デザインの力でカーボンニュートラルの実現を導く

組織で価値を発揮する、プロダクトデザイナーの役割とは

仕事がバリバリできる憧れのあの人も、仕事中にはちょっと近寄りがたいあの人も、一歩オフサイトに出て、様々な壁を取りのぞいて話をしはじめると、すごく悩んでいたり、ピュアな願いが見えてきたりするもの。

社員インタビュー「実現力リレートーク」では、リラックスダイアログを通じて、多彩なプロフェッショナルたちの仕事の根幹にある原動力やwill(夢・志)に迫ります。

今回ご登場いただくのは、カーボンニュートラル実現に向けた各事業製品をデザインする折笠 弦さんです。水素製造を行う機器(SOEC)や水素を使用して高効率な発電を行う機器(SOFC)など、さまざまなプロダクトデザインを担当。その領域は製品だけではなく、事業ブランディングや技術を分かりやすく伝えるためのビジュアライズなど幅広いデザインに及びます。

幼い頃から絵を描くことが好きで、漫画家にも憧れたという折笠さん。
描く未来は膨らみ、デンソー入社後は「デザインの力で社会課題を解決したい」という夢を胸に、今日もペンを走らせ続けています。

「美しく、かっこよく絵を描くことだけがデザイナーの仕事ではありません」

自己表現ではなく誰かのためにデザインしたい、と意気込む折笠さんが実現したい社会の姿とは。製品デザインの捉え方、揺るぎないデザイナーとしての姿勢に迫りました。

この記事の目次

    本質的な課題解決に導くのが、デザイナーの仕事

    ───まず最初に、折笠さんが取り組んでいるプロジェクトについて教えてください。

    折笠:カーボンニュートラル事業に関するデザインのリーダーを担当しています。主に製品デザインを専門にしながら、水素製造、高効率発電、CO2回収器などの設備機器デザインを手がけています。

    設備機器は使用されるシーンによって、耐久性やメンテナンス、使いやすさなども重要な観点になります。そのため、必要に応じて企画段階から議論に加わることも。目的に沿った製品設計ができているか、適切なアプローチになっているか、そのためにはどんなデザインが最適なのか。問いかけや提案をしながら本質的な課題解決に導くのもデザイナーの仕事だと思っています。

    ───なるほど。デザインとして形にする前段階から議論に加わることもあるのですね。

    折笠:そうですね。「かっこいい」「スタイリッシュ」といった見た目の印象は、個人の好みによって評価が分かれますよね。でも会社として一つの製品を作り上げるには、集団で意思決定をしていく必要がある。「なぜ、この形がベストなのか」「なぜ、この装置が必要なのか」「デンソーらしさとは何か」全てにロジックを立てて、判断基準やプロセスを整理しながらデザインをしています。

    ───これまでに印象に残っている製品デザインはありますか?

    折笠:みなさんの生活に身近なところで言うと、コンビニで使われているバーコードスキャナーのデザインを手がけたことがあります。ご存知のとおり、バーコードにかざして商品の内容を読み取る装置ですね。

    まず最初に取り組んだのは、いろいろなコンビニに足を運び、店員さんの手の動きを観察することでした。ペットボトルやお弁当、おにぎりなど、形状の異なる商品を次々にスキャンしていく何気ない作業。ですがよく観察すると、手首の捻りが大きかったり、バーコードが拾いづらそうだったり、課題が見えてくるんです。

    より楽に作業ができるには、どうしたらいいだろう?

    試行錯誤した結果、グリップの左右どちらからでも均等な角度でアクセスできるデザインを設計し、筋肉疲労を軽減する新しいバーコードスキャナーの開発に成功しました。

    ───素晴らしいですね!

    折笠:ただ作って終わりではなく、モノの先には必ず人がいます。だからこそ、実際に使う人の様子を見たり、意見を聞いたりすることは大切にしていますね。

    「誰かのため」にデザインの力を発揮したい

    ──そもそもデザインの仕事を志したきっかけは何だったのでしょう?

    折笠:子どもの頃から、絵を描くのがとにかく大好きで、将来は漫画家になりたいと思っていました。自由帳に描いた絵を「わぁ!すごい!」と同級生が喜んでくれ、休み時間になると「描いて!描いて!」と列ができることも(笑)。絵を描いて喜んでもらえた、そんな嬉しい経験が、今につながっているのかなと思います。

    そこから具体的に、製品デザインを専攻したのは大学時代からです。学問としてより深く美術を学ぶなかで、自己表現としてのアートと、目的を見据えたデザインは別ものだと捉えるようになりました。

    私自身は「誰かのために、課題を解決するために」設計するデザインの方が向いているなと感じて。課題解決の一助となるデザイナーになりたいという想いからデンソーに入社。製品開発に向け論理的に考える時間は楽しいですし、やりがいを感じますね。

    ───製品デザイナーに辿り着くまでに、そのような経緯があったのですね!

    折笠:現在はカーボンニュートラル事業をメインに担当していますが、実はそれも幼い頃の夢が叶ったと言っても過言ではないんです。

    ───というと...?

    折笠:子どもの頃からずっと、環境やエネルギー問題に関心があって。「いつか化石燃料が枯渇する」というニュースを見聞きしていたこともあり、危機感がありました。大人になったら、科学者や発明家になってエネルギー問題を解決する仕事がしたいと志した時期があったほどです。

    ───関心の高いテーマだったのですね。

    折笠:結果的にデザインの道に進みましたが、課題解決のための仕組みを設計したり、新しいアプローチを考案する製品デザイナーの仕事は、発明に近い領域だとも感じています。

    ───子どもの頃に描いた夢を、徐々に形にされているのですね!

    折笠:やはり「誰かのために」という想いが何よりの原動力になっています。社内でもカーボンニュートラルを夢物語ではなく、本気で実現しようと日々努力を重ねている人たちがいます。そういったエンジニアや営業メンバーの姿を見ると、どんなに困難でも「この人のためになんとか形にしたい!」「自分も一員として事業を成功させたい!」とモチベーションが上がるんです。メンバーの熱量に自分の熱量も呼応して、より良いものを作り上げる。そんな好循環が生まれていますね。

    組織で価値を発揮する、デザイナーの役割

    折笠:大人になった今でも、よく漫画やイラストを描いています。手を動かしていると頭の整理やリフレッシュになって、会議の内容がより頭に入ってきたりするんですよ。常に描くことと頭がつながっていると、アイディアも湧きやすくなります。

    ───好きなことを仕事に活かしながら、楽しんでいる姿勢も素敵ですね。

    折笠:ありがとうございます。でも入社した当初は、組織のなかで自分の価値をどう発揮していけばいいか、悩むこともありました。周りは理工学部・理系の大学院卒といった高学歴な人がほとんどで、会社として取り扱う業務も、研究、開発、設計、生産技術、品質保証などの専門領域になります。新人研修ではまったくついていけませんでしたね(笑)。デザインには長けていても、その強みをどう会社と結びつけたらいいか、正直、分かりませんでした。

    ───なるほど...。それからどのようにして突破口を見つけたのでしょうか?

    折笠:会議のときに、議論の内容を紙に図式化していたことがあったんです。誰かに指示されたわけではないですが、自分の思考の整理も兼ねて手を動かしていました。そして発言権が与えられたときに、「こういうことですか?」とビジュアルで説明したんです。すると、「わかりやすい!」と意外にも好反応をもらえて。

    ───おお!

    折笠:議論が複雑化したときや、合意形成が取りづらいときに、抽象的な概念を図式化・可視化することによって議論を前に進めることができる。たとえ難易度の高い領域だったとしても、デザインのちからで集団をロジカルに意思決定まで導くこともできるのだと、自分の強みを発見できた成功体験でした。

    今では会議が始まるとホワイトボードに立って議論をまとめる役になっています。

    デザインでわかりやすく説明する折笠さん

    ───組織で強みを発揮できた瞬間だったのですね!

    折笠:そうですね。自分の居場所を見つけられたような気持ちでした。私たちの仕事はカーボンニュートラルを始めとした世界規模の課題に挑戦していることもあり、成果が出るのは何十年も先になる可能性があります。だからこそ、小さな達成感や、組織で役に立っている実感は、1日1日アクションを積み重ねる上で、必要なことのように思いますね。

    自分の“好き”と社会課題を結びつけられたなら

    ───最後に、そんな折笠さんが描くWill(夢・志)についても教えてください。

    折笠:デザインという自分の職能で、「その先にある未来」を実現したいです。個人的にこういうデザインがしたい!という思いよりも、エネルギーやモビリティの課題を解決したいという気持ちが前にきます。誰かのためになるデザインを世の中に送り出したい。その一心で、挑み続けたいと思っています。

    だからこそ表層的な美しさだけでなく、その土台となるファクトが何より重要だと思っていて。デザインは企業メッセージに直結する分野でもあるので、環境問題やカーボンニュートラルといった難しい分野を扱っているからこそ、本質的なデザイン設計を心がけたいです。

    ───折笠さんの揺るぎない価値観が伝わってきます。

    折笠:一方で、会社の事業と自分のWill(夢・志)の結び付きを見つけるのは時間がかかることかもしれません。そんな時には「自分のために仕事をする」ことも大事にしてほしいです。

    というのも私自身、好きなデザインを通じて実現したい社会に近づいている実感があるからこそ頑張れていると思うんです。

    もちろん人に喜んでもらえたり、必要とされることはうれしいですし、仕事として価値発揮もしていかなければならない。

    ですが、子どもの頃のようにペンを持ってスケッチブックに線を描いている、その瞬間だけで幸せを感じられるんですよね。「自分なりに納得するデザインができた」「ここは、ちゃんとこだわれた」「かっこいい線が描けた」どんなに小さなことでもいいんです。

    自分がやっている仕事を肯定することも大事にしてほしい。それが会社・社会に貢献できることに結びつけば、自分も周りも幸せになっていくんじゃないかなと思いますね。

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