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スマートフォンやコンピューター、家電製品から人工衛星まで、さまざまな電子機器やシステムに使われている「半導体」。なかでも、クルマに搭載される「車載半導体」はHEV(ハイブリッド車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)、BEV(バッテリー電気自動車)へのシフトを加速させるために不可欠であり、近年注目が高まっています。
デンソーの車載半導体事業をリードするセミコンダクタ事業部では、約60年にわたる開発の経験と知見を活かし、モビリティの電動化・知能化はもちろん、車載半導体を応用した社会インフラの構築にも挑戦しようとしています。今回は、事業部が目指す未来とその実現への道筋を、事業部長の松岡直樹が語りました。
この記事の目次
クルマの「電動化」と「知能化」を支える「車載半導体」
「車載半導体」は、エンジン制御から安全装置、通信機能まで、あらゆる車載システムの中枢として機能し、まさにクルマの頭脳としての役割を果たしてきました。
車載半導体には、「マイコン(MCU)&SoC」「パワー&アナログ」「センサー」などが存在します。
パワー&アナログにおける「パワー半導体」は、「電動化」の要となる技術。特に次世代半導体である「SiC(炭化ケイ素)」を用いたパワー半導体は、HEV、PHEVはじめ、BEVのインバーターやモーター制御において不可欠な存在となっています。SiCを用いたパワー半導体は、従来のSi(シリコン)と比較し、電力損失を約70%低減でき、インバーターやパワーモジュールの小型・高効率化に貢献します。これにより航続距離の延長、充電時間の短縮、小型・軽量化を実現。CO₂排出量削減にも大きく貢献できます。
車載制御の中枢を担う「マイコン(MCU)&SoC」は、大規模統合ECU(電子制御ユニット)やクロスドメイン制御の進展により、ソフトウェアとの一体開発が重要性を増しています。
「車載用センサー(カメラ、レーダー、LiDARなど)」については、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転の高度化に不可欠であり、膨大なセンサデータのリアルタイム処理やAIによる認識・判断、車両間・社会インフラとの通信などを担います。デンソーは自社開発で「高信頼性・高精度」を徹底して追求しつつ、戦略パートナーとの連携を深めることで、センサーの性能を最大限引き出す技術力のさらなる強化に取り組んでいます。
「車載用センサーが進化すれば、クルマの「知能化」が加速します。走行状況や交通環境に応じた最適なエネルギー制御が可能となり、無駄な加減速やアイドリングを抑制できます。車両同士やインフラとの連携によるエネルギーマネジメントの最適化が実現すれば、社会全体のCO₂排出量削減にも寄与することができます」
(松岡)
クルマの「知能化」が進むなかで、車載半導体の活用範囲は、民生機器や産業分野、社会インフラへと広がりつつあります。今後は、これら多様な分野への適用も視野に入れて開発を進めていきます。例えば、スマートシティ・社会インフラ分野では、24時間稼働が前提となる電力インフラや通信基地局などに、車載半導体の「耐環境性」「長寿命」「高効率」技術を応用。屋外でのIoT化・デジタル化が進む領域では、電源管理や通信制御用半導体の需要拡大も視野に入れています。
加えて、産業機器・ロボット・データセンター分野では、産業用ロボットやAGV(無人送車)、ドローンなどで、車載半導体の「高信頼性」「省エネ」「小型化」技術がより期待されています。データセンターやサーバー用電源にも、パワー半導体の「高効率化」「小型化」技術が応用されていくでしょう。
「半導体の歴史を振り返ると、最初に進化したのはコンピューターや民生、家電系の半導体でした。その技術が車載半導体に応用されてきたという経緯があります。その技術をさらに磨き上げていけば、産業機械やスマートシティなど、より幅広い領域に適用していくことができると考えています」
(松岡)
デンソーの車載半導体事業における戦略と強み
デンソーの車載半導体事業は、クルマの電動化・知能化を推進するために、高い電圧、大きな電流を扱うことができる半導体である「パワー半導体」、車載制御の中枢を担う「マイコン(MCU)&SoC」、車両の外部環境や車両の状態を感知する「センサー」の3つの領域で、戦略的に事業を展開しています。
その戦略とは、内製化と外部パートナー連携のバランスを最適化すること。半導体産業は設備主体であり、設備開発の初期投資と固定費が大きくなりがちです。
だからこそ、「パワー半導体」や「アナログ半導体」といった自社の強みが活きる領域にリソースを集中させ、効率的な生産体制を構築する必要があります。
そこで私たちは、最先端技術を自社で開発してノウハウを蓄積し、量産段階では専門のファブ(製造受託企業)パートナーに生産を委ねるという方針を採用しています。
「0から1を生み出す開発から、何十〜何百万個と製造できるようになるまでの量産の壁を自社で越え、量産技術として確立してからはパートナーに技術移転する。それによって、品質と効率の両立を実現しようとしています。今後も外部パートナーとの連携を強化しながら、技術の手の内化と効率的な量産体制の構築を進めています」
(松岡)
デンソーの車載半導体事業の強みは、約60年の蓄積によって成り立っている、研究・開発から生産まで一気通貫の開発体制にあります。特に重視しているのが、「垂直統合型のモノづくり」。自社で一貫生産できる体制を長年にわたり構築し、品質・コスト・納期・供給安定性で競争力を発揮できる体制を整えています。この体制により、製品設計から量産技術、品質保証、製造までを担当でき、スピード感ある改善と開発が可能になっています。
加えて、世界中の多くのOEMとの連携や生産・開発拠点をもつことも、強みにつながっています。地域ごとの事情を吸い上げながら、時代に必要な技術戦略を練り込む──。例えば、BEV市場の成長鈍化やHEV/PHEV回帰など、市場の急激な変化に対しても、幅広い顧客基盤とグローバルな視点で柔軟に対応できる体制をつくっています。
「研究・開発・設計・製造・品質保証が密に連携し、製造現場や顧客現場の課題を即座にフィードバックできる体制を構築することで、『現場主義・現地現物の実践』が可能になると考えています。国内外の生産拠点・開発拠点を活用したグローバルな供給体制と現地最適化を推進し、台湾・欧米・国内パートナーとの連携で、最先端技術の取り込みとスケールメリットを両立させています」
(松岡)
車載半導体事業がスタートした1968年まで遡ると、当時、民生用IC(集積回路)は存在していたものの、自動車の過酷な環境(高温・振動・長寿命)に耐えうる半導体は世界的にも未開拓の領域でした。
そうしたなかで、自動車メーカーとしての品質・信頼性要求を満たすため、自ら車載半導体を開発・生産する道を選択。電動化・知能化など、クルマの価値を決めるコア技術を外部依存せず、自社で設計・製造・実装までを担うことで、競争力と差別化を実現してきたのです。
「当時としてはとてつもない巨額を投じて、先人たちは車載半導体を手がけ始めました。その先見の明が、いま大きな礎となっていると強く感じます。その先人たちの礎をより進化させるために、技術・技能人財の育成に注力する組織づくりにも取り組んでいます」
(松岡)
パワー半導体では2つの材料戦略を同時に進め、柔軟に変化に対応する
これらの蓄積を、今後どのように発展させていくのか。直近の方向性としては、「高電圧パワー半導体の競争力強化」と「ASIC(特定用途向け集積回路)開発の強化」です。
高電圧パワー半導体では、SiとSiCという2つの材料を使い分ける戦略を推進しています。戦略パートナーとのSi大口径ウエハ生産により、HEV/PHEV向けの高性能Siパワー半導体の安定供給を進める一方、BEVに有利なSiCの本格投入も加速させています。
「グローバル市場では、一時期BEVへの急速なシフトが進みましたが、現在はHEV/PHEVが見直される動きも出ています。一般的に、HEV/PHEVにはSi、BEVにはSiCという使い分けがなされていますが、多くの半導体メーカーはどちらか一方しか手がけていません。デンソーは2つの材料戦略を進めることで市場変化に柔軟に対応し、競争力強化を図っていきます」
(松岡)
ASIC開発では、車載環境性能に耐えうるSOI-BCD(Silicon On Insulator - Bipolar CMOS DMOS)プロセスを活用し、高温・高電圧・ノイズ耐性など、車載環境に最適化したプロセス技術を自社開発。システムニーズを先回りで形にする設計力により、単なる回路設計にとどまらず、システム全体の使い勝手や将来の拡張性まで見据えた「気の利いたASIC開発」を実現しています。
車載半導体を通じて社会、地球をより良い場所へ変えていくために
車載半導体事業を強化していく上では、さまざまな専門性をもった人財が欠かせません。半導体、電気電子、材料、化学、機械、情報(AI/IoT/ソフトウェア)、生産技術、品質保証、商品・事業・営業・経営の企画、さらにはグローバルな視点や語学力、異文化理解力──あらゆる専門性が統合的に携わることが、これからの事業や課題解決には求められます。同時に、グローバル市場ではBEVとHEV/PHEVの間で需要が揺れ動き、地政学的な変化も供給体制に影響を与えていくでしょう。
「激しい変化のなかでは、デンソー1社や既存の社内資源だけでは、現在直面しているすべての課題を解決することは難しいです。車載半導体事業を通じて世の中を良くしたいというわたしたちの思いに共感していただける仲間と、こうした変化を突破する力をもって技術進展に挑戦していく必要があります。具体的には、半導体技術だけではなく、幅広い分野の知見・経験をもち、変化を恐れず、スピード感をもって挑戦し続けるメンバーを求めています。年次や役職に関係なく活発な意見交換を行う風通しの良さ、挑戦が歓迎されるカルチャーを大事にすることができる方、また、仲間と協力し、ゴールに向かって行動できる『チームワーク・協調性』、自分で考え、行動し、提案・実行できるような『自律性・主体性』、異なる価値観や文化を尊重し、柔軟に学び続けるような『オープンマインドな姿勢』をもつ方にぜひ仲間に加わっていただきたいと考えています」
(松岡)
そして、事業部を率いる松岡は「社会を、ひいては地球をより良いものにしていきたい」という彼自身の思いを次のように語ります。
「この青い地球を守りたい。青臭いかもしれないですが、そうした思いをもって仕事をしています。自動車だけでなく、スマートファクトリーやスマートシティなど、他の産業や社会インフラも電動化・知能化が進むことで、ひとの生活の豊かさや幸福、地球資源の持続可能性・自然環境の改善につながると信じています。車載半導体は、そのための最小かつもっとも重要なキーコンポーネントなのです。その過程のなかに、車載半導体分野においてデンソーが世界一となる──そんな夢がたくさんあります。この夢を、常に忘れないようにしていきたいですね」
(松岡)
デンソーでは、さまざまな専門性をもったメンバーとともに次世代のパワー半導体やASICの開発に取り組んでいます。クルマの電動化・知能化と、モビリティ社会を支えるキーコンポーネントの開発に携わりたいと考えている方は、ぜひ本事業部にご応募いただければ幸いです。
COMMENT
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