで解決することは難しい。だからこそ、地域に対して思いを同じくするサービサーの方々と、積極的に協業していけるようなシステムを設計しています。

    そんな、あらゆる地域、あらゆる人々の暮らしに寄り添い、太く長く支えていく情報インフラを目指すライフビジョン。今、このライフビジョンを使って、地域の未来を明るく照らしていこうとするアクションの輪が、全国に大きく広がろうとしています。

    住民の声が、「その町らしさ」 を育てていく

    2021年11月現在、ライフビジョンは全国各地の48自治体で活用されています。さまざまな導入事例を振り返りつつ、プロジェクトリーダーの杉山は「私たち作り手の想像を超えて、うまく使いこなしていただいている地域が多い」 とうれしそうに語ります。

    「ライフビジョンには、防災用途で住民側から自治体に情報を送信できる双方向機能がいくつかあります。それを使って住民の皆さんが日常からよくアップロードするのは、道路の破損状況だったりするんです。ちょっとした陥没でも、見つけたら写真を撮って位置情報と一緒に送ってくれるんですよ。私たちは“防災”と聞くと、大きな災害への備えを想像しがちですが、地域に必要な防災情報とは、もっと普段の生活の延長線上にあるものなんだと気づかされました。

    雨であのエリアが冠水している。あそこで熊が出たから注意しよう。迷い人や迷い犬を探してほしい……。
    日常の小さな、けれども切実な困りごとがみんなに共有され、自治体や地域の人たちがすぐに解決に向けたアクションが取れる。そんなシーンでライフビジョンが堅実に役に立っているのは、とてもうれしいですね」(杉山)

    ライフビジョンが活躍しているのは、防災関連のフィールドだけではありません。地域に密着した生活情報の発信源としても、うまく活用されています。プロジェクトメンバーは、ライフビジョンが導入されている各地に足繁く通いながらヒアリングを行ない、地域ごとに合わせた使い方について調整を図っています。

    「例えば、人口もそこまで多くなく、みんなが顔見知りのような地域では、毎日の『おくやみ情報』が重要な機能として重宝されていたりします。防災無線では聞き逃してしまうこともありましたが、発信履歴が残るライフビジョンでは、後からでも確実に知ることができます。また別の港町では、スーパーが町にないので、朝一番で漁港にどんな魚がどれくらい水揚げされたかというお知らせを見て、漁港に直接魚を買いに行くということが当たり前の日常になっていたりします。どんな生活情報がどういったタイミングで求められているのかは、地域によって本当にさまざまです。

    なので、私たちは、自治体の方々と密に連携を取りながら、住民の皆さんとも接する機会を積極的につくっています。かしこまってヒアリングするというよりも、井戸端会議におじゃまするような心持ちで話を聞いていると、外側から眺めているだけでは分からないリアルな生活の様子が垣間見えるんです。そこから『こんな情報が必要なのでは?』というアイデアをもらって、機能のアップデートにも生かしています」

    住民の皆さんの声に耳を澄ませ、その町らしさを取り入れて進化するライフビジョン。独居高齢者の見守りや買い物支援、外出誘発のための情報発信、コミュニティバスとの連携など、すでに各地でさまざまな追加機能が実装されています。

    とことん、住民目線。使い手に寄り添ったサービスにする

    2021年9月、プロジェクトチームは、もっと生活者視点になって現場を感じられるように、ライフビジョンを導入してくれている町にデンソー社員を駐在させる取り組みをスタートさせました。プロジェクトメンバーの髙橋は現在、ライフビジョンを「いねばん」と名付けて活用している京都府伊根町に住み、町役場の企画観光課の職員として働きながら、サービス向上のヒントを探っています。

    「私の役割は、自治体の業務とこの地の生活についての理解を深めることです。ライフビジョンを活用する側の立場になることで、今よりもっと使い手に寄り添ったサービスにしていくためのアイデアを、たくさん見出していけたらと思っています。

    住民の方々に『いねばんを作った会社から来ました』と自己紹介すると、皆さんから『あのタブレットのね。いつもお知らせ見とります。頑張ってや』と声をかけていただけて、自分たちのサービスが本当に地域に根づいて役立っているんだと実感しています。ここで暮らす人々が本当に求めていることを、同じ住民目線になって感じとり、伊根の皆さんの生活がもっと心地よく快適なものになるよう、力を尽くしていきたいです」(髙橋)

    伊根町では、ライフビジョンで簡単に予約ができるデマンドタクシーの運用実験など、新しい取り組みを次々と展開しています。こうしたモビリティサービスとの連携は、まさにデンソーが得意とする領域であり、今後はその強みをさらに生かしたサポートが可能になっていくでしょう。

    「過疎地域では、バスやタクシーの撤退による交通空白地化が進んでいます。今、各地で実験しているデマンド交通との連携は、これまでよりもずっと便利な町の交通インフラになるはずです。運用は少人数でまかなえ、利用者の自宅から目的地まで、ドアtoドアで送迎できることもあって、導入している自治体からの評判も上々です」

    「この先、自動運転車や自律走行ロボットの実用化が進めば、連携の幅はさらに広がりそうですね。ちょっとした買い物や配達なら、ライフビジョンを通してロボットに頼めるようになる日も、そう遠くはないと感じています。複雑なモビリティのシステム制御を長年やってきた私たちにとって、IoT化によってモノを動かすことは得意領域です。そこで培った技術力は、行政の課題解決にもっと生かせるはずだと信じています」

    生活に溶け込む「カームテクノロジー」で“暮らしのあたりまえ”をつくる

    「誰かにとっての特別」ではなく、「あらゆる人のあたりまえ」 をつくりたい――デンソーのものづくりの根幹には、いつもそんな願いが込められています。

    革新的な技術は、一般に受け入れられるまでに時間がかかります。私たちはこれまで、モビリティの領域で「便利な技術を、長年かけて生活に溶け込ませていくこと」に、真摯に取り組んできました。そのようにして生活に溶け込んでいくテクノロジーを「カームテクノロジー」と言い、わたしたちが大切にしている考え方のひとつです。

    このライフビジョンもまた、私たちが社会に実装したいカームテクノロジーのひとつです。技術は住民の声と一緒になって、はじめて生活に織り込まれていく。今ある生活を尊重しながら、さまざまな技術の便利さを、暮らしの中に、その町の日常に、そっと組み込んでいく。あたりまえを更新する難しさを知っているからこそ、そこに時間と手間がかかることを、私たちは厭いません。

    人・モノ・情報の“移動”を円滑にするソリューションを提供して、あらゆる土地の暮らしの不便をなくしたい。場所による制約をなくすことで 「 望む場所で、健やかに暮らし続けられること」があたりまえになってほしい。私たちはライフビジョンというプロジェクトを通じて、あらゆる町の“暮らしのあたりまえ”をアップデートして、人々のウェルビーイングに貢献していきます。

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    https://www.denso.com/jp/ja/driven-base/project/lifevision_1/

    ・スローライフやデュアルライフのように地方に拠点を構えたり、いま場所にとらわれない働き方が身近なものに

    ・そうした暮らしを支えるには、人・モノ・情報、あらゆる移動の制約をなくすことが重要。そこでデンソーは、自治体と住民をつなぐ情報サービスアプリである「ライフビジョン」を開発している

    ・「ライフビジョン」は、自治体が発信するお知らせが一元化されるほか、見守りサービスやデマンド交通との連携など、地域ニーズに合わせた機能を柔軟に追加可能

    ・その地域に住む人々にとっての当たり前であり、生活に溶け込んでいくテクノロジーを実装することで、地域の人々のウェルビーイングに貢献していきたい

    「できてない」 を 「できる」に。
    知と人が集まる場所。