第3章 強化の時代

6. 事業領域の拡大

1986-

(3)ロボットによる生産革新

1983年
当社は1960年代から産業用ロボットの開発を手がけてきた。紆余曲折の末、1983年に「ロボット実用化プロジェクト」を立ち上げた。自社での大量活用の経験を活かして外販にも乗り出した。
当社試作第1号ロボット(1969年)
当社試作第1号ロボット(1969年)

1960年代後半、国内の多くの工場では人手不足と長時間労働が常態化し、作業環境が悪化していた。

当社はトランスファーラインを導入したが、それでも問題解決には至らなかった。さらに効果的な施策が必要であった。そこで当社は産業用ロボットに着目した。

1967年、産業用ロボットの開発プロジェクトが発足した。3人の若手技術者による小所帯であったが、目標は大きかった。それは独自技術で独創的なロボットを作り上げることであった。

早くも1969年にはデンソー初のロボットが完成した。しかし、まだ誤作動も多く、以後絶え間ない改良と革新を続けることとなった。

深掘りロボット開発の基本姿勢
担当役員の理想は、24時間稼働する無人化工場であった。真の自働化を追求するにはロボット技術だけを見ていては不十分で、製品や工程を理解して、根本から見直す必要があった。ロボット技術者たちは生産現場に入り込み、工程の生産技術担当者とも一体となって活動を続けた。これが今日まで続く、当社のロボット開発の基本姿勢となった。

1971年、ロボットの事業化を目指して、「ロボット準備室」を設立した。20代の若手社員を集め、劣悪な作業環境から作業者を解放することを開発目的とした。

まず安城製作所のダイカスト工程への導入が進められた。さらに、ロボット外販にも目を向けた。そのための準備も着々と進め、次第に整いつつあった。

1973年、オイルショックが勃発した。この影響で自動車業界でも生産量が落ち込み、設備投資が激減した。

この衝撃は大きかった。当社はロボット外販から社内組立工程のロボット化へと、方向転換せざるをえなくなった。これに伴い、ロボット準備室も解散された。しかし、生産技術活動の中で、当社のロボット関連技術の研究は継続されていた。

小型水平多関節型ロボット(1983年)
小型水平多関節型ロボット(1983年)

1980年代前半に景気が回復に向かうと、当社の生産も勢いを取り戻した。再び労働力の確保が大きな問題となった。当社のロボット開発も考え方を変え、労働集約的な組立作業の自動化こそロボットの仕事であるとされた。

将来を見越して、大量生産型の高速組立ロボットの開発を目指し、1983年に「ロボット実用化プロジェクト」を立ち上げた。

大型や次期型だけでなく、中小規模の生産ラインへの導入も進める必要があった。そこでこのプロジェクトは、従来のロボット開発チームだけでなく、生産関連の各部門も参加する全社的な体制とした。

ロボット実用化プロジェクトは、各製造部にロボット実用化計画を作成してもらい、そこで必要な技術や課題を抽出していった。

これをもとに、「人材教育」「製造技術の開発」「設備のコストダウン」の3分野で幅広く活動を展開した。さらに、ロボットの導入拡大には数値目標も必要だろうということで、「ロボット化率」という指標も新たに設定した。

深掘りロボット実用化プロジェクトの展開
当プロジェクトの第1次活動は、「トップダウンでとにかく使う」ことであった。そのため、摩擦や抵抗も生まれたが、この強硬策は地道な努力で効果を示し、最終年度の1988年に導入台数は1,000台を超えた。
第2次活動では、「より幅広い横展開」をテーマとし、最終年度の1991年に約4,000台の導入となった。
第3次活動では、「ロボットを前提とした生産システム作り」を推進し、1995年に約6,000台となった。
第4次活動では、毎年1,000台以上を導入し、1999年にはついに導入台数の累計が10,000台を超えた。
深掘りロボット人材教育
製造現場へのロボット導入を進めるうち、「ロボットの導入は人材育成と表裏一体。必ず正確な知識と見識を持った担当スタッフを養成しなければならない」という見方が関係者の間で固まった。これに基づき、ロボット開発と並行して、高い技能を持つ作業者を養成するやり方が、当社のロボット開発の基本となった。
ロボット操作技能をより多くの作業者にマスターしてもらうため、ロボット操作の安全教育や認定といった全社ルールを制定した。全ての作業者にロボット操作の技能教育の受講機会を提供し、現場レベルでプログラム修正や品質改善に取り組むことができる土壌を作った。さらに、従来の技能競技会に「ロボット競技」を新設した。
通商産業大臣賞を受賞した移動ロボット
通商産業大臣賞を受賞した移動ロボット

社内でのロボットの実用化が加速すると、トヨタグループの中でもデンソーの高性能なロボットを導入したいという声が高まってきた。

これに応えて、1991年に「ロボット事業プロジェクト室」を設置し、トヨタグループ向けに外販を開始した。1993年には販売特約店を通して全国販売も開始し、事業基盤を着々と固めていった。

ロボットの外販に際して、当社は製品には実績と自信があった。しかし、肝心の販売ノウハウは全くなかった。競合他社との差別化を図るために考えついたのが、顧客から見た「儲かるロボット化」の提案であった。

これを展開していく上で大きな武器となったのが、すでに1991年に自社内で3,000台を超えていた、世界一のロボット導入実績と自社での活用ノウハウであった。当社の独創的な拡販活動が好評を得て、デンソーのロボットへの評価は高まっていった。