ある日の夕方、カーエアコンの納入先から、1本の電話が入った。
「おたくの部品が取れちゃったよ!一体どうしてくれるんだ!?」
聞けば、新型車の組立工程で、エアコンの一部が破損したらしい。
納入先の担当者があせるのも当然だ。
部品はすでに、4000台の自動車に組み付け済み。
出荷は2日後、発売までは2週間しかなかったのだ。
とっさに抱いた使命感が、何をすべきかを告げていた。
組み付け済みなら、1台ずつボンネットを開けてチェックするしかない。
連絡を受けた担当者と上司は、すぐさま調査チームを編成。
着の身着のまま、現地に向けて5人が飛び出した。
車で5時間。納入先の工場に着くと、夜になっていた。
見渡す限りの新車に、迷う余地などない。
懐中電灯を手に、目視と触感による確認を始めた。
日が昇るころには、メンバーは15人まで増えていたが、
作業が終わったときは、再び日が沈んでいた。
幸いにも、問題の1台以外で不良品はゼロ。出荷にも間に合った。
一方、該当部品の製造工場では、対策会議が繰り返されていた。
「我々にとっては、
何千台のうちの
1台かもしれない。
だがお客様にとっては、
100%の不良品だ。
絶対に見逃せない」
40以上の全工程を徹底的に検証。
ついに、溶接工程に原因があると突き止めた。
そして現地調査チームが帰ったときには、解決策も決まっていた。
トラブル発覚から48時間で、出荷は再開。
後日、謝罪に訪れたデンソー役員は、
意外にもねぎらいの言葉をもらう。
「社員一丸となって問題解決にあたる姿に、
むしろ信頼が強まりました。
トラブルにここまで対応してくれたのは、
デンソーが初めてです。」
誰の責任かを追求するより、
一秒でも早く、お客様の困りごとを解決する。
「絶対にお客様にご迷惑をかけない」、
それがデンソーのモノづくりの真髄である。
2週間後、安全かつ快適な新型車が、華々しくデビューを飾った。
納入先との信頼関係は、いまも続いている。