DRIVEN BASE

CEO MESSAGE

笑顔あふれる未来の実現のために、
とてつもない熱量を持った
社員一人ひとりがデンソーらしさを体現し、
デンソーだからこそ生み出せる
新しい価値創造を通じて、
人と社会の幸せに貢献する

皆様の支えに心から感謝

昨年度は、ウィズ・コロナの生活が定着する中、徐々に経済活動が回復する一方で、長引く半導体枯渇や物流混乱、それに伴う自動車生産台数の減産など、これまでにない変動対応が求められた1年でした。それでも、何とか供給を続けることができたのは、クルマを1台1台つくってくださるカーメーカ様や、部品を届けてくださる世界中の取引先様のおかげにほかなりません。部品1個つくれない、または届けられなくなると、クルマはつくれません。デンソーはグローバルに事業を展開しているため、一つのロスが世界規模に波及しかねない大きな供給責任を負っています。それゆえ、世界各地にともに支え合う仲間たちがいてくれることのありがたさと心強さを、改めてしみじみと感じる次第です。多くの取引先様に支えられながら、日々モノづくりができていることに、深く感謝したいと思います。

より一層変動に強い会社へ

さらに足元では、エネルギー費の高騰や円安の進展など、Uncontrollable(アンコントローラブル)な要素が重なり、ますます先行き不透明な状況に陥りつつあります。ただ、先が見通せないのは今に始まったことではありません。地政学リスクや自然災害に加え、通信障害やサイバー攻撃など、近年リスクは多様化する一方であり、常に危機に晒され続けている状況です。あるいは、変動が当たり前の世の中になったとも言えるのではないでしょうか。

そうした状況下では、日頃から想定内の範囲をいかに広げておくか、また、いざという時に、Uncontrollable(アンコントローラブル)なことを、いかに早くUnder control(アンダーコントロール)にできるかが問われているのだと思います。当社も、データを活用した予兆把握や有事を想定した初動訓練などの危機管理強化だけでなく、2022年より新たに「変動対応力強化プロジェクト」を立ち上げ、営業や生産管理、調達部門などを中心に、全社横断的なリスク管理強化の取り組みも実施しています。このプロジェクトには海外拠点も参画しており、グローバルに対応できる構えを整えようとしています。また、 サプライチェーンの仲間とも密に連携しながら、いかなる外乱に対しても、経営へのインパクトを柔軟に吸収し、即座にリカバーできるよう、変動対応力のさらなる強化に努めていきます。

デンソーらしいカルチャーを取り戻す

加えて、2019年から取り組んできた経営基盤の再構築も、決して現状に満足することなく活動を続けていきます。品質問題や新型コロナウイルスのパンデミックを契機に、品質基盤の建て直しや財務体質の強化、仕事の進め方の見直しに取り組んできた結果、一人ひとりの意識や行動が変化し、利益や損益分岐点比率など会社業績にも、その成果が着実に表れてきました。そして、「環境・安心」という理念に基づき、自分たちの使命や役割を改めて明確化し、社是にあるように、謙虚な姿勢で「和衷協力誠実事に當る」ことによって、少しずつ体質や風土が変わってきていると思います。

そういう今こそ、改めて気を引き締め、こだわり抜いてやり続けることで、揺るぎない経営基盤を再構築することが極めて重要です。デンソーらしいカルチャーを組織の隅々まで浸透させ、一人ひとりの行動に定着させながら、土壌だけでなく、根っこも幹も強い、しなやかでたくましい会社を目指したいと思います。

カルチャーが会社をより強くする

カルチャーは会社を動かす原動力であり、競争力の源泉です。そのことを、私自身が身をもって経験したのは、20年近く前に社長を務めた、ある海外拠点でした。その会社は、赤字続きで大変厳しい経営状況に陥っており、当初はどうしたものかと頭を抱えたことをよく覚えています。それでも、社員と対話を重ねながら実態をつぶさに把握し、経営課題を浮き彫りにしていく中で、「まだまだ目は死んでいない」「心に火を付ければ、きっと乗り越えられる」ということに気づかされ、まず取り組んだのが、現地流デンソーカルチャーの創出でした。

その際大切にしたのは、デンソー流を踏襲しつつも、決して日本のやり方を押し付けるのではなく、自分たちの意志を込めて、現地流に味付けをすることです。その会社で働く誇りを取り戻し、自分たちの力を信じることを出発点に、一人ひとりにスポットを当てる活動を行い、全員が参画する風土を醸成しながら、会社への帰属意識を高めるよう工夫しました。至極当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、こうした当たり前が知らない間にできなくなっていた、それに気づいた時には会社は危機的状況に陥っていたということが、目に見えないカルチャーの重要性を示唆しているように思います。

また、どんなに厳しい状況下でも、明るい将来を見据え、みんなで夢を語り合うことも大切にしました。日々の地道な活動と並行して、未来の成長シナリオを自ら描き、夢に向かって全社一丸となって取り組み続けた結果、何とか這い上がり、黒字化することができました。利益や品質など経営指標が良くなったことも大きな成果ですが、私にとっては、会社が明るく、前向きなカルチャーへと変革し、社員やその家族に情熱と笑顔が戻ったことが何よりも大きな喜びでした。

抜本的な構造改革には痛みも伴いましたが、当時ともに戦い抜いた仲間たちとは今でも心が通い合っているように感じています。それは、デンソーで働く自分たちが大切にすべきものは何かということを、とことん本音で語り合い、心を込めてつくり上げた唯一無二のカルチャーや価値観で結ばれているからだと思います。また、過去何年も達成できなかったこと、できそうにないと思われていたことを、自分たちの力で実践し、結果が出るまでやり抜いたことが自信となり、“らしさ”や“独自の強み”として、今でも胸に抱き続けているからだと思います。

今改めて大切にしたいデンソーらしさ

今日のデンソーを築き上げてきた過去の幾多のストーリーを振り返ってみて、改めて私が考えるデンソーらしさとは、実践力・実現力であり、何としてでもやり抜くしぶとさと粘り強さです。そして、社会や仲間に対する思いやりや気遣いです。

この実践力や粘り強さは、昨今のコロナ禍での数々の供給危機を通じて、何度も何度も試されてきました。例えば、取引先のピンチの際には、いち早く現場に駆けつけ、デンソーにできることは何でもやる覚悟で事に当たるということが、上からの指示や先方からの要請がなくても“基本行動”として自ら実践できたのは、デンソーらしさの表れと言えるのではないかと思います。ここ数年の間に、変動や危機が続いたことで、デンソーらしいしぶとさや諦めずにやり抜く力の大切さが、改めて強く意識されるとともに、それぞれの持ち場・立場で発揮されることも多かったように感じます。

一方で、思いやりや気遣いについては、コロナ禍によって社会の価値観が大きく変わり、新しいコミュニケーションスタイルや人との接し方が定着した今、改めて問い直す必要があります。この数年間で起きている変化は、そう簡単に元に戻ることのない、不可逆的な変化だと思います。だからこそ、便利さや効率の陰に隠れて失われつつあるものに、私たちは目を向けなければならないとも感じます。例えば、出社して、お互い顔を見ながら会話すれば、自然と気づくことができる表情の微妙な変化や感情の浮き沈みは、在宅勤務の画面越しではなかなか感じ取りにくいのも事実です。また、出社していても、食堂にはパーテーションがあり黙食が徹底され、工場の休憩所でも、ソーシャルディスタンスを保っているため、以前のようにワイワイガヤガヤ談笑する姿は見られなくなりました。

そうした新しい職場環境の中で、仲間のちょっとした変化に気づかなかったり、些細なことを見て見ぬふりをしたり、知らず知らずのうちに、お互い無関心になっているのではないかと懸念しています。

無関心な職場は、私が最も見たくない景色の一つです。たとえどんなに仕事を早く正確にこなしていたとしても、仲間に無関心な組織は、デンソーらしくないどころか、デンソーで働く意味さえないと感じます。絶対に、そんな会社にしたくはありません。デンソーらしさを失わず、健全な職場風土を維持し、活力あふれる会社にしていくために必要なのは、何も特別な施策や画期的な取り組みではなく、一人ひとりのちょっとした気遣いだと思います。それは、挨拶や雑談、ちょっとした声かけなど、誰にでもできることですが、少し面倒で、最近おろそかにしがちなことでもあります。仲間への思いやりや相手の気持ちを察する感度は、働き方が進化しても、メンバーがどれだけ多様化しても、組織の活力には必要不可欠なものです。コロナ禍がもたらした変化に柔軟に適応しつつ、面倒なことにもちゃんと時間をさける温かいチーム、人に対するぬくもりを大切にする会社であり続けたいと思います。

人にしかできないことをデンソーらしく

人との関わり方の変化に加えて、コロナ禍をきっかけに、私たちは改めてテクノロジーの可能性やデジタルの力を思い知りました。以前からずっと言われていたことではありますが、多くの人がテレワークやウェブ会議など身近なテクノロジーに実際に触れることで、機械が想像以上に活躍してくれることやテクノロジーが強力な武器になることを実感しました。

その一方で、人が本来やるべきことは何か、人にしかできないことは何かということも考えさせられました。機械は大量の情報やデータを処理・分析できますが、それを使って何をしたいか、何をすべきかは、人の“意志”次第です。合理的・科学的に導き出されるリーズナブルな着地点ではなく、自分の頭で考え、意志を持って設定した高い目標が、周りをワクワクさせ、仲間の挑戦心を駆り立てるのだと思います。理想を描いたり、未来を想像したり、心躍るような夢を語ったりするのは、人にしかできません。そして、その夢を実現させられるかどうかは、人と組織の熱量の大きさにかかっています。

言うまでもなく、機械は仕事を処理する時、そこに情熱を傾けたり、誰かのために熱くなったりすることはありません。人は、仕事の意義に燃え、色々な人のことを思い浮かべながら、周囲からの期待を熱量・エネルギーに変えて仕事に当たります。それゆえ、苦しい時に誰かに背中を押されたように感じることがあり、時に思わぬ力が出ることもあります。

私は、デンソーを熱量の大きな会社にしたいと常々思っています。機械とは異なり、一人ひとりが社会的使命に燃え、夢を熱く語り合い、仲間のために、社会のために全力を尽くす、そんな燃える集団にしたい。そのための土台づくりと、機会は十分に整っていると感じています。

デンソーらしさを体現し、期待に応え、 社会の役に立つ

今やデンソーは、自分たちが思う以上に、社会において大きな役割を担いつつあります。自動車産業全体の課題が複雑・多様化し、カーボンニュートラルや半導体、農業分野など、当社の活動領域が広がるにつれて、デンソーに対する社会からの見られ方は確実に変化してきています。これはプレッシャーでもありますが、私たちが社会のお役に立てる大きなチャンスです。だからこそ、その期待と責任の大きさを力に変えて、夢の実現のために全力を尽くしたいと思います。

デンソーの夢は、人と社会の幸せに貢献することであり、次世代に笑顔あふれる未来をお届けすることです。今は、先行き不透明で不安定な世の中であり、かつ正解のない時代とも言われています。だからこそ、大きな夢を実現するためには、ぶれない信念と、とてつもない熱量が必要です。私たちにとっては、「最善の品質とサービスを以て社会に奉仕す」といった社是こそが信念です。第二の創業期にある今こそ、創業の精神である社是に立ち返り、自分たちの原点を見つめ直すことが重要であると考えています。

必ず社会の役に立つんだという強い意志と情熱を持った仲間たちが最大の熱源です。自ら考え抜いて実行し、何度失敗してもできるまでやり抜くといった、デンソーらしさを体現することが、会社の熱量をどんどん大きくするのだと思います。

デンソー17万人がとてつもない熱量を持って、全員が“躍動”することによって、デンソーだからこそつくり出せる新しい価値を生み出す。それを、人と社会の幸せのために、しぶとく粘り強く実践し続けていきます。 株主・投資家の皆様におかれましては、引き続き変わらぬご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。

 

2022年9月

代表取締役社長