1958年、日本政府は「5年後に貿易の自由化を行う」と発表した。
「アメリカ車が輸入されたら、我々はどうなるのか」
国内の自動車メーカーはもちろん、デンソーにとって大きな脅威だった。
そんな中、我々は一つの結論を導き出した。
創業間もないころから、
デンソーはQC(Quality Control)の導入を進めてきた。
自分たちの強みを磨き、激化する国際競争を勝ち抜く。
そのために、明確かつハイレベルな目標に狙いを定めた。
品質管理の世界的な権威の名を冠した「デミング賞」だ。
審査基準は非常に厳しく、世界最高レベルの知識・技術の習得が不可欠。
ここから全社一丸となった、凄まじい努力が始まる。
まずは過去の受賞企業を訪問し、
どんな準備や努力をしたのか、徹底的にヒアリングした。
著名な大学教授にも指導を仰ぎ、社外セミナーにも積極的に参加。
さらに独自のテキストを作成し、
経営者・管理者・スタッフ、階層別の教育計画を設定。
現場でも毎日のように勉強会が開かれた。
当時の社員5136人が、
1人残らず「品質管理」の習得に取組み、
自分たちの仕事の進め方を根底から見直した。
「日本電装の社員はひと目でわかる」当時の近隣住民の言葉だ。
社員は皆、通勤電車の中で熱心に品質管理の本を読んでいたという。
「QC……QC……」という父の寝言を、毎晩聞いたという息子の話もある。
講師の一人は「この会社は怖い。間違ったことを教えても徹底してしまう。
うっかりしたことは言えない」と漏らしていたという。
凄まじい努力は、実を結んだ。
1961年10月、デンソーはトヨタグループ初のデミング賞を受賞。
日本国内の品質管理の底上げにつながる
管理制度の開発にも大きく貢献した。
全社一丸となった経験は、研究の本質を伝えている。
研究職かどうかは関係ない。
自分の仕事の質を追究し、
研ぎ澄ませていくことが、
我々にとっての研究なのだ。