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2023.4.5
技術・デザインデンソーが2035年に達成を目指すカーボンニュートラル脱炭素に欠かせない水素の必要性と普及への課題
目標は2035年のカーボンニュートラル達成水素社会実現のためにデンソーができること
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株式会社デンソー 環境ニュートラルシステム開発部 システム開発室Atsushi Nakajima
「DENSO Tech Links #17」では、最近大きな注目を集めている"水素"をテーマに、カーボンニュートラル実現に向けた研究開発の1つである水素社会実現への取り組みや、水素製造・水素活用におけるデンソーならではの技術などを紹介しました。ここで登壇したのはシステム開発室のNakajima氏。水素の必要性と、水素社会実現のためにデンソーができることについて発表しました。
この記事の目次
中島氏の自己紹介
Atsushi Nakajima(以下、Nakajima): デンソーの中島です。よろしくお願いします。今日は「デンソーの水素社会実現に向けた取り組み」ということで、全体像をお話しします。
私の専攻は高分子化学でその後、化学メーカーにて樹脂の開発業務に携わったあと、デンソーではリチウムイオン電池の開発業務に携わっていました。研究開発企画の中で水素に触れるきっかけがあり、現在は水素の事業企画を担当しています。
セッションのアジェンダ
本日はまず、デンソーが目指すカーボンニュートラルとはどんな姿なのか。そして次に、どうしてその中で水素が必要なのかを話したあと、最後にデンソーが水素社会の実現の中で貢献できることをお話ししたいと思います。
デンソーが目指すカーボンニュートラル
まず私たちデンソーは「環境・安心分野で究極の『ゼロ』を目指す」を目標に掲げています。特に環境分野では「モノづくりのCO2排出、そしてお届けした製品から排出されるCO2の排出ゼロ」といった目標を掲げ、2035年までに生産活動でのカーボンニュートラルを目指し、取り組みを進めています。
中でもモノづくりに関しては、地球保護の観点から再エネ中心の循環型社会を求める声が今後も強まっていくと考えており、カーボンニュートラルなデンソーのモノづくりを社会へ普及させ、エネルギー循環型社会を実現したいと考えています。カーボンニュートラルなデンソーのモノづくりをまずは自社で実現して、それを社会に普及させる。こういった考え方に特徴があります。
基本的な考え方をこちらに示します。縦軸はCO2の排出量を示していますが、一番左側にあるように、2020年に190万トンのCO2を排出しています。内訳は電力由来と、都市ガス由来のものになっています。
これらのCO2排出量を省エネ・再エネ発電の導入、再エネ電力の調達といったプロセスを経て、2025年までに電力のカーボンニュートラルを達成するという計画を立てています。
都市ガスについては、そのまま購入しますが、クレジットによるオフセットを考えています。2035年に向けてはこの都市ガスの一部を、カーボンニュートラルのガス、具体的には水素や合成メタンなどの燃料へ代替を進めていくのと同時に、どうしても都市ガスからの代替が困難なところは、排出するCO2を技術的にオフセットする、回収することに取り組んでいきたいと考えています。
特に2035年に関しては、まだ実用化された技術がないので、自社での開発や仲間づくりを通じて戦略を実現していきたいと考えています。
2035年の姿になりますが、先ほどお話ししたように再生可能エネルギーを電気のまま最大限に使うことを中心に考えつつも、そこで生じる変動や余剰の電力を電池や水素、カーボンニュートラル燃料として一度蓄えて、町や工場が必要とする電気や熱、燃料や素材といったものをタイムリーに供給するシステムが必要になると考えています。私たちはこの実現に必要な電池や水素を作る、使う、CO2を回収する、カーボンニュートラル燃料を合成する。このような技術の開発に努めています。
私たちは先の目標を2020年12月に公表しています。この2ヶ月前には当時の菅首相から「2050年カーボンニュートラル」の宣言があり、同時期にはヨーロッパやアメリカといった地域、または先進的な企業から同じような発表があったと記憶しています。
こうした流れの中でデンソーも目標値を公表したわけですが、少し訝しい目で見ると、流行に乗った、非常にチャレンジングな目標を設定したと捉えられがちかと思います。この部分に関しては、私たちとしてはもう少し深刻にこの事態を見ています。
それは、このような不可逆な価値観の変化は、私たちの経営にとって大きな影響があると考えているからです。
具体的にお話しすると、化石燃料を使って作られる製品やそれによって動く工場が社会的に容認されなくなっていく。つまり、そのような工場で作られた製品は世の中の皆さまに購入してもらえなくなり、競争力を喪失する危機感を覚えています。
このような状況を避けるためには、先進的なカーボンニュートラルに取り組んでいる地域で私たちは生産せざるを得なくなるので、将来的に国内で生産できなくなる危機感も覚えています。
こういった状況の中で、2050年に向けて社会がただ変わっていくのを見ているわけにはいきません。競合が先にカーボンニュートラルな製品を出してくることになります。私たちはそういった企業に負けないように、2035年にカーボンニュートラルを達成する目標を設定しました。
水素が必要な理由
まずはデンソーが目指すカーボンニュートラルについて説明しました。続いて、先ほど電池やCO2回収といった開発も行っているとお話しましたが、今日のテーマである水素がなぜ必要なのかについて説明します。
まずは左側の円グラフを見てください。これは温室効果ガスの年間排出量を示していますが、一番左側の青いところは火力発電所から排出されるCO2の内訳になっています。一方で、赤で囲ったところは、需要家、つまり私たちや企業から排出されるCO2になっています。CO2の排出源としては、ガソリンや都市ガスといった化石燃料が相当します。
社会全体をカーボンニュートラルにしていく。そのためには発電所だけではなくて、こういった需要家で使われる化石燃料の電化や水素化が必要になってきます。この水素の用途として、一般的には燃料電池で発電することがメジャーですが、いろいろと用途があります。
もちろん、FCV(Fuel Cell Vehicle)のようなクルマを動かす駆動用の燃料とか、燃料電池のような発電用の燃料、産業用途ではボイラーや炉といったところでは熱が必要になるので、熱用の燃料が考えられます。また、現在すでに水素にはさまざまな用途があり、こういった用途では、化石燃料の石炭とか、天然ガスに由来する水素が使われています。
つまりその水素を再生可能エネルギー由来のクリーンな水素に置き換えることによって、大きく脱炭素化することが可能になります。このように需要家が使う分野での脱炭素化に対して、水素は必要不可欠であることが理解していただけたかと思います。
また、この円グラフでお話ししたように、火力発電所が4割を占めていますが、ここの脱炭素化に関しても、水素やアンモニアを燃焼させることによる脱炭素化が取り組まれているので、社会全体で見た時に水素は必要不可欠な存在であることが言えるかと思います。
参考までにアメリカの事例を示します。アメリカの図を見ると、青字で書いてある水素の用途は同じようなことが書いてありますが、よく見ると、電気のインフラ、そして天然ガスのインフラと同じサイズで水素のインフラが書かれていることが特徴です。つまり、水素は電気やガスと同じく、インフラ基盤として整備されようとしていることがわかります。
また、日本の図と少し違うところがあります。日本の場合は再生可能エネルギーの発電所と水電解装置がセットでコンセプト図として書かれることが多いと思いますが、この図を見ると、再生可能エネルギーは電力系統を介して水素が使われる用途の近くまで運ばれて、そこで水素に変換される。このようなことが考えられていて、この点においては日本で書かれている図と少し違うところがあるかなと思います。
水素の必要性については、水素の輸入国である日本も、水素の輸出国になるかもしれないアメリカにおいても同じように、水素を使ったカーボンニュートラルが考えられているわけですが、実装される時のかたちは少し違う可能性があるかなと思います。
水素社会の実現のためにデンソーができること
このようにいろいろな面で進んでいく水素社会ですが、実現にはさまざまな課題があります。その中でデンソーができることを紹介します。
水素社会実現の課題。皆さんの身の回りを見ても、手元に水素がある状況ではないと思います。原因としては、技術的なさまざまな課題があり、またいろいろな制約もあります。これらへの対策がコストとなり、結果的に水素の価格が高くなってしまって普及していないのが現状かと思います。
水素のサプライチェーンは、「つくる」分野と、「ためる・はこぶ」および「つかう」の大きく3つに分けられることが一般的です。それぞれにおいてさまざまな技術課題がありますが、今日は時間の都合もありますので、一つひとつの課題を掘り下げることはしません。
今日ここで皆さんに伝えたいのは、このような複雑な課題がある中で、1つの課題を解決しても全体の課題解決にはつながらないところが、水素社会の普及の障壁の1つになっているということです。
例え話をすると、水素を安く作れても、安く移送する手段がなければ水素を作る事業者としては事業が成り立たないし、水素を安く運ぶことができても、水素を使うFCVが世の中に普及しないと水素を運ぶ方の事業が継続しません。つまり、1社だけががんばってもなかなか問題が解決しないのが現状です。
そのため、こういった高い難易度の問題に対しては、まずは自分たちができることを公表して持ち寄ることが大事だと思っています。まさに今日のイベントでデンソーの取り組みを紹介することは、この問題を解決することにつながってくると考えています。
このような状況の中でデンソーが貢献できるところはどこか。デンソーは自動車部品メーカーであり、クルマの中などの厳しい環境で使われる製品と製品の品質を保ちつつ、大量に生産しながら現実的なコストに低減していく。この技術を保持している点がデンソーの強みです。
今回ご紹介するSOECとSOFCに関しては、特に温度を制御するサーマルシステムの技術と、高温過酷な環境に耐えるセラミック製品を使っているパワートレインシステムの技術を使った製品になります。
SOECを事例に、車載の技術がどこに使われているかの概要を説明します。SOECというシステムは、水を電気分解して水素を作る装置ですが、少ない消費電力で水素を作ることができる。つまり、安く水素を作ることができることが特徴です。
SOECは、水を直接電気分解するのではなく、一度水蒸気にして700℃の高温にしてから電気分解をするというメカニズムで動く装置です。水を700℃に上げることによって水の耐電圧、これは電気分解する時に必要な電圧になりますが、これが1.2Vから1.0Vに下がります。消費電力のW、つまり電圧×電流の電圧が2割下がることになるので、消費電力も2割下がるということです。
原理的に、高温で水蒸気を電気分解することが消費電力の低減につながるのですが、この700℃の水を電気分解するためには、2つのやらなければならないことがあります。1つは、700℃という高温を装置の外に漏らしてしまうと、その加熱のためのエネルギーがまた必要になってくるので、電力消費量が増えてしまいます。そういったことが起きないように、クルマの中のカーエアコン等で使われている技術を使い、装置の外に熱を逃がさないような設計をしています。これが車載技術の応用の1つ目の事例です。
もう1つは、この700℃で電気分解をするコアとなる部品のところです。こちらはエンジンからの排ガスの中に含まれる未燃焼のガソリンを検知するセンサーに使用されているセラミック技術を応用して水の電気分解を行っています。このようにクルマの技術の一端ではありますが、応用することによってSOECとSOFCの実用化に挑戦をしています。
詳細な技術の紹介については続く演者2人から紹介するので、私からのプレゼンテーションは以上とします。
最後になりますがいろいろな技術課題がある中で自分たちができることを持ち寄ることが非常に大事であるとお話ししました。この講演を聞いたみなさんから、お持ちの技術や製品を提案していただいたり、ご自身の能力を提案していただき、デンソーとともに働きたいという気持ちがみなさまの中で生まれることを期待して、こういったメッセージを送りたいと思います。「私たちと一緒にカーボンニュートラルの世界を創りませんか?」
ご清聴ありがとうございました。
COMMENT
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