充電を気にする生活に、さよならを。

例えば、出先でこんなこと、よくありませんか?
ふと気づいたら、スマホのバッテリーが残りわずか!
「 SNSをチェックしたい。けれども途中で切れたら、いざという時に困りそう 」
「 モバイルバッテリーを忘れちゃった、家に帰るまでなんとか持ってくれたら…… 」

こうした 「バッテリー切れでそわそわしてしまうこと」 は、スマホだけではなく、さまざまなツールでも起こり得ます。ノートパソコンやワイヤレスイヤホンも、必要な時にバッテリー切れで動かなくなると、ヒヤッとしますよね。それでもついつい忘れてしまう充電。毎日、たくさんの機器をそれぞれ電源に繋がなければならないのは、やはり面倒です。便利なデバイスが増えるほど、充電の煩わしさも膨れ上がるばかり。

もし例えば、私たちが大気中から酸素を取り込むような感覚で、いつどこにいてもエネルギーを必要な機器に取り込めるとしたら、とても便利になると思いませんか?

そんな夢の世界が、まずは電動モビリティから現実になろうとしています。それを実現してくれるのが、EV(電気自動車)の領域で研究が進められている、「走行中給電」 という技術です。

「赤信号、ラッキー!」 と思える日がやってくる?

走行中給電とは、地面に埋め込まれた送電装置によって、停車中および、走行中のEVのバッテリーに自動的に給電される技術のことです。この技術が実用化されれば、EVは給電無しで、ずっと走り続けられるようになります。

たとえば都市部では、移動時間の半分近くを赤信号で停まってしまうことがあります。もし信号待ちをしているときに給電できるようになれば、「赤信号、ラッキー!」 と思える日がくるかもしれません。

また、今後EVの普及が進めば進むほど、大型連休のパーキングなどで給電待ちの大渋滞が社会問題化するだろうと言われています。そのとき、走行中に給電できるようになっていれば、こういった社会問題は起こらずに済むでしょう。

そして今 「給電時間の長さ」 が、商用車にEVが普及していかない一因になっています。もし、バスの停留所や、タクシーの停車場で給電することができれば、稼働効率を上げることができるので、商用車へのEV普及も加速するだろうと期待されています。

今そんな多くの可能性を秘めた走行中給電の実用化を目指して、研究開発が進められています。

「EVにしかできない体験」 をつくろう。

デンソーにおける開発プロジェクトのメンバーであるエレクトリフィケーションシステム開発部の谷恵亮と山口宜久は、「この技術開発には、ガソリン車の常識にとらわれない、柔軟な発想が重要だ」 と語ります。

「これまでのEVの技術開発は、『いかにガソリン車の使い勝手に近づけるか』という目線が主流でした。しかし、人びとに積極的にEVを選んでもらうには、『EVにしかできないような体験』や、『ガソリン車にはないメリット』 を追求し、だれもが EVに乗りたい!と思えるような状態をつくりあげることが重要です」(谷)

そんな考え方のもと、注目し進めている研究開発の1つが、走行中給電です。
走行中給電は、私たちの生活に5つの大きなメリットを与えてくれます。

1つ目は、「充電の手間のカット」 です。走行中に給電されるので、わざわざガソリンスタンドや電源ステーションに行かずに済みます。充電の待ち時間や、給電の手間からも解放されます。

2つ目は、「無限に走行できること」 です。走行中給電の技術が施された路上を走る限り、EVは充電することなく無限に走り続けられるようになります。

3つ目は、「コストダウン」です。電気を大量に貯めておく必要がなくなるので、バッテリーをコンパクトにすることができます。高額なバッテリーの製造費を抑えることができるので、EVの価格も下げていくことが可能です。

4つ目は、「 MaaS(Mobility as a Service)の加速 」 。走行中給電の技術はEVだけでなく、これから実用化が広がっていく自動配送ロボットやドローン、空飛ぶクルマなど、多種多様な電動モビリティにも応用可能です。いつでも、どこでもエネルギーを供給できる走行中給電の特徴を活かすことで、MaaSによるイノベーションが、ますます加速していくでしょう。

5つ目は、「環境への負担の軽減」です。電気は貯めたり送ったりすると、多くのロスを生んでしまいます。そのためなるべくバッテリーに貯めないようにしたり、送電する距離を短くしたりすることで、エネルギーのロスを抑えることができます。たとえば、その地域で生み出されたクリーンなエネルギーを、町にはりめぐらされた走行中給電の送電網で、効率よく消費することができれば、社会全体でエネルギーを効率よく使えるようになります。
また、バッテリーは生産時に多くのCO2を排出してしまうので、バッテリーが小さく済めば、つくる時のCO2排出量削減にも大きく貢献することができるのです。

インフラとモビリティを 「シームレスに」 繋げる

EV社会のインフラの常識を変えてしまうかもしれない走行中給電。
デンソーが開発している技術には、どのような特徴があるのでしょうか。

まず根本的な原理は、置くだけでスマホを充電できるワイヤレス充電器と一緒だと谷は言います。

「給電装置を道路に仕込んで、車がその上を通過・停止している時に給電させる。仕組み自体はとてもシンプルです。ここでポイントとなるのが、エネルギーの消費を最小限に抑えるために、インフラと(高速で移動する)モビリティを協調させて 『給電の発生点を限定させること』 です」(谷)

「こういった技術の開発には高度なシステム制御を必要とします。わたしたちは複雑な機構を持つモビリティを、ひとつの調和のとれたシステムにしあげる制御技術のメガサプライヤーです。モビリティの制御を知り尽くしたデンソーだからこそ、インフラとしっかりと協調させていけるシステムをつくることができる。そういう自負を持って、このミッションに取り組んでいます」(谷)

「これまで実証実験を産学連携のオープンイノベーションという形で進めてきました。2022年からは、社会実証も段階的にスタートします。2025年頃には、自社の工場内の小型モビリティを対象に実用化がはじまる予定です。この技術は、終日ずっと稼働し続けるような物流センターや工場内で稼働するモビリティと、特に相性がいいんです。給電のシステムが整えば、AGV(無人搬送車)の活用の幅が広がり、作業の自動化・効率化が飛躍的に進むでしょう」(山口)

そしてもう少し先の未来では工場の中だけではなく、街中でも自律走行のモビリティが活躍すると言われています。そのとき、多種多様な電動モビリティのすべてをコードに繋いで充電するのは、あまり現実的ではありません。いまCASEという言葉で語られているようなモビリティ社会を実現するには、走行中給電のようなシームレスな給電システムが、きっと必要になってくるでしょう。

昔はコードで繋がっていることが当たり前だった電話が、今では電波によってワイヤレスにつ繋がることが当たり前になったように。いつかはエネルギーを得るのもワイヤレスなのが当たり前になる、そんな未来がくるかもしれませんね。

カーボンニュートラルに向けて

今後の新しいインフラになり得る、走行中給電。この技術は便利な日常をつくりあげるだけでなく、カーボンニュートラルな世界の実現に貢献できる可能性も秘めています。例えば走行中給電によって、自然エネルギーでつくられた電気を、なるべく貯めずにその場で使用する……そんなエネルギーの地産地消とも言えるシステムが町の隅々までインフラとして行き届いたら…。きっと、人だけじゃなく地球にもうれしい未来が見えてくるはずです。

そしてまた違った観点として、製品のライフサイクルを通して、EVを 「使う時」 だけではなく、「つくる時」 のカーボンニュートラルを目指していくことも重要です。

「一般的に 『EVはガソリンを燃やさない、だから環境にやさしい』 といった認識がなされていると思います。実は、一概にそうとは言えないのが現状です。EVの製造には多くのエネルギーが必要で、ガソリン車の製造時と比較すると、多くのCO2を排出しています。

クルマでも家電でも、世間では 『使う』 時のCO2排出量が注目されがちです。しかし、モノづくりに携わる私たちは、『つくる』 時のCO2排出量にも目を向けなければいけません。つくり手として、その責任があるのです。前者を減らす努力はもちろん大事ですが、そちらばかりを気にして後者を見て見ぬ振りしていては、真にカーボンニュートラルな社会を実現することはかないません」(山口)

デンソーでは、2035年に 「事業分野におけるカーボンニュートラルを達成する」 という、野心的な目標を掲げています。それを成し遂げる覚悟があるからこそ、このプロジェクトにも自然と熱が入ります。

自由に移動できるよろこびと、環境保護の両立を目指して。

もしこの世界から、「給電する」 という作業をなくすことができれば、エネルギーを空気のように、ムダなく無意識に使えるようになる。そのときわたしたちは給電無しで、ずっと走れるようになる。「EVに乗りたい!」 という人も増えていく。そして、社会をより便利にするようなモビリティやサービスも、どんどん増えていく。走行中給電はEVだけでなく、さまざまな電動モビリティが活躍する社会の基盤となるような技術です。

また、サステナブルにエネルギーをつくり、使っていく社会の基盤を築いていくときにも、大きな役割を果たしてくれるでしょう。人にも地球にもうれしいそんな未来を現実のものにするために、私たちは走行中給電という技術の開発を通じて、 「エネルギーとモビリティがシームレスに繋がる未来」 をつくる挑戦を、これからも続けていきます。