EVの普及によって生まれる、エネルギーと暮らしのイノベーション

デンソーのデータ活用基盤が、EV時代の新たな価値創造を支える

車が電動車(EV)に置き換わったら、何が変わるのでしょうか?おそらく外観に劇的な変化はないでしょう。ですが、内部の仕組みや利用するエネルギー、環境への負荷は大きく変わります。

同じように、EVが普及した社会も、見た目は現在とあまり違いがないかもしれません。ですが、見えない部分の仕組みや環境に与える影響は大きく変わる可能性を秘めています。

モビリティのEV化による社会の変容は「EVトランスフォーメーション」とも呼ばれ、注目を集めています。EVトランスフォーメーションとは、一体どのようなものなのでしょうか。

この記事の目次

    事業者のEV化に立ちはだかる三つの壁

    経済産業省が2020年12月に関係省庁との連携で策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を踏まえ、日本では「2030年から2040年までにかけての乗用車・商用車の電動化目標を定め、電動車の普及を促進する」方針が定められました。

    この先、EV化が進むことによる影響は、生活者だけでなく、事業者にも現れます。保有している社用車や事業で使う車両の数は、事業内容によっては相当な数に上ります。事業者はそれらをEV化していく必要があるのです。

    しかし、事業者がEV化を進めるということは、単に保有している自動車をEVに変えればいいわけではありません。EV化を進める上では、大きく三つの壁が立ちはだかります。

    一つ目は、充電・給電インフラの壁です。現状、国内の充電・給電インフラは、ガソリンスタンドなどに比べて数が多くはありません。EVを使って、時間や地域を問わず安定したサービスを提供するために、事業者は公共の設備を利用するだけではなく、必要に応じて新たな設備を事業者自身で用意しなければいけません。

    二つ目は、充電時間の壁です。ガソリン車の給油は数分で済むのに対し、EVの充電にはバッテリー容量によっては数時間かかります。急速充電器を導入すれば数十分程度に短縮できるとはいえ、ガソリン車に比べると、運転する社員の拘束時間や移動時間、輸配送の時間は延びてしまいます。

    三つ目が、電力マネジメントの壁です。事業者が数十台、数百台のEVを抱えている場合、それらを一気に充電すると、オフィス等で契約している電力量を容易に超えてしまうでしょう。利用できる電力量を踏まえつつ、いつ・どの車両を充電するのかといったマネジメントが必要となります。

    これらの壁を乗り越えるためには、エネルギーマネジメントの高いリテラシーが求められます。EV化が求められているにも関わらず、事業者が単体で乗り越えるにはハードルが非常に高い。抜本的な変革が求められているのが、「EVトランスフォーメーション」が注目される背景です。

    データを活用し、EV化をビジネスチャンスに変える

    こうした事業者のEV化における壁を乗り越え、EVトランスフォーメーションを推進するためには、発電から蓄電、充電、再利用などエネルギーマネジメントの仕組み全体を設計し、実装していくことが欠かせません。

    デンソーでは各領域を担う部署が連携を取り合ってEVトランスフォーメーションを推進していますが、その中でデータ連携領域の開発を担当するまちづくりシステム開発部 バリューチェーン基盤開発室の田内 真紀子は、「こうした変化は多くの事業者にとって悪いことばかりではなく、EVへのシフトは大きなビジネスチャンスでもある」と話します。

    「EVは、言わば一つの『電池』です。充電器や蓄電池と組み合わせてビル全体の消費電力をコントロールしたり、緊急時に電力供給を行ったりする等、エネルギーにまつわる一連の仕組みをトータルで提供することで、事業の幅を広げることができます。

    実際に、テスラは自らを『エネルギー事業者』であると言っています。2016年前後に自動車業界では、製造業からサービス事業者への移行を宣言する企業が多くいましたが、今後はエネルギー事業者にもなっていくかもしれません。

    すでにEVのエネルギーマネジメントと併せて運行管理・車両管理のサービスを提供する、あるいはEVの使用済みバッテリーを再利用するサービスなど、新たなビジネスが生まれているのです」(田内)

    EV化を事業者にとってのビジネスチャンスに変えるため、デンソーは給電システムや充電器などのハードウェアの提供に加え、モビリティ領域におけるデータ連携・解析の技術を活かせないかと検討を行ってきました。田内はこう語ります。

    「もともと、デンソーではCASE(※)が話題になっていた2010年半ばごろから、多種多様なモビリティからリアルタイムに取得したデータをクラウドに連携させ、デジタル上で解析、得られる結果をもとに価値あるサービスを提供してきました。

    その中で2020年ごろからEVシフトの流れがあり、今はモビリティだけではなく、エネルギーのインフラをどうデザインし、マネジメントしていくべきかといった部分も含めて、検討する時代に入ってきていると捉えています。

    その中で、これまで培ったデータ連携・解析技術を活用し、デンソーとして貢献できるところはないかを探索してきました」(田内)

    EVトランスフォーメーションのためのエネルギーマネジメントには、各車両の電力使用量やバッテリーの残量など、様々な要素が関係します。また、それらのデータをEVや各種機器から取得し、デジタルに変換した上で解析し、全体最適を図る必要があります。

    デンソーのデータ活用基盤技術を用いることで、多様かつ膨大なデータを柔軟に活用できる環境づくりが可能になります。

    ※Connected(コネクテッド)、Automated/Autonomous(自動運転)、Shared & Service(シェアリング)、Electrification(電動化)の頭文字をとった造語。

    多種多様な課題に寄り添い、最適なソリューションをセットで提供

    デンソーのデータ活用基盤では、EVや充電器、発電システムなど、EVに関わる様々な設備・デバイスからデータを取得し、それらを信頼性の高いデータ制御技術によって安全に管理できます。

    収集できるデータは、エネルギー消費やCO2など温室効果ガスの排出量、各車両の電池残量など多岐にわたります。データを蓄積した後は、エネルギー排出量予測やバッテリーの劣化診断、発電量予測など、デンソーが開発してきた多種多様なアルゴリズムで解析し、様々なサービスとの連携も可能です。

    それらのデータを解析・活用するためのアルゴリズムやシステムはもちろん、蓄電や給電・充電に必要な設備もトータルで提供するのがデンソーのソリューションの特徴です。

    「デンソーは発電システムから蓄電池、充電器、給電システム、そしてデータを取得するのに必要な車載デバイスなど、エネルギー関連技術を幅広く揃えています。加えて、充電や放電を予測して、電池の劣化を防ぐ解析のためのアルゴリズムも磨いてきました。EVトランスフォーメーションに必要なエネルギーマネジメントのためのアセットを持っているからこそ、それらをお客様の課題に合わせて柔軟に結びつけ、最適なソリューションを実現できるのです」(田内)

    具体的にどのようなソリューションを提供できるのでしょうか。車やエネルギーの流れをデータで可視化し、その流れの最適化を測るアプローチについて、田内は物流企業の例を挙げて解決の事例を説明します。

    「たとえば、物流企業が『EVによる輸送を安定して行いたいが、充電の管理や設備が整っていない』という課題を抱えているとします。

    まず、データ解析システムを提供し、『車がどの位置にいて、何時ごろに戻って、電池が何%減っているから、このタイミングで充電する』といった充電管理を可能にします。

    また、解析システムと実際の蓄電設備を連携させて、『この車は3時から6時で充電』といった予約を行い、そのデータをもとに蓄電設備を自動で駆動させるなど、ソフトとハードを組み合わせたソリューションによって、スムーズかつ安定したエネルギー供給を可能にします」(田内)

    EVトランスフォーメーションの取り組みはまだ始まったばかり。今後も様々な事例が生まれていくことが予想されます。

    EVトランスフォーメーションをチャンスに。企業の実証実験と新たな価値創出を支援

    デンソーはEVトランスフォーメーションを推進した先に、事業者の新たな価値創造の後押しも視野に入れています。データ活用基盤を使って、車など様々なものをデジタルの仮想環境に再現、その仮想環境で製品やサービスの開発からマーケティングや販売戦略のシミュレーションなどのユースケースも想定しています。

    「デジタルツインを活用し、製品デザインからサプライチェーンの構築、販売・マーケティングなどの検証、さらには車両やデバイスを使った実証実験もデジタル上で行えるような『バリューチェーン基盤』を提供できないかと考えています。EVトランスフォーメーション関連の事業やサービスを創出する際、環境を一から用意するよりも開発・検証のスピードを高めることが可能となり、新たな価値創造や社会実装を支援できます」

    EVトランスフォーメーションが進み、様々な事業やサービスが生み出されていくと、個人の暮らしにも変化が起こり得ます。田内は、個人にもエネルギーマネジメントのためのソリューションが提供されるようになると、人とエネルギーとの関わり方にも変化が起こると、一つの未来図を示します。

    「個人が自らの所有する電気使用量を把握したり、必要に応じて蓄電したり、あるいは電気を個人が売り買いするようになるかもしれません。これまで電力会社から供給されるものだった電気を、個人がより自由に扱えるようになるのです」(田内)

    EVトランスフォーメーションによって新しい事業やサービスが生まれるだけでなく、EVを軸に個人がもっと便利にエネルギーを使い、豊かに暮らせるようになる。そんな社会をデンソーは見据えています。もちろん、そうした世界観は一社で実現できるわけではありません。クラウドサービスを提供するIT企業と新しいデータ技術の共同開発を行ったり、半導体メーカーと高度な電子制御を行うECUの開発を進めたり、企業連携も強めています。

    「EVへのシフトはもちろん、EVを活用した新たなサービスや仕組みづくりに必要な仕組みや技術を確実に揃えていきたいと考えています。企業がEVを活用して『やりたい』とアイデアや発想が生まれたときに、デンソーがすぐに支えられる。『はい、どうぞ』とぴったりのソリューションが提供できる状態を目指していきます」(田内)

    あらゆる転換期には混沌や課題がつきものですが、それらを乗り越えた先に新たな価値が生まれます。その源はいつだって、誰かの「何かをやりたい」という気持ち。その気持ちを形にし、価値を生み出す土壌を耕すために、デンソーはEVトランスフォーメーションを推進していきます。

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    執筆者:Inquire

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