1. サーマルビジネスの拡大
(1) ブラジル初のカーエアコン事業立ち上げ
1989年1月、政府の経済政策「サマープラン」が実施されると、ブラジル経済は期待に沸き、実質GDPの伸び率が前年比3.6%増まで回復した。
ゼロ成長から一転し、ようやく薄明りが見えてきたのを踏まえて、自動車業界も活気づき新車投入が相次いだ。NDBCもフィアット社からテムプラ向けHVAC(Heating Ventilation and Air-Conditioning)を受注。1990年から量産を開始した。

当時のカーエアコン装着率はまだ15%程度であったが、2000年には60%ほどに達するとの見通しがあった。そこでNDBCは1991年にデンソーとしてブラジル初のカーエアコン工場を立ち上げた。カーメーカー各社でも国産化規制の中で現調化率を高めること、およびこれによるコストダウン要求が高まっていた。エアコン工場はエアコンシステムとしての顧客貢献とデンソーの拡販を狙うため、他社に先駆けて建設されたのである。
事業立ち上げにあたり、クリチバ敷地内に建築面積4,800㎡のエアコン工場を新設し、エアコン組み立ておよびコンデンサーラインを設置した。工場のスペックや仕様については、基本的に現地側で計画したものであった。
しかし、ブラジル経済の回復は一時的な晴れ間に過ぎなかった。「サマープラン」の失敗が明らかになったことで、1989年の消費者物価上昇率は前年比1,319.6%と過去最高を記録、翌1990年3月には前月比84.3%と過去最高を更新した。
そこで、1989年11月に選出されたフェルナンド・コロール・デ・メロ大統領は、1990年3月に「コロール・プラン」を開始した。このプランではインフレを抑え込むために財政赤字削減の徹底化を図り、同時に預金凍結を行った。この預金凍結がデンソーの工場建設計画を直撃し、10カ月程度で完成するはずの工場建設に約1年半もかかることになった。
1992年4月、ようやく新工場の開所式を行うことができた。式典はNDBCの操業10周年式典と併せて開催され、パラナ州、クリチバ市の政府関係者をはじめ、デンソー本社の石丸典生社長、氏家長生専務、その他国内外の得意先、サプライヤーなど約200人の来賓が出席した。

エアコン工場の新設以降、NDBCはコンプレッサーやHVACに加えてコンデンサー、配管・ホースの生産にも着手し、次第にカーエアコンのシステムサプライヤーへと変貌を遂げていく。