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内野 洋 Hiroshi Uchino
2003年入社。国内外で調達センターの立ち上げや生産性向上プロジェクトを主導した経験をもとに、「苦戦ラインの出力向上活動」を発案し、推進・改革する室を立ち上げ室長に就任した。過去にカナダの先住民の村で暮らしたり、M-1グランプリに出場したりするなど、興味を持ったことは何にでもチャレンジする性格の持ち主。
世の中に出回り、社会を支えている内燃機関用部品。電動車(EV)の波が押し寄せる中、その一部の製造ラインでは与えられるリソーセスの最適化が求められています。生産調査部に所属する内野 洋は、現場にスポットライトを当て直すことが、この課題に立ち向かう鍵だと語ります。内野が見据えるデンソーの未来像とは。
この記事の目次
現場にスポットライトを当てて、生産性の向上をめざす
──はじめに、現在取り組まれている活動を教えてください。
生産性の向上に苦慮している100近くの製造ラインを対象とし「短期間で出力を向上させるプロジェクト」を推進しています。私が室長を務める生産調査部TPM(Total Productive Maintenance)改革2室が生産性向上のプロ集団として、各ラインの現場メンバーと協力し、製造にかかわるすべてのリソーセス、つまり人・設備・モノ・情報などを効率的に扱うことで、生産性を向上させるとともにリードタイム短縮をめざします。
ただし、一過性の結果を求めているわけではありません。プロジェクトの期間は2年と限られていますが、最終的には、製造ラインの現場が自走して生産性向上に取り組める基盤を作ることをゴールとしています。
──プロジェクトを立ち上げた背景は何だったのでしょうか?
そもそも生産性向上はわれわれにとって永遠のテーマです。少ない人数で、いかに量的・質的に高いアウトプットを出せるかがミッションとなっています。
常にフル稼働状態にある現場で生産性向上をめざした取り組みがしっかりできるように、日々試行錯誤しながら業務にあたっています。たとえば設備が故障したとしても直すのが手一杯で、なぜ故障したか、どうすれば故障しなくなるかといった分析をする余裕が持てない製造ラインも多数存在します。故障した原因を特定して対処しなければ、また同じ事が起こる可能性があります。
そうした状況を回避するために、生産性向上に関する専門的知見を持ったわたしたちがサポートしているんです。
──現場を支えるプロ集団ということですね。具体的にはどういった領域の製造ラインが対象となるのでしょうか?
とくに注力しているのは、内燃機関製品を製造している領域です。内燃機関製品の製造ラインの中には、EVシフトが進む中で、移管や規模縮小を控えていて、大きな設備投資が難しくなっているラインもあります。
しかし、市場のニーズを考えれば、まだまだ需要が高く、今のデンソーを支えている重要な領域です。大きな設備投資を行わずとも生産性向上が実現できる体制を構築し、質の高い安定的な稼働に向けて活動を進めています。
──内野さんと一緒に働いているメンバーは、さまざまな部署から異なる技術を持った人がアサインされ、デンソーの中でも珍しいオブジェクト型のチームだと聞きました。こうしたチームが作られた背景を伺えますか?
現在のチームが作られる前年度、社内の専門人材を10名ほど集めたチームを作り、2つの製造部で生産性向上に苦戦しているライン(以下、苦戦ライン)での出力向上に取り組みました。現在、私が率いる生産調査部TPM改革2室はこのチームが前身となっています。
インドとタイに赴任していたときに、少人数ではありましたが専門性を持った人たちが連携し、一つの目的に向かって切磋琢磨し成果を出すという経験をさせていただきました。
帰任後、いつか日本でも同じように部署、機能、事業の「枠」を超えて連携しオブジェクト軸で生産性向上に取り組みたいと思っていたところ、このようなチャンスと仲間に恵まれ、スモールスタートで走り出しながら一定の成果を出すことができました。その実績をもとに、対象ラインを拡大すべく50名規模に増員した今のチームを23年6月に発足させました。
“素の自分”になり獲得した積極性
──プロジェクトを発案し、オブジェクト型のチームを自らつくるのはすごいですね。とても積極的なリーダーに感じますが、そうなるきっかけがあったのでしょうか?
もともと私は場の空気を必要以上に気にして、言葉を慎重に選ぶ性格でした。そのせいで、本来伝えるべきことを伝えられなかったり、明確な意思表示ができなかったりしたことも少なくありません。そんな中で受けた社内のマネジメント研修で講師に言われたんです。
「内野、答えを置きにいくな」と。
“気づかれた…”と思いました。
いつも自分の立場を守って、人から求められている言葉を探って、当たり障りのない受け答えをしている弱い自分を見透かされたのです。自覚はありましたが、他人から指摘されたのは初めてのことでした。体が熱くなるほどグサッときました……。感じたままに伝えることで、相手が傷つき、ネガティブなことが起きてしまうのではないかと思っていたのですが、本当は自分が傷つくのが怖かったんですね。
この研修の中では、その言葉を何度も繰り返し言われ、恰好をつけず思うままに答えることを意識し続けるようになりました。研修の後半では、飾ることなく“素の自分”で仲間と議論できるようになったと思います。今までの自分はいったい何を恐れていたんだろう……。心配していたことは、すごくちっぽけだったことに気づきました。
そこからです。積極的に行動をはじめることができたのは。当然、人と意見がぶつかることも増えましたが、結果的には物事が前に進みやすくなりました。
たったひとりの社員でも会社を変える大事なピース
──そこからプロジェクトを実行するに至ったのには、どういった経緯があったのでしょうか?
研修を通じて、感じたことを流さず、場の流れに逆らうことになったとしても、勇気を持ち、自分の仕事に対する想いを発言することで、より高みをめざせると学びました。
デンソーの社員はグローバルで17万人にも上ります。以前までは、17万分の1である自分に、いったい何ができるのだろうと、すごくネガティブな考え方をしていたのですが、熱い想いを持った人材が100人、あるいは1,000人集まり、そのうちの“ひとり”と思えばとても大きな存在です。自分もこの会社を支える「大事なピース」なのでは、と思えるようになりました。
そう思いなおし、あらためて自分の仕事に対する想いを丁寧に整理したことがきっかけになっていると思います。
──自らが率先して行動する勇気を得たのですね。
次第にあれをやりたい、これをやりたいと、いろいろなことが思い浮かぶようになり、さらに積極性が出てきました。
そして、部長や役員の方に、「苦戦ラインの出力向上活動が会社で認められるプロジェクトになるのであれば、僕が先頭に立ってやりたいです。自ら主導してこのプロジェクトの規模を大きくしていきたいです」と伝えました。
結果、想いと熱量でプロジェクトは認められました。そして、このプロジェクトに必要な優秀なメンバーがアサインされ、現在の室が開設されるに至ります。
──その勇気や熱量が現在のチームにも生かされている感覚はありますか?
大いにあります。私が率いているチームは設備改善を中心に生産性を向上させるチームですが、実は私自身には、工機や生産技術、設備保全といった設備改善に関する実務経験がないのです。もしかしたらチームの中で一番知識や経験が不足しているとも思っています。
過去の自分であれば、室長としての立場を意識するあまり、知ったかぶりをしてしまっていたかもしれません。しかし今では「わからないから教えて」と素直に言うことができます。
「そんなことも知らないの?」と思う人がいるかも知れません。しかし、それよりも怖いのは知ったかぶりをすることで重要な局面の判断を誤ってしまうことです。
オブジェクト型で優秀なメンバーを集めているからこそ、マネージャーとしてはメンバーのポテンシャルを最大限生かすような土壌づくりが大切だと考えています。
当たり前を疑う勇気がデンソーの未来を切り開く
──チームはまだ立ち上がったばかりだと思います。プロジェクトを成功に導くために課題だと感じていることはありますか?
現在ゼロから仕組みを作っているフェーズであるため、正直うまくいかないことも少なくありません。そのような状況に前向きに取り組める人もいれば、くすぶってしまう人がいることも事実です。
みんなの気持ちを合わせるためにも、私が率先してメンバーに声を掛け、一人ひとりと1on1を実施し、本人が抱えている悩みや、秘めている想いを知ることを心がけています。最初からこちらの意見をぶつけるのではなく、耳を傾けることで出てきた彼ら彼女らの想いや希望を、個人の目標にフィードバックしています。
また、私とメンバーの間で1on1を実施するだけでなく、メンバー間のコミュニケーションがより円滑になるよう、“伝える力”と“聴く力”の訓練を行っています。
──非常に興味深いです。具体的にはどのような訓練でしょうか?
伝える力を身につけてもらうために、月に一度、メンバー自ら担当領域のトピックスを共有してもらう会を開いています。また、製造部との定例会でも積極的に前に立って説明してもらうようにしています。
専門性の高い領域だからこそ、設備の技術的な部分など、そのまま説明してもわかる人にしかわかりません。しかし、一緒に動く現場のメンバーに自分の実現したいことを共有できないと、目標達成はできないんです。
そのためにも、メンバーの一人ひとりが自らの考えを整理して、相手にわかりやすく伝える力を身につける必要があります。伝えることができなければ現場を動かすことも、仲間を作ることもできません。
また、チームアップを図っていく上でも、相手をリスペクトすること、理解しようとする姿勢、つまり“聴く力”が重要です。異なるバックボーンには異なる正義が存在します。自分の正義を振りかざしていたら、一生相手の正義は理解できないしシナジーも生まれない。自分の“枠”から飛び出し、相手の“枠”に踏み込むことで新しい景色が見えてくると思います。
──その訓練は、プロジェクトの成否だけでなくデンソーのこれからに欠かせない要素のように感じます。これからのデンソーにとって大事なことは何だと思いますか?
デンソーには優秀な人材がたくさんいます。それぞれの専門性がうまく溶け合って、ひとつの目標に向かったとき、もっともっと大きな力が発揮できると思うんです。
そのためには、社員一人ひとりが今まで当たり前だと思っていたことに対して「疑う勇気」を持たなくてはなりません。異なる正義がぶつかり合ったとしても、頭ごなしに相手を否定するのではなく、「自分が間違っていたかもしれない」「できていなかったかもしれない」とまず自分に向き合うことです。
たったそれだけで、視野も関係性も一気に拡がり、意図していないことが起こるかもしれません。あとは、飾ることなく“素の自分”で感じたままに伝えることですね。
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