あなたが実現したいこと、学びたいこと、可能性を広げたいことに、この記事は役に立ちましたか?
ぜひ感じたことを編集部とシェアしてください。
デンソーのソフトウェア領域における取り組みや技術活用の舞台裏を語る「DENSO Tech Night」。4回目となる今回のテーマは、「0.0001秒の攻防!? 快適な運転を支えるリアルタイム制御と組み込みエンジニアの実践知」。100µsで回す制御、µs級で見守る電池、1msで保証する安全――見えない時間をどう設計するかが、快適さ・寿命・信頼性を決めます。同社の車載ECUソフトウェア開発者がその方法論を実装と検証のリアリティとともに明かしました。
-
株式会社デンソー ソフトウェア統括部 ソフトウェア技術5部 室長鬼頭 勇二YUJI KITO
続いて登壇したのは、ソフトウェア統括部の鬼頭 勇二です。1998年にデンソーに入社し、産業用ロボットのメカ開発を経て、2002年に電動化製品のソフトウェア開発に従事。現在は主にBMS(バッテリーマネジメントシステム)のソフトウェア開発を担当しています。
デンソーで産業ロボット事業を立ち上げ、その後、まだ世の中に電動化製品がほとんどなかった頃からソフトウェア開発を始めました。このようになんらかの形で新しい事業の開発や立ち上げに携わってきました。
(鬼頭)
この記事の目次
電池の活用でさまざまな地球環境に貢献
鬼頭はまず、電池という技術の便利さと環境への貢献について語りました。
電池は、HEV(ハイブリッド車)ではエンジンの効率を高め、燃費を改善する役割を果たします。また、減速時にはモーターを発電機として活用し、回生エネルギーをバッテリーに蓄えることができます。
個人的にこの回生機能はすばらしいと思っています。今までブレーキで熱として捨てていたエネルギーが、すべてバッテリーに蓄えられる。減速時に充電されていく様子を見ると、地球環境に貢献している実感があります。
(鬼頭)
さらに、BEVでは床下にバッテリーを敷きつめ、エンジンがない構造にすることで、車内空間を広く取ることが可能。加えて、静粛性や振動の少なさ、電源活用の幅広さなど、快適なドライブ空間の創出にも寄与しています。
電池はさまざまな課題を解決するものです。
(鬼頭)
そんな電池にも危険性あり…BMSの使命とは?
しかし電池には危険な側面もあります。過充電や衝撃、短絡など不安全な使用により発火するリスクが存在するのです。車両床下には多数のセルが敷きつめられており、異常が起きたまま走行を続けると、発熱から熱暴走、さらには発火へと進行する恐れがあります。
このリスクに対処するために搭載されているのがBMSです。BMSは電池セルの状態を常時監視し、容量や使用可能電力を把握し、異常を検知すると即座にセルを切り離すなどして、電池を燃やさないよう制御します。
BMSの使命は、電池を安全に使い切ること、そして決して燃やさないことです。
(鬼頭)
電池利用のさまざまな課題と安全に使う方法
鬼頭は次に、電池利用に伴うさまざまな課題を紹介しました。
代表的なものは以下の通りです。
⚫︎航続距離の限界(ガソリン車よりエネルギー密度が低い)
⚫︎充電時間の長さ
⚫︎多数のセル搭載による電池コストの高さ
⚫︎低温・高温環境下での性能劣化
⚫︎充放電の繰り返しによる電池寿命低下
⚫︎劣化や不良による熱暴走リスク
これらの課題を解決しなければなりません。そのためには電池の性能を使い切って、劣化を防ぎ、安全に使うことが重要。そのためにはまず電池のことをよく理解する必要があります。
(鬼頭)
リチウムイオン電池は、正極と負極の間をリチウムイオンが移動する化学反応によってエネルギーを蓄え、放出します。充放電状態はSOC(State of Charge)、健全性はSOH(State of Health)で表され、これらを正確に把握することが性能を引き出す鍵となります。
また、電池の適正温度帯は20〜30℃であり、人間と同じように「快適温度」が存在します。
なお電池劣化の要因には、高電圧充電による正極材料の不安定化や金属溶出、高温による電解液分解や容量低下、過放電や満充電状態での長期保管などがあります。
さらに深刻なのが熱暴走です。過充電や短絡などをきっかけに内部短絡が進行し、急激な温度上昇と可燃性ガスの発生を経て発火に至ります。
こうした状態を未然に防ぎ、異常が発生した際には即座に電池を切り離して安全を確保するために、BMSでリアルタイムに監視します。
ユーザーの安心と地球環境に貢献するBMSのソフトウェア開発
鬼頭はBMSの内部構成についても具体的に説明しました。
EVでは100個以上のセルが直列に接続され、それぞれをセンシング線でBMU(バッテリーマネジメントユニット)に接続。BMUは電圧・電流・温度を監視し、SOCやSOHを計算。異常時にはリレーを切って安全を確保します。
さらに、セルごとの容量ばらつきを均一化するバランシング機能によって、過充電・過放電セルを防ぎ、全体の容量を最大限活用します。
この精密な制御を支えるのがソフトウェアです。
100個のセルをµsオーダーで監視・制御する技術が必要です。複数のICを同時並行で駆動させ、通信コマンドやばらつきを考慮しながら、1ms刻みでスケジュールを設計します。
(鬼頭)
IC制御レイアウトはまるでパズルのようです。コマンドごとの実行時間(約8µs)やばらつきを考慮し、規定時間内に全処理が完了するよう設計を繰り返す。こうした緻密な設計が、安全性と制御性能の両立を支えています。
ECU上では、BMSの制御だけでなく、診断、通信、リプログラミング、セキュリティなど多様な機能が並行して動作します。
鬼頭は、BMS処理を最優先割り込みに設定し、他タスクの影響を受けずに厳密な時間管理を行う重要性を強調しました。さらに、検出線断線やノイズ、デバイス故障といったリスクに対しては診断コマンドや信頼性情報の付与により、多層的に安全性を確保しています。
最後に鬼頭はこう締めくくりました。
長い航続距離や劣化の抑制、安心・安全な機能をユーザーに提供する。その実現には安全設計とソフトウェア技術が欠かせません。マイコンやICの性能を最大限引き出しながら、地球環境維持とユーザーの安心に貢献していきます。
(鬼頭)
※所属組織および取材内容は2025年9月時点の情報です。
COMMENT
「できてない」 を 「できる」に。
知と人が集まる場所。




