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くみ上げた地下水を、一度で捨てない。空調の冷却に使い、屋根の散水に回し、室外機の冷却を経て、最後は打ち水として地面に届ける——。株式会社デンソートリム(以下、トリム)が取り組んでいるのは、地下水を4段階にわたって使い切る省エネ活動です。
きっかけは、ある夏の空調故障でした。復旧に数カ月を要するなか、設備担当のメンバーが応急措置として屋根に水道水を散水したところ、温度改善だけでなく電力使用量の大幅な削減が確認されました。この経験をその場かぎりで終わらせず、地下水を活用した多段階の省エネ・創エネへと発展させた取り組みが評価され、2025年度省エネ大賞「資源エネルギー庁長官賞」の初受賞につながっています。
この記事の目次
年間水温約18.5℃。安定した地下水をどう活かすか
三重県菰野町にあるトリムは、鈴鹿山脈の麓に位置し、濃尾平野にも隣接する地下水資源に恵まれた地域にあります。深さ30m以上の深井戸を使用することで、地盤沈下の影響を受けにくく、水質・水量ともに安定した地下水を確保できる点が大きな特長です。
注目すべきは、その温度特性です。年間を通じて水温が約18.5℃でほぼ一定。夏は冷たく、冬は温かく感じられるこの安定した温度を、空調の電力消費が全体の24%を占める工場でどう活かすか。
今回のプロジェクトを推進した小林利光は、当時をこう振り返ります。
「屋根散水の効果を目の当たりにして、地下水ならもっとうまくいくのではないかと考えました。ただ、水を撒けばいいという単純な話ではありません。どの使い方が最も効果的で、かつ設備に悪影響を与えないか。そこを見極めることが最初の大きなテーマでした」
(小林)
小林たちが構想したのは、その考え方を変える「多段階利用」というアプローチです。
地下水の多段階活用——4つのステップ
トリムが構築したのは、地下水を段階的に活用する仕組みです。
まず、空調設備の冷却から。 地下水をコイル(ラジエータ)に通水し、空調機に取り込む外気をあらかじめ冷やします。空調の設定温度を下回る冷却効果により、年間35,099kWhの電力削減を実現しました。
次に、屋根への冷却散水と融雪です。 空調冷却に使用した後の地下水を屋上に散水し、夏場には表面温度が60℃以上に達する屋根を冷却することで、屋内温度の上昇を抑えました。削減効果は年間205,835kWhにのぼります。
冬季には、同じ散水の仕組みを融雪に転用しています。多い年には屋根に30cmもの積雪が生じるトリムでは、耐荷重の制約から太陽光パネルの設置が難しい状況でした。地下水による融雪がその条件をクリアし、1MW規模の太陽光パネル設置を実現。太陽光発電による年間1,181,824kWhの電力削減につながりました。省エネの取り組みが、創エネへと転じた局面です。
さらに、室外機の冷却へ。 屋根散水を経た地下水を空調室外機の熱交換器フィルターに散水し、間接的に冷却します。フィルター表面温度は13.3℃低下し、通過する空気の温度も6.0℃下がりました。
ここで課題となったのが、地下水に含まれるシリカ(ケイ素)です。散水によってシリカが室外機や太陽光パネルに付着すれば、せっかくの省エネ効果が損なわれかねません。チームは検証を重ね、直接散水を避けてフィルターを介した間接冷却方式にたどり着きました。
散水機器にも工夫があります。屋上散水後の水を溜め、一定量を超えると集水ローターが反転して水を放流する「からくり」構造です。15秒間隔で約200ccを散水し、フィルターを均一に濡らします。
最後は、打ち水散水です。 空調室外機周囲の土間コンクリートに地下水を散水し、打ち水効果により表面温度を下げます。ここでも動力は使わず、屋上と地上の高低差を利用した自然流下で散水する仕組みです。
空調冷却から打ち水まで、追加電力ゼロで水を使い切る。4段階の活用は、こうした仕組みで成り立っています。
省エネから創エネ、そしてBCPへ。一つの水源がつなぐ3つの価値
地下水の多段階活用がもたらした成果は、電力量にして年間1,464,758kWh、原油換算で年間326kL。事業所全体の10.8%に相当するエネルギー削減です。
しかし地下水の可能性は、省エネの枠にとどまりません。同じくプロジェクトに携わった原嵜亮佑は、BCP(事業継続計画)への展開についてこう語ります。
「現在は地下水用受水槽に浄水装置を設置し、緊急時には飲料水として利用できる仕組みを整えています。停電時にも移動式発電機を接続すればくみ上げが可能で、受水槽の蛇口から必要な水を使用できます」
(原嵜)
自然条件を深く理解し、設備設計と運用に落とし込むことで、一つの水源から3つの価値が生まれました。
足元の資源を見つめ直すことから
大がかりな設備導入ではなく、現場の気づきから始まった取り組みです。空調が止まるという予期せぬ出来事と、「目の前にある水を使えないか」というシンプルな着想が出発点でした。
「今回の取り組みでは、関係者全員のアイデアを結集して、地下水を省エネ・創エネ・BCPのすべてに活用する形にできました。今後は地下水活用をさらに進化させるとともに、生産設備のエアーなど、まだ残されている省エネの可能性にも目を向けていきたい。デンソーグループとも連携しながら、グループ全体での省エネに取り組んでいきたいと考えています」
(小林)
特別な条件がなければできない取り組みではない、と小林は言います。地下水の温度特性は、地域によって異なります。しかし、自分たちの足元にある資源を丁寧に見つめ直し、その特性を理解し、知恵と工夫で使い尽くすという姿勢は、どの現場にも通じるものではないでしょうか。
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