1966年、米国のカリフォルニア州で、世界初の排ガス規制が施行された。
大気汚染の悪化により、車への要求が高まっていくなかで、
自動車メーカーも対応に本腰を入れ始める。
当時の主流は、燃費や走りを犠牲にした排気対策デバイスの追加。
しかし、デンソーの技術者が見据えていたのは、
もっと先の未来だった。
将来どのような技術革新が必要になるかを考え、
顧客より先に抜本的な答えを用意していく。
それこそがデンソーの責務だ。
出した答えが、EFI (電子制御式燃料噴射装置)の開発だった。
エンジンを自由に制御できるEFIなら、
燃費も走りも損なうことなく次世代の規制をクリアできる。
業界への普及を見越すなら、やはりトヨタに使ってもらうのが一番いい。
ただ、当時EFIの実績はまったく無く、単価も高い。
トヨタは慎重だった。
しかし、リスクを恐れ、今ある技術の延長で済ませたとしても、
排ガス規制は年々厳しくなり、いずれは行き詰まる。
「EFIが主流になる日が、
必ず来る」
社会にとって
価値あるものは何か。
デンソーは、
その一点を見据えていた。
市場に出回る数が増えれば、値段も下がる。
まずは、メリットをなんとしても理解してもらわなければ。
当時の開発者たちは、書類での提案後、すぐにトヨタ車を購入。
自社でエンジン部品を組み替え、EFIを搭載したデモ車を製作した。
その性能を実車で体感させるためだ。
デモ車に乗ってすぐ、性能の違いに気づくトヨタの開発陣。
提案は無事トヨタに採用されることになった。
「一つの部品でも、自動車というシステム全体を考慮し、設計・評価する」
デンソー独自の哲学が生み出したのが、EFIという最高作品の一つだった。
そして、1972年、ついにデンソーのEFI を搭載したコロナマークⅡが発売された。
数々の葛藤と困難の過程で、彼らが心に抱き続けたのは、
車の負の側面を解決しつつも、
車の持つ魅力を一層高め
お客様に最高の品質を
届けたいという熱い思いだった。
車に乗らない人や遠い将来の人の思いにまで
想像をめぐらすことで
「顧客視点」で見つめる先は、
もっと高く、もっと遠くなる。