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齊藤 泰史は2006年にデンソーに入社して以来、管理会計業務を専門に長年数字に向き合ってきました。「こうあるべき」と思っていたリーダー像で推進してきましたが、部下を持った時に打ち砕かれたと言います。これまで自らを縛っていた “枠”を、自らの努力で脱した齊藤が描く、新しいリーダー像を紐解きます。
この記事の目次
長年管理会計で培ってきた専門性
───齊藤さん、こんにちは。はじめに、現在の業務内容を教えていただけますか?
斉藤:経営戦略部にて、国内外のデンソーグループ会社の損益管理と、設備投資・研究開発費などのリソーセスを管理する課のマネージャーを務めています。それぞれの分野に対し高い専門性を持ったメンバーに基本的な業務を任せつつ、私自身は全体のマネジメントを担当しています。
───現在のポジションに至るまでの経歴を教えてください。
斉藤:2006年に新卒でデンソーに入社し、事業部で原価企画業務を担当しました。顧客向け売価の立案や製品原価の作り込み、協業先との難しい折衝など多様な業務を経験しました。苦しい時もありましたが、数字に対する感覚や周囲を巻き込んで仕事を進める力は、この時に培ったのだと思います。
2014年には経営企画部に異動し、会社方針の立案を担当。さらに2018年から2021年までは、北米地域の本社であるデンソーインターナショナル アメリカに出向し、経営企画部門のマネージャーとして、地域の損益やリソーセス管理を主に担当しました。
───ちょうどその時期に新型コロナウイルス感染症が流行り大変だったのでは......。
斉藤:はい。その影響で、2020年には大幅な減産を余儀なくされました。収益を改善する緊急施策を立案しつつ、固定費の削減に地域横断で取り組むなど大変さはありました。
しかし、だからこそ現地のメンバーと真剣な議論ができたことは、とても良い経験になりましたね。そして2021年9月に日本に帰任し、現在の部署で働くことになります。
打ち砕かれたリーダー像
───出向時代の経験は、現在のマネージャー職にも通じていると思いますが、ご自身の職務に適正を感じることはありますか?
斉藤:日本に戻ってきた当初は、正直に言えば自分の経験や知識に対する自負がありました。出向時代に経験した、苦しい状況下でマネージャーをしてきたことが自信になっていたんです。
「これだけ頑張ってきたんだから、自分が先頭に立って引っ張っていけるはず」、「若い人にも上の人にも負けないぞ。僕がやってみせるんだ」と、どこかプレッシャーをかけて自分を強く見せていました。しかし、そうした考え方が打ちのめされてしまったんです。
───打ちのめされたとは、どういうことでしょうか?
斉藤:自分の行動や考え方を深く省みる社内のマネジメント研修の中で、私自身のパーソナリティを踏まえたアドバイスをもらう機会があったんですが、そこで「君には寄り道がない」と指摘されたんです。「数字を使ってストレートに急いで結論に向かっていくような傾向があるから、他の人の意見を取り入れるゆとりがなく、新しい選択肢の可能性を失っているかもしれないんだよ」と。
また、「数字の面で何かプライドを持っているのは感じるんだけど、何を生み出して、何をしたいのかが見えない」とはっきりと言われたんです。正直にハッとしました。
これまで、さまざまな数字を管理し、それらを改善・向上させるための多様なプロジェクトに参加してきました。専門性を磨いてきたからこそ自負もあり、自分が課内の誰よりも業務に詳しくなければいけないし、強烈なリーダーシップを発揮しなくてはならないんだと、積極的に物事を推し進めていくリーダー像に縛られていたことに気がついたのです。
───経験から培ってきたリーダー像をあらためることは、そう簡単ではないように思いますが......。
斉藤:当然、すぐにはそう考え直すことはできませんでした。
しかし、あらためて一緒に働いている7名のメンバーをみてみると、それぞれ強みを持っていて、その分野では他を圧倒する知識量を持っていること。知識だけでなく、時には視座の高さや視野の広さは僕なんかよりも優れている。年次や職位に関係がなく、それぞれがリーダーであることを認め、受け容れました。
そして、きちんとメンバーたちが頑張れる土壌を作り、今までとは異なる立ち回りに注力して、チームとしてより良い成果を発揮することが僕の役割だと考え直すようになったのです。
“枠”を越えて、成長するためには
───リーダー像をあらためた後に、あらたに取り組まれたことはありますか?
斉藤:まず、メンバーそれぞれが自由に話せるダイアログ(対話)の場づくりです。もちろん、専門性を伸び伸びと発揮して業務成果を高めることを目的とはしていますが、自由に意見交換し課題意識を共有することで自分が想定していた以上にメンバーの高い意欲を知ることができたのは大きな発見でした。
「もっと事業を成長させるためにはどうしたらいいのか」、「自分の専門性をどう発揮したらいいのか」など職位や年齢という“枠”は関係なく、一個人としてやりたいこと・やるべきことを考えて発言することは、能動的な行動につながります。これまで以上に生き生きと働きながら、みんなで目標を達成したいという想いがさらに強まりました。
───取り組みの成果が出始めるのが楽しみですね。メンバーとは別に、齊藤さんご自身の成長のために考えていることはありますか?
斉藤:まだ模索している途中ではありますが、「自分だからこそできること」を探して、より磨き上げていかなくてはいけないと考えています。それは、「自分の人生を生きる」ということにもつながるのかなと思っています。
自分のこれまでを振り返ると、管理会計という“誰かが生み出したものを数字で管理する”仕事の積み重ねで、そこに「自分だから」の要素はありませんでした。これからは、人が生み出したものを管理するだけでなく、自分が「生み出すもの」をもっと真剣に考えたいと思うんです。
───「自分の人生を生きるため」の糸口はつかめていますか?
斉藤:いえ、まだ何も。でも、会社生活が終わる時だったり、人生の終盤を迎えた時に何かを成し遂げて「良かった」と自分を認めてあげたい。何が正しかったかどうかなんて誰も評価してくれないので、「これで良かった」と自分が納得できるかどうかが大切です。
だからこそ、大事なことは「自分を信じること」なのかもしれません。そういう意味で、今から“枠”の中にいて言われたことをするのではなく、“枠”を越えて能動的に行動しなくてはと思っています。
謙虚な姿勢でめざすネクストリーダー
───自らが持っていた固定観念的なリーダー像の“枠”を越え、成長していきたいという意志につながっているんですね。齊藤さんが描く真のリーダー像を教えてください。
斉藤:仮説をもって導ける人ではないかと思います。
ただ、その仮説は自分の中だけで考えを閉じずに、いろんな人の意見を聴き受け容れて、良い発想を一緒に働く仲間と共有し、融合させていく仕組みを考えられること。そして、それをチームで実行できることができる人だと思っています。
───お話を聞いて、齊藤さんは正義感があり芯の強さを持った方だと感じました。最後に働く上で大切にしていることはありますか?
斉藤:今、マネージャーという立場でメンバーを率いていますが、奢らず、謙虚でいることがまず大切だと思っています。本当に相手のことを尊敬・尊重することが、人の心を動かすことにつながると信じています。
そんなスタンスを大切にしようとするときに頭に浮かぶのが、「自分は何者でもない。Just a Nobody」という言葉。朝起きてすぐの、エンジンがかかる前の自分が一番素の自分──何者でもない瞬間だと感じます。ただ者だからこそ、努力も勉強もできる。ただ者だからこそ、相手のすごさを素直に認め、協力しようとするんだと思います。
ぼくは、そう信じています。
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