2020年、新型コロナウイルス感染症の影響で、自由に移動できない状況が生まれました。これまでは当たり前のようにできていた移動。それが不自由になり、さまざまな変化が起きています。

移動手段の中でも、自動車は公共交通機関等とは異なるパーソナルな移動空間として再注目されています。その一方で、移動制限による渋滞解消の影響などで大気汚染が急減。移動が環境に負荷をかけていたことに、私たちは改めて気づかされました。

これから先、移動はどう変化していくのでしょうか。少なくとも自動車は、環境を犠牲にしない持続可能な移動手段であることが求められます。便利な移動と環境保護、これらをどう両立すれば良いのでしょうか?

環境配慮と都市の快適な移動を両立するために

技術の発展によって、人はより遠くに、より早く移動できるようになりました。一方で、移動の進歩によって生まれた課題もあります。それが、環境への影響です。地球温暖化の原因のひとつであるCO2、その排出量のうち約18.5%が輸送分野から出ているとされています。

移動による環境への負荷を軽減しようと、世界各地でさまざまな規制が行われています。市街地への自動車の乗り入れが規制され、特にガソリン車やディーゼル車といった内燃機関を用いたモビリティには、より一層厳しい規制がかけられています。

ノルウェーのオスロは、自動車が乗り入れない街をつくる「カーフリー」に取り組んでおり、2015年から2019年にかけて、段階的に市内への自動車の乗り入れを制限。2018年末までに、市内中心部にあった駐車場約700カ所をすべて撤去しています。

また、スペインのマドリッドでも、市内中心部への自動車の乗り入れを規制する動きがあります。フランスのパリ、ギリシャのアテネ、メキシコのメキシコシティでも、2025年までにディーゼル車など内燃機関を用いた自動車の乗り入れを規制する動きが生まれています。

日本ではまだ馴染みがありませんが、世界では都市の中心部における自動車の乗り入れ規制が始まっています。このままでは自動車は、環境を破壊する存在として都市から追放されてしまうかもしれません。

人々が快適に移動でき、環境にも悪影響を与えないためには、自動車がより環境に配慮した存在となる必要があります。

移動を持続可能にするための製品ブランド

世界では、自動車を環境に配慮した存在に変えていくための電動化が進行しています。デンソーは、それに必要なモビリティシステム、製品、部品、あらゆるレイヤーでモビリティの電動化を推し進めています。その重要な取り組みのひとつが、電動化製品の開発です。デンソーは、電動化製品に必要な電費(電動車や電動オートバイなどにおける電力消費率)の良い部品を開発・普及することで、サステナブルな移動の実現を目指しています。

2018年、デンソーは同社の全電動化製品に関する新ブランドを創設。デンソーのタグラインである「Crafting the Core」になぞらえ、電動化の核となっていきたいという想いを込めて「ELEXCORE(エレックスコア)」と名付けました。ELEXCOREでは、これまでの電動化製品にはない付加価値を生み出し、世界中のモビリティにこの製品群を普及させるべく、開発を行っています。

「ELEXCORE」にはどのような特徴があるのか、製品の中から「モータージェネレーター」「バッテリーマネジメントユニット」「インバーター」の3つを中心に、それぞれの開発担当者であるエレクトリック機器技術部の米田、エレクトリフィケーション機器技術2部の稲本、エレクトリフィケーション機器技術1部の進藤に話を聞きました。まず、各部品がEVにおいて担っている役割を、それぞれの特徴と合わせて紹介します。

モータージェネレーターは、自動車を動かすモーターと、タイヤの回転を電気に変える発電機の役割を果たす製品です。「電動車が発進や加速をする際には、動力源となるモーターとして動き、ブレーキをかけて止まる際には、タイヤが回転するエネルギーを使って発電する発電機の役割を果たします。この製品は、デンソーがこれまでSCオルタネーター(自動車用発電機)の製造によって培ってきた独自の巻線技術、さらには、電動化製品開発で磨き上げた高電圧に対する絶縁技術を生かして、小型化・軽量化に成功しています」(米田)

バッテリーマネジメントユニットは、バッテリーの電圧や電流、温度などを測定し、安全な状態で電池を使うための製品です。「バッテリーは、適切な管理がなされていないと燃焼などのトラブルにつながります。バッテリーマネジメントユニットは、こうしたトラブルを防ぎ、バッテリーを安全な状態に保ちます。デンソーが開発する同製品は、電圧の測定の精度が高く、測定に必要な部品数が少なくて済むのが特徴です。電圧測定の誤差が減ると、バッテリーを無駄なく使い切れるようになり、電動車の走行距離が延長できます」(稲本)

インバーターは、バッテリーから流れてきた直流の電気を交流に変換し、モータージェネレーターに送るための製品です。「インバーターで電気を変換しようとすると、エネルギーロスが発生しますが、ロスが大きいと電費が悪くなってしまいます。電費を上げるためには、いかにロスを減らすかが、また、小型化にはロスによって発生した熱をいかに効率的に冷やすかが重要で、この部分にデンソーが持つ半導体、制御、冷却技術を活用しています。ロスを減らし冷却ができれば、小さくてもパワーが出せるため、小型化・高出力を実現できるのです」(進藤)

品質の追求が、人命と環境を守ることにつながる

自動車に乗る人々が、安全に、長くクルマに乗り続けられること。そして、自動車を作るときから廃棄するときまで、長い目でみて環境に良いものにすること。それらの価値を実現するため、デンソーでは3つのポイントにこだわって開発しています。

1つめのポイントは高品質です。
メーカーは何万台もの自動車を製造しますが、お客様にとっては1台しかない大切な愛車です。その1台を大切に、快適に乗り続けられるようにするには、徹底的に品質にこだわらなければなりません。また、自動車の部品は、たったひとつの故障でも人命に関わるリスクをはらんでいます。人々の安全のため、デンソーは設計初期から生産まで考慮した設計を実施し、壊れない部品の開発を目指して品質の追求を徹底しています。

「デンソーはものづくりにおいて、品質向上のために設計段階からすべての工程に関わります。工場生産では、欠陥製品をゼロにする『ゼロディフェクト』というスローガンを掲げ、一つひとつの部品にこだわり、何か不具合が生じたときには現場の声をすぐにフィードバックし、設計まで遡って原因を究明して解決しています」(稲本)

2つめは高性能です。
電動部品の性能の高さは、自動車の電費に大きく関わります。電費が良いと、より少ないエネルギーで、より長く走り続けられ、ランニングコストを減らすことができます。

こうした価値を生み出すために、デンソーは、製品単体での性能はもちろんのこと、製品を組み合わせた際のシステム全体での性能にこだわっています。ELEXCORE製品を組み合わせることで車両全体での電費が良くなり、一番良いパフォーマンスを発揮できるように設計をしているのです。

「電動車で長距離走行する際は大容量バッテリーの搭載が必要になりますが、バッテリーが非常に高価なため、車両価格が非常に高くなってしまいます。ですが、ELEXCORE製品を組み合わせて搭載すれば、小容量のバッテリーでも長い距離が走れるようになり、バッテリーにかかる費用を抑えることができます。それによって、結果的にトータルでの車両価格が下げられます。さらには、エネルギー効率もより上がって電費を高められるため、ランニングコストも安くなるんです」(進藤)

3つめは小型化です。
車両に搭載する製品が小さくなれば、その分車室空間が広げられ、移動中の時間が快適に過ごせます。それに加え、製品が小さくなれば製品ひとつに必要な資源が少なくなり、開発プロセスで発生する廃棄物も減少します。小型化のこだわりは、環境問題への貢献にもつながるのです。

これら3つのポイントにこだわり、お客様への価値を生み出すためにデンソーが重要視しているのが開発プロセスです。ELEXCOREはどの製品も、デンソーがこれまでに培ってきた技術を生かし、内製で開発を進めています。この内製での開発が、お客様と環境、双方にとっての価値につながっているのです。

ELEXCOREが普及すれば、それだけ電費の良いモビリティが増え、環境に対する負荷は減少します。ELEXCOREの開発者陣は、口をそろえて環境に対する思いを語りました。

「新型コロナウイルス感染拡大の影響で自動車が走らなくなり、その結果、空気がきれいになったという報道がありました。自動車の電動化は、自動車が地球にとって悪影響を及ぼす存在でなくなるために求められています。ELEXCOREの性能を向上させ、普及させることで、環境問題の解決に寄与していきたいですね」(進藤)

自由に移動できる喜びと、環境保護の両立を

ELEXCOREが価値を発揮するのは自動車に限りません。今後、さまざまなモビリティが電動化していく中で、ELEXCOREはあらゆるモビリティの電動化の核を目指します。

ELEXCOREが使われるモビリティは、少ないエネルギーで遠くまで行くことができ、さらには、長く安全に乗り続けることができます。より多くのモビリティにELEXCOREが使用されれば、それだけモビリティによる環境負荷を減らし、移動が持続可能になっていくはずです。

ウィズコロナの時代の今、パーソナルで快適な移動の実現と地球環境の保全という、一見相反するように見える両者が求められています。デンソーはこれらを両立させるために、すべてのモビリティが地球にやさしい存在となり、人と、地球と共生していくための“コア”を作り続けていきます。