Episode1-2 インジェクタ不具合への対応

その行動は、
顧客と同じ視点に
立てているだろうか?

クリーンディーゼルの実現のため
デンソーが開発したコモンレールシステム。
その心臓部ともいえるインジェクタの生産工程で、
わずかに燃料が漏れているものが5本発見された。
生産課長は、すぐに生技室にいた元設計者を訪ね、調査を依頼。
想像以上に、事態は深刻だった。

「ネジのかかりが浅いため、
燃料を超高圧に留める
軸力が弱くなっている。
エンジンが破損する
可能性もあります」

急遽、製造部長、品質保証部長も含めた緊急会議が開かれた。
通常生産は停止。インジェクタの在庫選別も行なった。
一刻も早く報告をしたかったが、
ネジの形状不良がなぜ起こったのか。実際の製品にどの程度影響があるか。
発見された不良品が他にもあるのか。何も明確になっていない。
顧客のラインを止めないためにも、安易な報告はできない。
正確な情報を集めたかった。
仕入先にも足を運び、生産履歴の調査と再現試験が続いた。
結果、わずかに欠けた刃物のせいで、ネジの加工にミスがあったと判明。
一方で、不良品ロットの特定は難航した。
当時はトレーサビリティへの意識がまだ薄く、追跡体制が整っていなかったのだ。
繰り返される調査や試験で、疲れの見えてきた担当者からは、
「もしかしたら、実害はないかもしれない」
と甘い期待も出始めていたが、結果的にNG。
顧客への報告は、最初に不良品を発見してから約3日後だった。

「なぜもっと早く
言ってくれなかった。
デンソーさんと
うちの信頼関係は
こんなに薄かったの?」
いただいた返答は
叱責ではなく、落胆だった。

海外向けの完成車は1000台以上船積みされ、すでに出港してしまっていた。
市場流出という最悪の事態だけは防ぐことができたが、
海外の港で100台以上のインジェクタを載せ替えることになった。

いくら正確な報告をしたとしても、それが遅いと、
顧客の信用を失うだけでなく、
エンドユーザーへ危険が及ぶ可能性もある。

自分だけで抱え込まず、顧客にとってのリスクをすぐに共有し、
ともに解決にあたる。
いまとろうとしている行動は、
本当に顧客とエンドユーザーの目線に立てているか?
自分自身に、問い続けよう。

このエピソードとつながるスピリット

Spirit 1

信頼品質第一

お客様に最高の品質を届けたい

Spirit 2

総智・総力コミュニケーション

互いに深く理解し合いたい

関連エピソード

その他エピソードを読む