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たかだ まき髙田 真希
1989年生まれ。愛知・桜花学園高校時代にバスケットボールで全国大会3冠。2008年にデンソーアイリスに加入し、Wリーグで4度準優勝。五輪にはリオデジャネイロから3大会連続で出場し、東京では主将として日本バスケット史上初のメダル獲得に貢献。コート外ではイベント会社を経営し、スポーツの発展に尽くす。
この記事の目次
悔しさが100%。でも、やりきった感も100%

──Wリーグのファイナルではおつかれさまでした。デンソーの初優勝に向けて今シーズンに懸けてきた想いを聞かせてください。
自分にとって特別な意味を持つシーズンでした。今シーズンインの前にはパリ・オリンピックがあり、オリンピックが終わってほどなく35歳を迎えることもあって、自分の競技人生の区切りをつけるか、現役を続けるかどうかの判断は、オリンピック後に湧いてくる自分の気持ちに委ねようと思ったんです。
そんな中、ファンの方々から「プレーする姿をもっと見たい」という声をたくさんいただき、「応援してくれるファンのために挑戦しよう」と続行を決めました。そして、優勝し応援してくださる方々に恩返しをしようと、強い覚悟を持って臨んだシーズンでした。
──並々ならぬ決意でシーズンを迎え、とくに力を注いだことは何ですか?
チームとしての融合です。主力となるような選手が加入してきた一方で、自分自身はオリンピック後のチーム合流からWリーグ開幕戦までの期間が短く、一緒に練習できる機会が限られていたので、メンバーとは積極的にコミュニケーションをとるように意識しました。たとえば、うまく力を発揮できていなさそうな選手がいれば、「もっと思いきってやっていいよ」とポジティブな声かけをしてきました。

──ファイナルでは最終第5戦までもつれ込んだ末に準優勝に終わり、率直にどんな気持ちでしたか……?
なによりもまず、悔しいという感情が湧いてきて。その「悔しい光景」の中にデンソーのファンの方々がたくさんいて……なんとかして勝ちたかったです。
今シーズンはとくに終盤、ファンの方々が自分たちと同じように「勝ちたい」という気持ちを前面に出して戦ってくれているなと感じていました。「頑張れ!」という声かけやディフェンス時の応援など、レギュラーシーズンよりも声が会場に響きわたり、熱量がどんどん高まっていく感じで。ファンのためにも勝ちたかったという想いと、優勝できなかった申し訳なさがこみ上げてきました。
──Wリーグの仕組みが変わり、これまで以上に大変な部分もあったのではないですか?
17年にわたる社会人経験の中で、一番タフなシーズンでしたね。2ディビジョン制(Wプレミア/Wフューチャーにチームが分かれ、自動昇降格と入替戦が行われるルール)になったことでデンソーは実力最上位のWプレミアに属し、強豪チームと対戦する機会が増えたんです。
ただ、チーム全員で、最後の最後まで試行錯誤しながら走りぬいたという達成感もあります。今の心境としては、悔しさと同じぐらい、本当にやりきったという想いがあるのも事実で、悔しさが50%、やりきった感が50%というよりも「悔しさ100%、やりきった感100%」という感じです。

壁を越えて優勝に迫るために、必要なことは何か
──デンソーアイリスに17シーズン在籍する選手として、チームのどこに成長を感じていますか?
自分のデンソーアイリスへの加入が決まった頃、デンソーはリーグ1部の最下位で入替戦に臨んでいて、翌シーズンは2部で活動するかもという状況だったんです。その時と比べたら、今のチームはすべてにおいて成長していると思います。応援してくださる方々に関しても、当初は会社関係者がほとんどだったのですが、今では全国各地にファンがたくさんいますし、すごくうれしいことですよね。

チームの目標や選手のモチベーションも、確実に上がっています。以前はリーグでベスト4を目標とする中、5位に終わって「ベスト4の壁」を実感していましたが、その壁を突破すると今度は「ファイナルの壁」に直面して。そして、今では「優勝の壁」に向き合っています。
その壁を乗り越えるためには、チーム、そして個人の「殻」を破っていく必要があると思っています。それは、かなり大変なことですが、殻を破らなければ優勝というステージには立てません。
──Wリーグではこれまで4度準優勝し、十分にすばらしい実績だと思いますが、さらに殻を破るためには何が必要だと感じていますか?

何が必要なんですかね……(少し沈黙)。
試合では個々の判断が重要になってくるので、まずは個人の能力を高めること。それに加えて他の4人が素早く連携し、チームとしてスムーズに動いていくことが大切なのかもしれません。
個人の課題というのは一人ひとり違って、それぞれが克服していかなければなりません。たとえば苦しい場面でも手を抜くことなく、前を向いて頑張れるかどうか。試合でプレーするチャンスをなかなかもらえない選手も、日々頑張り続けなきゃいけない。それはチームとして動く上で重要なポイントです。結局のところ、個人の殻を破ることで初めて、チームとして大きな殻を破れるのだと思います。
──デンソー一筋の髙田さんにとって、デンソーアイリスはどのような存在なのでしょうか?
とても愛着がありますね。このチームが心から好きだからこそ、こうして長く競技を続けられているのだと思います。
デンソーアイリスのことを応援してくれる人って、社内にもたくさんいるんです。会社の皆さんの支えがあるからこそ、挑戦し続けられていますし、活躍を励みにしている人たちのためにも頑張らなきゃいけないと自分を奮い立たせています。デンソーという会社自体が大好きです。

結果より過程が大事。丁寧に紡いでいけば花は咲く
──髙田さんは日頃から「結果より過程が大事」と話していますね。なぜ、そう思うようになったのですか?
ずっと、そう思っていたのですが、明確になったのは2021年の東京オリンピックの時です。バスケットを始めた子どもの頃から「オリンピックでメダルを取りたい」と思ってはいたものの、自分が初めて日本代表になった頃には日本がオリンピックの出場権を得ることさえ難しくて。
そこから東京オリンピックで銀メダルを獲得できた際、結果の喜び以上に「今まで頑張ってきてよかった」という想いがこみ上げてきたんです。苦しい時期もありましたが、チームメートと共に頑張り続けてきたことがメダルにつながったのだと実感しました。うまくいかない時って「報われない」という感情に陥りがちですが、一番大事なのは過程。それを丁寧に紡いでいけば、やがて花は咲くと身をもって感じました。
仮に、ですよ。苦しい経験がその分野で実を結ばなかったとしても、何か別のタイミングで活きることはあるはずです。自分自身、コート外でいろんな活動をする中で「バスケットをやっていてよかった」と思う場面はよくあって、それは一般社会でも同じだと思うんですよね。だからこそ、一日一日の準備が大事。「今日頑張ったな。明日も頑張ろう」。その積み重ねなんですよね。

──過去には「すべてを受け入れて積み重ねていくことが、人を大きく成長させていく」とも語っていましたが、自らの成長についてはどう感じていますか?
自分は、バスケットを通してすべてを学んできました。もともと人見知りで、人前で発言したり感情を出したりするのが苦手だったんですが、28歳でチームのキャプテンを任されたのを機に大きく成長できたのではないかと思っています。人前に立つ機会や、リーダーシップを発揮すべき場面が増えるなど、苦手なことに向き合う環境に置かれたことで、殻を破れたと思っています。
バスケットを通して成長させてもらった分、それを多くの方々に還元していきたいと考えています。自分は苦しい経験をたくさんしてきたので、「達人」といえるほどのレベルで立ち直るすべを知っています(笑)。なので、殻を破れず悩んでいる人たちに何らかのヒントを示せたらと思い、今、体験談を話すような取り組みにも積極的に携わっています。

「できるか、できないか」ではなく「やるか、やらないか」
──髙田さんは以前「うまくいかなくても、もっとできると思いながらいろんなことに挑戦するのが大事」とも話していましたが、挑戦のマインドをどう保っているのですか?
自分の中でテーマを設けています。それは、「人生を楽しく豊かに過ごしていく」という生き方です。
たとえば、これまで国内女子バスケット界では現役選手が競技以外の活動や仕事を両立させるような事例はほぼありませんでしたが、私はスポーツの魅力を多くの人に広めたいという想いからイベント会社の経営などにチャレンジしてきました。
前例がない中でやったらどう思われるだろうか、などと考えだすと一歩を踏み出せず、それだと人生は楽しくないし、豊かでもありませんよね。「自分の人生だし、やりたいことはやりたいと思った時にやろう」「人生を楽しく過ごすために、今できることをやっていく」というイメージです。
──髙田さんは何に突き動かされて、ここまで長くバスケットに関わっているのでしょうか?
最大の原動力は、「応援してくれるファンの存在」です。ファンの皆さんがいるから、自分は頑張れています。若い頃は自分のことで精いっぱいでしたが、たくさんの人に応援してもらうことで選手としても、自分の存在意義も高まっていく感じがするんです。
──シーズンが終わったばかりではありますが、今後に向けてはどう考えていますか?
シーズンを最後まで走りぬくことは、そう簡単なことではないので、今後については少し休んでまた自分自身から湧いてくるものを待ってみたいと思っています。ただ、どんな形であってもバスケットに携わり、競技を通してたくさんの人を笑顔にしていきたいです。
──最後に聞かせてください。「できてない」を「できる」に変えるために、一番大切なことは何だと思いますか?

「やるか、やらないか」という考え方ではないでしょうか。「できるか、できないか」で判断すると、やる前から「できない」と自らチャンスをつぶすことになり、すごくもったいないですよね。「できる」という100%の確証がないとやってはいけないわけじゃないですし、むしろ、根拠のない自信も時には大事。意外とうまくいくことや、やってみて初めてわかることもありますから。
もしうまくいかなくても、それは一つの経験として必ず、次につながっていきます。自分の場合はそれを「失敗」ではなく、「経験」と捉えているんです。アプローチの仕方を変えるなどして少しずつ正解に近づいていく過程が大変で、挫折しそうにもなるのですが、やっぱり、やらないことには何も始まりません。
「やるか、やらないか」。そのどちらかしか、道はありません。

※ 記載内容は2025年4月時点のものです
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