6. 事業領域の拡大
1986-
(2)QRコードの浸透
- 1994年
- バーコード読み取り機器で優位を築いた当社は、画期的な「QRコード」を開発した。QRコードは広く社会に浸透し、情報インフラとして様々な社会課題の解決にも貢献することとなった。

1975年、当社はバーコード読み取り機器の開発に着手した。これがその後のQRコード関連事業にまで発展する、自動認識事業の出発点であった。
- 深掘りバーコード読み取り機器開発の背景
- トヨタ生産方式の中で重要な情報伝達ツールが「かんばん」である。そこには商品名や品番など、個々の商品に関する情報が記載されており、工程間を結んで必要な情報を伝達するツールである。
しかし、1970年代の生産量急増で、処理のマンパワーが追いつかず、生産工程でミスが生じかねない情勢となった。かんばん情報を自動認識するシステムを開発すれば、ヒューマンエラーを防止できる上に、さらに情報化を促進し、工程改善にも貢献できる。そう考えた当社は、かんばん情報のバーコード化と読み取り装置の開発に着手した。

1982年、イメージセンサーを使った、当社独自のバーコードリーダー「BHS-200」を発売した。この製品はコンビニ業界でシェア90%を占めるまでになった。
1987年には、世界初のバーコード・ハンディターミナル「BHT-1」を発売した。この製品は新幹線の社内販売に採用され、情報インフラとして社会になじんでいった。
1990年代に入ると、自動車業界は大量生産から多品種少量生産の時代となり、情報処理ニーズが格段に高まった。こうなると、もはやバーコードでは処理能力の限界を超えていた。
既存製品の延命処置をするよりも、全く新しいものに挑戦したいと考え、1992年に当社は新コードを開発するプロジェクトを立ち上げた。わずか2人からのスタートであった。
米国が先行し、他社も開発にしのぎを削っている状況であった。それでも当社は、「どうせやるなら世界標準を目指そう」という、強い意気込みで開発を進めた。
2年間の試行錯誤を経て、1994年に画期的な2次元コードを完成した。
当社の新コードは、他の2次元コードの10倍以上の高速読み取り、バーコードの数十倍から数百倍の情報収容量という、他を圧倒する能力であった。当社はこの2次元コードを「QR(Quick Response)コード」と名付けた。
- 深掘りQRコードの開発
- 2次元コードの研究で先行する米国では、多様なコードが考案されていたが、読み取りに時間がかかるのが難点であった。当社の新コード開発メンバーは、そこに十分参入の余地があると考えた。
差別化のポイントとして、読み取りやすいコードとすることを必達目標とした。しかし、これは既存技術でクリアできる問題ではなかった。突破口を求めて苦慮するうち、担当者は街のビルが立ち並ぶ風景から、視認を助ける目印としてQRコード独特の「切り出しシンボル」を思いついた。この位置検出パターンを3隅に配置することで、スピーディかつ高精度な認識が可能となった。

情報処理量が格段に増えるため、コード読み取りも従来技術では対応ができなかった。当社は、高速・高精度なQRコード読み取り機器の開発についても、新たに取り組むこととした。
- 深掘りQRコード読み取り機器の開発
- QRコードは、まず自動車業界やアパレル業界の標準として採用され、急速に社会に広まっていった。
この動きに対し、当社はQRコード読み取り機器として1996年にハンドスキャナー「QS10」シリーズを発売し、かんばんシステムの高度情報化に貢献した。1997年にはハンディターミナル「QHT-1000」を発売し、食品トレーサビリティなどに貢献した。2003年にモバイルQRコードに対応したスキャナー「QK10」を発売、2005年には超小型カラー液晶のハンディターミナル「BHT-5000」が登場して評判を呼んだ。
当社のハンディ端末は、まだこの世になかった市場を切り開いてきた先駆的商品であり、多様なニーズに応えるために常に進化を続けてきた。
新開発のQRコードによって、新しい世界的な情報インフラを確立する。これを当社は究極的な目標に据えた。QRコードを広く浸透させるため、当社がとったのは「オープン戦略」と「国際標準化」であった。
「オープン戦略」として、当社はQRコードの特許は保有するが、権利行使はしない方針を決めた。
これにより、多くの企業がQRコード関連分野に参入することが可能となった。その結果、多様な周辺技術が生まれ、利用方法や関連市場が当社の予想を超えるほどに拡大した。
「国際標準化」のためには、国際規格として制定されることが必要であった。それには仕様が明確に定義・公開された上で、業界団体などのアプリケーション規格に採用されなければならない。
当社は1996年に、規格制定に向けた活動を開始した。これにより、いくつかの業界団体の規格に制定された。さらに2000年には、目標であるISO/IEC(国際標準化機構/国際電気標準会議)の国際規格に制定された。
これ以後、QRコードと読み取り機器はさらに進化を続けた。多様な業界に様々な用途で、QRコードの採用が広がっていった。
食品の安全を守るトレーサビリティ、認知症患者の見守り保護、駅ホームドア開閉システムによる旅客保護など、社会課題解決の分野にまで利用が拡大した。QRコードは一層身近なものとなり、社会の情報インフラとして欠かせない重要な存在となった。