あなたの周囲の環境は、どんな状態でしょうか。良い状態?それとも悪い状態?気温や湿度、気圧などのデータは得られますが、それだけで環境の良し悪しを判断するのは難しいものです。

私たちは、どれくらい周辺の“自然と共生”できているのか。それを把握するための客観的な指標は、なかなか定めることができません。“自然と共生”できているかを知るために大切なのは、自然と対話して、その声を聞き取ろうとすること。数値的なデータからの推論による理解だけではなく、自然との関わりを通じて得られる実感が大切なのではないでしょうか。

私たちの食生活にも関わる身近な生物

地球環境はさまざまな要因からダメージを受けています。特に、工場は環境に悪影響を与える大きな要因のひとつとされています。しかし、私たちデンソーのような「ものづくり企業」において、事業と工場は切っても切り離せません。現代において、ものづくり企業が事業を営むには、これまで以上に環境問題への配慮や活動が必要になっています。

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生態系にとっても、環境の変化は大きな影響をもたらします。環境問題によって引き起こされているとされる現象のひとつに、ミツバチが大量に失踪する「蜂群崩壊(ほうぐんほうかい)症候群」が挙げられます。欧州や北米をはじめ、世界各地で年々ミツバチの数が減少しており、将来的には絶滅する可能性もささやかれています。

ミツバチの数が減ると、環境あるいは私たちの暮らしにどのような変化が起こるのでしょうか。2011年の国連環境計画(UNEP)報告書によると、「世界に供給される食料の90%を占める100種類の作物種のうち、70種以上はミツバチが受粉させている」とあります。

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これは、私たちが日常的に食しているイチゴやリンゴなどの果物、キャベツ、ニンジン、ナス、タマネギなどの野菜の多くは、ミツバチのおかげで育っていることを示しています。ミツバチが絶滅すると、これらの果物や野菜がこれまでのようには食べられなくなってしまう。ミツバチと人間の生活は密接につながっているのです。

ミツバチは、周辺環境の良し悪しを教えてくれる「環境指標生物」とも言われます。環境問題がミツバチの生存に影響し、ミツバチの存在は私たちの食生活に影響している。ですから、私たちデンソーは“自然と共生”することを、ミツバチとの関わりを通じて考えていくことができるのではないかと考えました。

地域環境のヘルスメーター、ミツバチの飼育は困難続き

これまでにデンソーは、工場の排水をきれいにし、CO2の再利用を進め、自然界への循環という観点から廃材が土に還りやすい素材を選び、森に木を植え、ゴミ拾い活動をする——といった、自然環境を守るためのさまざまな活動を実施してきました。

いずれも大切な活動であることは間違いありません。ですが、こうした活動によって周辺環境がどれだけ改善されたか、あるいは保たれたかということは、なかなか目に見える結果として現れない。私たちは「これで本当にサステナブルな企業活動と言えるだろうか?」と考えました。

環境がより良い状態であるかを知るために、そして、“自然と共生”していくためにスタートしたのが、ミツバチの飼育に取り組む「みつばちプロジェクト」です。ミツバチの飼育を通じて周辺環境の変化を感じ取り、その体験・体感を生かした環境教育や啓発活動を行う。それにより、緑化活動への理解促進や地域活性化を高めていく活動です。

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プロジェクトにアサインされたデンソーユニティサービスの近藤輝光(以下、近藤)は当初、「なぜミツバチ?」と戸惑ったそうです。「総務部から話をもらい、会社でもミツバチって育てられるんだ。昔はミツバチが主人公のマンガもあったなぁ…なんて思いながら、『それを自分がやるんですか?』という気持ちでしたね」

2015年にプロジェクトがスタート。まずは1年間、工場の屋上でミツバチの飼育に取り組んでみることになりました。

「思っていた以上にミツバチの飼育は大変でした。ミツバチを育てるために、まず巣箱を買ってきました。しばらくしたら、女王バチが巣箱からいなくなってしまったんです。でも、最初は女王バチがいなくなったことにすら気付けないほど、ミツバチのことを知りませんでした」(近藤)

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女王バチの失踪に振り回され、ときにミツバチに刺されて痛みとかゆみに悩まされ…。群れが死滅しないように、ミツバチに寄生するダニを駆除もしました。ミツバチ飼育に日々注力し、苦労を重ねるうちに、次第にミツバチのことが分かるようになっていったそうです。

「ミツバチは、どれくらい興奮しているかで飛ぶスピードや羽音が変わるんです。機嫌が悪くなると羽音も大きくなる。例えば、ミツバチが水たまりを見つけると、その水を飲みに他のミツバチも集まってきます。ただ、ミツバチが集まっていると人は不安になるので、しばらくの間、その場所には注意の看板を出して、より巣に近いところに水のたまり場を作ってあげました。今では、かなりミツバチのことが分かるようになりましたね」(近藤)

ミツバチの飼育に関する理解が深まってから、社内でボランティアを募って活動の輪を広げてきました。「仲間が増えてからは、やりやすくなりました」と近藤。「今では、ボランティアで何年も一緒に活動している人もいます。ミツバチに詳しい人も増えてきました。何万匹というミツバチの中から1匹の女王バチを探す作業も、ボランティアの方々と一緒だとだいぶん楽ですね」(近藤)

ミツバチと過ごすと、環境問題が“自分ごと化”する

デンソーユニティサービスの神谷昌行(以下、神谷)と総務部の大海留美(以下、大海)は、みつばちプロジェクトに新たに加わったメンバーで、当初はプロジェクトの参加に戸惑ったといいます。

「2019年11月に異動して、みつばちプロジェクトに関わるようになりました。以前から活動は知っていましたし、少し関心もありました。しかし、実際にやってみるとこれがとても難しい。ミツバチの飼育のためには、覚えなければならないことが数え切れないほどあって、驚きの連続でした。最近、ようやく女王バチが見分けられるようになってきたんです。それでも、まだまだ覚えることばかりですね」(神谷)

大海が驚いたのは、ミツバチの面倒を見ることの大変さでした。「ボランティアの参加者が多いので、お昼時間に気軽に参加できる活動だと思っていたんです。ですが、ミツバチの世話をするには、お昼の日照が強い時間帯に防護服を着なければなりません。汗だくになりながら、刺されるかもしれない緊張状態の中で活動するボランティアの方々は本当にすごいなと思いました」(大海)

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「ミツバチ飼育の苦労を体験しながらも、少しずつ慣れてきた」と話す神谷には、日常の生活においてもさまざまな変化が起きているといいます。

「はちみつに対する考え方が変わりましたね。1匹のミツバチが生涯で作り出せるはちみつは小さじ1杯分しかありません。以前は、食卓ではちみつを食べるとき、そんなことを気にすることもなく好きなだけ食べていました。でも、プロジェクトに関わるようになってから、人はミツバチが生涯をかけて作り出した貴重なはちみつの余剰を分けてもらっているんだ、と考えるようになったんです。今では、はちみつは大事にしないといけないな、と思いながら食べています」(神谷)

近藤も、みつばちプロジェクトに関わることで、日々の生活における視点が変化してきたと語ります。

「通勤中に、飛んでいるミツバチに気付くようになりました。こんな街中にもミツバチが生きていけるだけの花があるんだなと、普段の生活の中で周りを見るときの視点が変わりました。ミツバチの飼育には天候が影響するので、天気予報は毎日確実にチェックしていますし、気候変動も意識するようになりました」(近藤)

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人間は暑くなってもエアコンで快適に過ごせますが、ミツバチはそうはいきません。プロジェクトのメンバーは、ミツバチの飼育に関わることで環境の変化を“自分ごと”として捉えられるようになりました。大海は、「気候変動のような大きな変化だけでなく、周辺環境のちょっとした変化にも敏感になった」と話します。

「ミツバチが生きられないのは、その周辺の自然が豊かではないことの証です。自分たちの周囲で、環境変化にとても敏感なミツバチが生きていけることに、ホッとしました。ミツバチは遠くに飛べば飛ぶほど寿命が短くなる生き物。ミツバチのために、以前にも増して周辺の緑化が大事だと考えるようになりました。今は、ミツバチが生きていける環境を、人が手を加えて整えていますが、それがなくともミツバチが生きられるようになるといいなと思います」(大海)

ミツバチの飼育は負担も大きく大変な作業。プロジェクトの関係者は、それを継続してやり続けることで、“自然と共生”することの複雑さ、大切さをミツバチから教えてもらっています。

自然と対話し、自然との共生を体感する

私たちは、ミツバチを介して“自然と共生”できているかを測る指標を持とうとしています。数値的なデータとして表すことはできないかもしれません。ただ、数値に現れなくとも現場での実感を大切にする風土がデンソーにはあります。

デンソーは、事業に関わるあらゆる場面において生じるエネルギーに向き合っています。作るとき、使うとき、捨てるとき——生産活動のサイクルを通じて、環境負荷を最小限に抑える活動をしています。

自分たちのビジネスだけを考えるなら、もっと効率的なやり方があるかもしれません。しかし私たちは、ビジネスだけを考えた効率化はしたくない。環境を守るために何より大切なのは、身近な生態系と真摯に向き合うこと。ミツバチと過ごした時間がそれを教えてくれています。

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