3. 地域ごとの経営のかじ取り
(2)DNHAが第2のカーメーカーサプライヤーであるスブロス社をサポートすることで、信用できるパートナーとして顧客の信頼を確立― 「多様性の中の調和」
環境事故(火災)から復旧するためにスブロス社との連携を強化し、顧客への安定供給を再開
インドの宗教、言語、文化の豊かな多様性を受け入れたデンソーは、その多彩な文化が織りなす複雑なタペストリーの中に、団結力の強さを見いだした。この「多様性の中の調和」に対する取り組みは、単なる理念を超えたものであった。2012年5月、ビジネスパートナーであるスブロス社が深刻な火災事故に見舞われ、マルチ・スズキ・インディア社のサプライチェーンに混乱の恐れが生じた。エンジン制御モジュール(ECM)と暖房・換気・空調制御システム(HVAC)の重要な生産ラインが深刻な損傷を受けた場合に、デンソーのグローバルな力でマルチ・スズキ・インディア社をいかにサポートできるかは、大きな課題だった。
スブロス社のビジネスパートナーであるデンソーは、場所が近いこともあり、進んで復旧作業の指揮を申し出た。問題の大きさにくじけることなく、デンソー・ハリアナの経営陣は復旧作業の陣頭指揮を執った。優先順位は明確だった。可能な限り迅速に支援と復旧を行うのだ。スブロス社のダイ(金型)は修復不可能と思われる損傷を受けており、これが大きな障害となった。しかし決意と工夫を武器に、チームは1週間以内の復旧に成功した。DNHAに仮設ラインを設置し、スブロス社のためにECMを生産した。
製品の優先順位と復旧計画の戦略を練るために、連日マルチ・スズキ・インディア社との会議が開かれた。主な課題の一つは、生産ラインの設置に9カ月もの膨大な時間を要することだった。チームは驚くべき工夫と俊敏性を見事に発揮して、わずか3カ月で設置を完了した。この過程で、厳しい納期に間に合わせるために、他の国から機械を空輸するのと同時にもう一つ別のラインを設置した。
この出来事は、逆境の中で発揮されるデンソー社員の団結とレジリエンスの本質を示す好例である。デンソーのメンバーが誓いを記した横断幕は、スブロス社を支える献身的な姿勢の象徴だった。スブロス社のMDであるシュラッダー・スーリー(Shraddha Suri)氏が受け取ったこの横断幕は、「多様性の中の調和」に対する誓いの深さを明確に示す、特別な敬意の印となった。
「多様性の中の調和」は単なる美徳を超えて、日常の業務管理の指針となった。多様な思考パターンによって培われた団結が、多次元的な発想と集合知を通じて課題の壁を壊す集団的な力を生み出した。この団結は、インドの事業地域にまん延する労働運動の負の影響に耐えるだけでなく、デンソーの安定的な操業を支える力となった。統一された強い目的意識のおかげで、デンソーは一貫して顧客の厳しい期待に応えることができたのだ。