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私たちの暮らしを支える「物流」が危機に直面しています。2024年法規に端を発するドライバー不足問題です。ドライバーの労働負荷を軽減しながら、高効率に物を運ぶための「新しい物流のかたち」が求められています。
デンソーは、より働きやすく、地球環境にも優しい効率的な物流の仕組みを構築しようと、次世代の幹線中継輸送サービス「SLOC(Shuttle Line Of Communication)」を開発。実証実験を重ねながら、事業として成立するかたちを追求してきました。
今回は、SLOCの推進メンバーにインタビューを通じて、事業化・社会実装に向けた課題や、今後のビジョンを紹介してもらいました。
この記事の目次
実証実験を通じて得られた「新しい物流のかたち」の実現への手応え
幹線中継輸送サービス「SLOC」は、物流を取り巻く構造的課題を解決するソリューションです。荷物を積載する荷台部分が脱着できるスワップボディコンテナ車両を活用。QRコードを使った運行管理システムを導入することで、複数の荷主と複数の運送業者を最適に組み合わせて効率的に 荷物を運ぶ新しい輸送形態の実現を目指しています。
2019年4月に始まったこのプロジェクトはこれまで、「SLOC」の事業化に向けた課題の洗い出しや、効果の確認を行うために実証実験を積み重ねてきました。
特に2023年7月の実証実験では、「SLOC」が物流業界における人手不足や長時間労働の解決に有効な手段の一つであること、そしてCO₂排出量を削減し環境負荷低減にも貢献することを証明できました。
その実証実験は、5社の荷主企業と中継地点となる倉庫を提供する企業、そしてデンソーの7社合同で実施。南関東から関西までの約500Kmにおいて、「時間外労働の上限規制」によって増えると想定される輸送リードタイムを、「SLOC」を導入することによって約30%短縮。また、各社のドライバー要員を42%削減し、帰りの便の空荷を最少化することで、CO₂排出量も46%減少させることができました。
2023年7月の実証実験を踏まえて、2024年4月にも再度実証実験を実施。その模様は、DRIVEN BASEでも現地の様子をレポートしています。こちらの記事もぜひご覧ください。
「SLOC」の商用化に向けて、乗り越えるべきいくつかの課題
実証実験を重ねながら商用化に向けての手応えを得られた「SLOC」プロジェクトは、さらに活動を加速させるために、デンソーに新設された社会イノベーション事業開発統括部に合流。物流業界の変革を目指して、事業化確度を高めています。
その過程で、いくつかの課題も明らかになってきました。社会イノベーション事業開発統括部 物流事業戦略担当部長の酒井 敏也は次のように語ります。
「課題として挙げられるのが、複数荷主の荷物を一緒に運ぶ『混載輸送』の最適化です。東西両方の荷物がバランスよく必要なこと、中継輸送を行うためにコンテナを交換する場所が不可欠なこと、出発時間や納品時間の調整が必要なことなど、クリアすべき課題がいくつもあります。事業化のためには、こうした課題を解決していかなければなりません」(酒井)
また、荷主、運送会社、コンテナのマッチング精度を上げることも課題として挙げられます。
「SLOCの実用化に際して、より多くの荷主や運送会社との調整や、コンテナの最適な受け渡しタイミングの算出が求められます。その際、トラック台数や配送ルートのほか、ドライバーの休憩時間や荷役作業時間、配送時間制限などの制約条件、交通状況などといった複雑かつランダムな条件のもと、最適なルートを導き出す必要があります。その課題に対しては、AI研究部と連携しながら、疑似量子コンピューティング技術を用いることで解決していこうとしています」(酒井)
これらの課題解決を進めていくにあたって、「物流業界の構造的な問題にも向き合っていくことが求められる」と、社会イノベーション事業開発統括部の野村 江介は語ります。
「運送会社は、業種や荷主ごとに縦割りで決まっていることが多く、そこには慣習や利害関係が存在します。『革新的なシステムを導入し、万事解決』できるような簡単な問題ではなく、複数企業を横断した混載の取り組みがなかなか進まないのも、そういった背景があるのです。
だからこそ、複数の企業の間を取り持ちながら、両者がWin-Winとなるような解決の糸口を泥臭く探っていく『コーディネーター』としての役割が非常に重要になります。その役割をデンソーは担っていこうとしています。
運送企業でも物流企業でもない、第三者の立場だからこそ、さまざまな協力企業との信頼関係を横断的に構築し、業界や産業の垣根を越えた最適化に取り組めるのだと思うのです」(野村)
運ぶ人も地球も“幸せ”にする物流を目指す
「SLOC」は、2025年までの事業化を目指しています。そのために、さまざまな企業に協力してもらいながら、物流業界にプラスの循環を生み出していくための挑戦を続けています。
そして将来的には、社会イノベーション事業開発統括部の他テーマとの連携も見据えているといいます。
「例えば、将来的に物流車両の電動化が進んでいくことが考えられます。その際、充電スケジュールや充電設備の可視化も含めた調整をしていかなければなりません。車載電池の状態診断を行う『電池SOH(State of Health)診断技術』や、QRコードとブロックチェーン技術を用いて車載電池のトレーサビリティを担保する『バッテリーパスポート』の開発を進めているチームとの連携が必須となるでしょう」(酒井)
また、SLOCの考案者である野村には、このプロジェクトを絶対に実現したいという強い思いがあります。
「これまで100社を超える物流関連企業へのヒアリングを実施してきました。多くのドライバーは毎日長時間の残業を行い、家にもなかなか帰れないといった労働環境の中で日々働かれています。
先日、SLOCの実証実験の場で、とあるドライバーさんと実証後の振り返りをしていたのですが、その中で『実は今日でドライバーやめるんですよ』と私に打ち明けてくれました。子どもが生まれたばかりで、家族の時間を大切にするためにこの仕事を続けていくことが難しい、と。私は今でも、そのドライバーさんの何とも言えない表情が忘れられないんです。
私は、この「SLOC」の取り組みを通じて、トラックドライバーの仕事を誰もが憧れを抱くような職業に変えていきたいと思っています。運ぶ人も地球環境も“幸せ”にする物流の実現に貢献していきたいんです」(野村)
私たちの便利な生活を支える「物流」。そこに従事いただいている皆様への「感謝」と共に、「最新の技術」、「快適な仕組み」をお届けしたいと思います。これからも「SLOC」の価値向上を続けていきます。
「できてない」 を 「できる」に。
知と人が集まる場所。