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河内埜(かわちの)敬一は、半導体のサプライチェーン構造を見直すことで需給ひっ迫させず、安定調達ができる環境構築をめざすプロジェクトを推進しています。活動推進リーダーとしてデンソーの今後を左右する役割に抜擢された河内埜が、社内のマネジメント研修で見つけた自分の本質と、これからの展望を語ります。
この記事の目次
サプライチェーン全体の“商習慣”を変える
───はじめに現在の業務内容を教えてください。
ソフトウェア・エレクトロニクス調達部で、エレクトリフィケーションシステム、サーマルシステムやパワートレインシステムに使用するIC・センサーのバイヤーを担当しながら、半導体サプライチェーン構造改革の活動推進リーダーを務めています。
このプロジェクトには6つのワーキンググループがあって、調達組織全体で取り組んでいます。そのうちの1つの活動を主に担当しつつ、6つの活動を取りまとめてサプライチェーン全体での改革を推進するのが私の役割です。
───半導体サプライチェーン構造改革というのはどういったプロジェクトなのか、詳しく教えてください。
どこの産業界でも半導体不足が大きな問題となっていると思いますが、当然、われわれ自動車部品のメーカーにとっても需給ひっ迫している状況です。この状態を改善するのみならず、恒常的に半導体を安定して仕入れられる環境構築をめざして、取引先である半導体メーカーや顧客である自動車メーカーをも巻き込んだ「商習慣の改革」を進めていくのが、本プロジェクトの目的となっています。
───これまでの商習慣は、どういったものだったのでしょうか?
たとえば発注の仕方で例えると、自動車業界は「必要なものを、必要なときに、必要な分だけ」供給する仕組みを取り入れ、在庫量を最小化してきました。これは取引先から見れば、直前まで発注数が確約されない仕組みであり、製造リードタイムが長い半導体においては、見込みで手配をかけていただかざるを得ない環境を生み出していました。一方、通信機器に代表される民生企業などは中長期の計画をもとに、一度に大量の半導体を発注しています。
そうなると、半導体が不足する状況下では、半導体メーカーも発注が確約されている顧客を優先せざるを得ず、車載用半導体の供給が後回しにされてしまう傾向にあります。このように安定供給の問題は「商習慣の違い」に行き当たるのです。われわれ自動車業界側がサプライチェーン全体で半導体メーカーの立場に歩み寄っていかなければ、安定した調達の実現は不可能だと思っています。
───その実現のために、今はどんなことを行っている段階でしょうか?
サプライチェーン全体での変革のために、営業の協力も得ながら顧客であるさまざまな自動車メーカーのもとへ直接出向いて、自動車業界全体として抱いている課題を共有し合い、認識を合わせていくことから始めています。
この活動は、今までの当たり前だった考え方、進め方を変えていく必要があります。そして、さまざまな自動車メーカーと直接取引をするTier1(直接部品を供給するメーカー)のわれわれだからこそ、中心となって動く意義があると感じています。
───推進する中で、心がけていることはありますか?
「今、必ず結果を出すこと」です。
半導体の需給がひっ迫しているこの状況は、この先も起こるかもしれません。同じことを繰り返さないためにも、これまで固執していた「慣習」を変えるアクションを起こすなら今しかありません。喉元過ぎれば熱さを忘れるという世界にはしたくないんです。現状のサプライチェーンを適正化していき、この業界にいる人みんなが幸せになってほしいと思うのです。
猪突猛進に突き進む本当の理由
───これまでもこうしたプロジェクト型の業務に従事して来られたのでしょうか?
以前は、トヨタ自動車向けの営業部門であるトヨタ部に所属していたのですが、その時、物価上昇などの変動要素に対して強い組織を作ろうとする全社活動にも参画していました。
とはいえ、こうした経験を買われて未経験の調達部門で半導体サプライチェーン構造改革を任されたというよりは、自身の猪突猛進な性格が買われたのではないかと思っています。
───猪突猛進な性格とは?
自分が正しいと思ったことは、前例があろうがなかろうが、たとえ険しい道であっても突き進んでいく性格だねと周囲の方からよく言われます。20代のころも、お客様から「河内埜くんは自分の言っていることが世界で一番正しいと思っているでしょ」と言われたことがあります。自分の軸が正しいという自信に満ち溢れていました。
しかし、一見、推進力があり、とても良いことのようにも見えますが、よくよく自分の根っこを探ってみると、自分が正しいと思っていることを否定されたときに湧きおこる、怒りや悔しさに似た感情が原動力となり、猪突猛進になってしまっていた気がします。
───そんな中、調達部への異動に先立ち、社内のマネジメント研修に参加されたと聞きました。どういった研修だったのでしょうか?
特定の課題に対して、何人かのメンバーで議論を繰り返しながらアウトプットをつくっていくというものでした。多様な経験を持つ優秀なメンバーが集まっていたので、かなり強めの質問や反論をもらうこともしばしば。みなさんの意見を通していろいろな考え方や視点を目の当たりにして、自分のレベルはすごく低く未熟だなと、感じる瞬間が何度もありました。良い意味で、ボキッと鼻を折ってもらったと思っています。
また、メンバーからの指摘でとくに印象に残っているのは、「河内埜さんは全部自分で背負い込んでいるよね」という言葉。自分で背負い込んでいるという自覚はあったのですが、初めて人に言われました。
他者からのアドバイスに耳を傾ける柔軟さ。自分でできないことがあれば他の人に意見を聞いてみる。あるいは任せてみる。そうしたことができていませんでした。むしろそうすることを嫌がっていたのかもしれません。
これは、この研修を通して出会えた仲間とたくさんの対話を重ねてきたからこそ、今まで明確に見えていなかった本当の自分の姿に気づくことができました。
失敗する怖さを認め、枠を超える
───対話することでたくさんのことを気づかれたんですね。ほかに、研修内での学びや印象的な言葉はありましたか?
研修では、外部の経営者に自らのアウトプットを批評してもらうといった機会がありました。そうした中で言われた言葉が、もうひとつ自分の枠を広げていくきっかけになったと感じています。
それは、「何かに耐えながら自分をごまかすのは間違いだ。自分の主義主張があるのであれば、ぶつかる瞬間は必ずある。それに挑戦し、前向きな失敗をして学べ。失敗しないようにと枠が小さくなっているのであれば、それこそが失敗だ」と言われました。
周りから見ると、私は強い人間に見えるかもしれない。ですが、実は逆で、本当の私は自分のことをとてつもない「ビビリで弱虫な奴」だと思っているんです。失敗することが怖い。今まで、困難に直面しても、自分ひとりで耐えながら、恐怖をごまかしながら、うまくまとめることに“猪突猛進”で乗り切ろうとしてきました。
この言葉は、まさしく失敗を恐れていた自分の弱さをえぐられたような気がして、心に強く痛く残りました。
───研修を終えて、実際に自身の行動が変わったと感じる部分はありますか?
「怖いものは怖いって思っていいんだ」と思えるようになったら、すごく楽になり、自分でどうにかしなきゃいけないと思っていた悩みを周囲の人に共有できるようになったんです。
今まで、自分の中である程度答えを出してから行動していたのが、確信めいたところまで思考を進める前に、まずはちょっと人の意見も聞いてみようかなと素直に思えるようになりました。 この研修は、自分自身の着けた鎧みたいなものを脱げる機会だったなと感じています。
それからチームで取り組む上で、これまでそれぞれのメンバーが主体的に進めていく取り組みにも自らプレイヤーとして介入していましたが、最近はメンバーに任せて自分の役割は支えることを心がけています。
仕事と自己実現を重ねて、大勢の人を幸せにしたい
───研修を通じて得た経験が、半導体サプライチェーン構造改革という難題に取り組む上でも役立っているのかと思います。今後の目標を伺えますか?
まずは、半導体メーカーとのパートナーシップの土台を築いていきたいです。そして、デンソーの顧客を含めた三者間でのパートナーシップのあり方を変えていきたいと思っています。その中心に立ち、半導体メーカーや顧客の意見や想いを聴きながら会話できる人財が、これからのデンソーには不可欠になると思うので、自分自身の挑戦のひとつとして、そうした新しい体制をつくることをリードしていきたいですね。
───これからのデンソーのあり方を、率先して考えていくという強い意気込みを感じます。ご自身が考えるリーダー像やありたい姿に近づいていると感じますか?
まだまだですね(笑)。倒れながらも突き進もうとする猪突猛進な性格は、そう簡単には変えられません。人を頼る重要性も学ぶことができたと思っていますが、まだ弱い自分が顔を出す瞬間があります。“自らの意志を持って実現したいことを実現する”ということに対して、責任感や覚悟が足りていないのでは、と感じるのです。裏返せば、仕事で実現したいことと、自己実現がまだまだ重なっていないのではないかと思います。
───仕事で実現したいことと自己実現の一致は、これからということですね。悩んだ時に、何が河内埜さんを奮い立たせているんでしょうか?
ひとつは、「これを自分がやらなかったらどんな未来が待っているのか」を悶々と考えて、その危機感をあらためて持つことです。デンソーの未来がかかっていること。その責任感でエンジンを掛け直します。
もうひとつは、仕事とは誰かを幸せにすることだという気持ちでしょうか。デンソーで任されている仕事は、計り知れないほど遠く、大勢のひとの幸せにつながっています。半径何千km先かわからないくらいの範疇(はんちゅう)なんです。
これは、いつでもできる仕事ではありませんし、誰もができるような仕事でもありません。こうした機会を与えられたからこそ、『やらねばならぬ』と野武士のように取り組めていることが、自分の意志をより強く育てていくための足がかりになるはずです。
また、振り返れば、子どものころから本気で頑張った経験がありませんでした。受験勉強然り、自慢できるものが何もないんです。だから社会人になったタイミングで、『仕事は絶対に頑張ろう』とマインドをセットしました。今でもなお、何かひとつでも誇れるものがほしいと思っています。きっとこの想いは、自分が進む道が見え始めたいま、さらなる挑戦を続けていく上で確かな支えになっていくだろうと感じています。
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