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CFO MESSAGE

社会課題の解決と事業成長の両立を成し遂げる財務戦略

CFO(Chief Financial Officer) 代表取締役 副社長 松井 靖

2025年中期方針実現に向けた財務戦略

当社は、「環境・安心・共感の実現を通じた社会課題の解決」と「正のエクイティスプレッドの中長期的な拡大」の両立を通じたサステナビリティ経営により、持続的な企業価値の向上を目指しています。資本コストを意識した経営のもと、財務面ではROEを最重要KPIと定めています。

2025年中期方針では、その目標を、当社の株主資本コストの7.0%や、伊藤レポートなど社会から求められる最低水準の8%を上回り、価値創出の最大化を目指す想いから、10%“超” と掲げました。

CFOとして、1.収益体質の強化、2.低収益資産の圧縮、3.資本構成の改善、4.市場との対話、という4つの柱を持つ財務戦略を力強く推進することで、この目標を実現させます。

外部環境の変動を乗り越え、さらなる企業価値創造へ

2022年度は、コロナ禍からの市場回復の一方で、半導体不足の長期化による車両減産や、電子部品を中心とした部材費・物流費・エネルギー費の高騰など、外部環境の悪化影響を大きく受けました。このような事業環境の中、電動化や先進安全などの注力領域の拡販や、生産性向上などの合理化だけでなく、外部環境の悪化を打ち返す変動対応力の強化にも率先して取り組むことで、売上収益は6兆4,013億円(前年度比16.1%増)、営業利益は4,261億円(前年度比24.9%増)と増収・増益、ともに過去最高となりました。

2023年度は、半導体不足は徐々に解消に向かう一方、インフレなどの厳しい外部環境は継続すると見込まれます。このような環境下でも、魅力ある製品の開発や拡販、規律を持った固定費の抑制、一層の変動対応力の強化により、2年連続の過去最高益に挑みます。

ROEにおいても、2022年度は、株主資本コストを上回る7.3%(前年度比プラス0.9ポイント)、2023年度はさらなる収益力強化により9.3%を見込み、2025年度の目標達成に向け、順調に進捗しています(2023年度第1四半期決算公表時点)。

2025年中期方針においては、カーボンニュートラルと交通事故死亡者ゼロという“究極のゼロ”の実現で、社会価値を創出することも宣言しました。

ここからは、社会課題の解決と事業成長の両立に向けた具体的な取り組みを、財務戦略の4つの柱に沿って説明します。

1. 収益体質の強化: 理念実現を主軸に据えた事業運営

(1)企業価値向上に向けたROIC経営の進化

当社のROIC経営は、短期的な財務指標向上の手段ではなく、中長期での企業価値向上を目的としています。

ROICツリーの社内展開や、定期教育、グローバル社内報での改善事例紹介など、多角的で継続的な啓蒙活動により、社員一人ひとりに指標の意義を浸透させることで、持続的なROIC経営を実践しています。導入以来、様々な現場で改善事例が生まれており、社員一人ひとりの活動の積み重ねが、全社のROICを着実に引き上げていると実感します。

また、2022年度からは、取締役の業績連動報酬の基準にROICを追加し、さらに2023年度からは目標開示も行うことで、経営トップの意識とコミットメントもより強固にしています。

ROIC経営の導入から約2年が経ち、幅広い層での浸透が進んでいますが、今後もさらに磨きをかけていきます。

(2) 理念と事業成長を両立する事業ポートフォリオの入れ替え

① 変わりゆく社会課題に対応し持続的な成長を

当社は、環境・安心の社会価値を創出し、ステークホルダーから共感を得ることが持続的な競争力につながると考えています。社会から求められる価値が変わりゆく中で、持続的な社会価値の創出と事業成長を両立させるべく、「理念の実現」「成長性」「収益性(ROIC)」の観点で、不断の事業ポートフォリオ入れ替えを行います。

この考え方に基づき、内燃機関を中心とした環境負荷の高い製品は縮小し、そこで捻出したリソーセスを電動化や先進安全といった成長領域のほか、新しい価値を創出する新事業に投入し、持続的な成長と高い収益性を実現させます。

② 電動車普及を通じたカーボンニュートラルの実現

当社はこれまで、技術開発やグローバル生産体制などを他社に先駆けて確立し、車両の電動化に貢献してきました。グローバルでの環境意識の高まりとともに、車両の電動化が加速し、お客様のニーズも多様化する中、幅広い製品ラインナップと提案力を持つ当社への期待は高まっています。

電動化の主力製品の一つであるインバータは、すでに量産を開始している北米・中国に続き、2023年度は欧州での生産も予定しており、2025年度1,200万台/年の目標に向け、着実な拡販と生産能力の強化を遂行します。

開発面では、BEVの電力消費を大幅に低減させるSiCパワー半導体を用いたインバータ(以下、SiCインバータ)の市場投入を開始し、LEXUS初のBEV専用モデル、LEXUS新型「RZ」に搭載されました。当製品は、従来のシリコン半導体を用いたインバータと比較し、電力損失を半減以下にさせ、BEVの航続距離向上を支えています。

BEV化の進展でSiCインバータが注目度を増す中、当社は、 BEVの高電圧化に対応したトレンチMOS構造と呼ばれる半導体構造と、エンジン冷却などで培った両面冷却という独自技術により、出力・コストの両面で、競争力を強固にしています。

また、安全・高効率な電源制御により航続距離を向上させるバッテリーマネジメントシステムや、廃熱活用や電池の温度調節により、従来比約2割増の航続距離を生み出す熱マネジメント製品など、電気・熱のエネルギーマネジメント技術を併せ持っています。これらの各製品に加え、自社のECUを用いたシステム全体での制御により、環境負荷の少ない高効率な電動化を実現できることが、総合システムサプライヤーとしての当社最大の強みとなります。

当社の幅広い保有技術を結集し、クルマの電動化の普及に貢献することで、カーボンニュートラルを実現していきます。

③ 交通事故死亡者ゼロを成し遂げる先進安全技術開発

先進安全分野においても、事故カバー率を大きく向上させた運転支援システム「Global Safety Package 3」(以下、GSP3)の量産が本格化するなど、グローバルな拡販、安全価値の提供が順調に進展しています。

GSP3では、強みとするセンシングと画像認識の技術を組み合わせ、より広範囲のデータを検知、高速処理をすることで、多様な事故シーン対応を実現しています。こうした機能向上は、安心価値を拡大させる高付加価値製品としてお客様からも高い評価をいただき、収益性も大きく改善しています。

さらに、次世代技術の開発にも着手しています。車両全周囲までカバー範囲を拡張することで、2025年には交通死亡事故シーンのカバー率を56%まで向上させる目途が付いています。

残る44%に対しては、自社の取り組みに加え、関係省庁やカーメーカ、関連業界と連携した人・クルマ・交通環境の三位一体での対策が必要です。クルマから見えない死角の危険を認識するインフラ協調システムや、当社の強みであるHMI技術を用いた運転者の状態、技量・傾向などの挙動まで踏み込み、一段高いレベルの安全技術の開発を進めています。

当社は、最先端技術を組み合わせた安全製品の進化を通じて、交通事故死亡者のいない、自由な移動の実現に貢献します。

④ 成長を加速させるキーデバイス、半導体戦略

クルマの電動化・知能化が進む中、半導体はその機能向上を担うキーデバイスとして重要性が高まっており、半導体の技術進化と安定調達・供給は不可欠です。

当社は車載半導体領域で50年以上の経験を持ち、クルマと半導体の双方を熟知する立場から、先端技術開発から生産体制までを一貫して強化し、業界全体への貢献を目指しています。

開発面では、研究開発子会社の株式会社ミライズテクノロジーズでGaN(窒化ガリウム)半導体などの先端技術開発を推進しています。また、先端半導体の国産化に向け設立されたRapidus株式会社にも出資することで、微細化技術を追求し、 2nm以下の次世代半導体の開発を加速しています。

調達面では、安定調達に向け、調達リスクのある部品の代替品切り替えやサプライヤー様との長期確定発注契約の締結などの対応を行っています。半導体全体の需給逼迫は解消しつつありますが、需要が旺盛な車載半導体においては依然懸念が残ります。より良いクルマを社会に1台でも多く届けるため、さらなる調達基盤の盤石化を進めていきます。

生産・供給面では、自社工場や子会社での生産体制強化のほか、ユナイテッド・セミコンダクター・ジャパン株式会社と協業した300mmウエハでのパワー半導体量産の開始や、TSMC子会社のJapan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社への出資などのパートナーとの連携で、さらなる安定供給体制を確保しています。

加えて、SiCパワー半導体の製造面での強化として、ガス法と呼ばれる独自のウエハの製造技術で、CO2排出量は現行比約9割低減しながらコストを3割抑制する見込みです。

裾野が広い半導体分野においては、内製強化に加え、競争力のあるパートナーとの戦略的な連携も活用していきます。

⑤ 業界全体の競争力を引き上げる事業総仕上げ

最適な事業ポートフォリオを実現するためには、注力領域の成長と並行し、成熟事業の縮小や撤退を行うことも重要です。

縮小や撤退は、短期的には痛みも伴いますが、次の成長と業界全体の競争力向上へ貢献する“総仕上げ”として、全社一丸となり敢行しています。

具体的には、当社事業を85個の製品群に細分化し、「理念の実現」「成長性」「収益性(ROIC)」の3つの判断軸で、各製品群の方向性を年に一度判断しています。

こうした検討を経て、2022年度までのフューエルポンプモジュールやⅢ型オルタネータに加え、2023年度にも複数の譲渡案件を予定しています。その一つが日本特殊陶業株式会社と基本合意したスパークプラグおよび排気センサ事業の譲渡です。これらは当社の成長を支えた内燃機関におけるコア製品であり、足元でも収益に貢献していますが、より一層成長し、理念を実現していく意思を込め、ベストオーナーへ引き継ぐことを決断しました。

第三者に譲渡した事業においても、当該製品で培った要素技術・ノウハウは、当社の次なる成長領域で活用し、新たな企業価値創出の礎にしていきます。

事業ポートフォリオの入れ替えと併せて、各地域の生産供給体制最適化に向けた構造改革も行っています。北米地域では、生産コストが低いメキシコ子会社の活用や工場集約、アジア地域では韓国子会社の清算など、子会社の統廃合を進めています。

事業の総仕上げや生産供給体制の最適化により原資を捻出し、成長領域へリソーセスを大胆にシフトさせていきます。

⑥ 社会の流れをつなぎ、新たな価値を創造する

当社は、2035年に想定される社会課題を2050年のメガトレンドを起点にバックキャストで検討し、「人流」「物流」「エネルギー流」「資源流」「データ流」という5つの流れを活性化し、さらにその流れをつなぐことで、社会に価値を提供し、幸福循環社会を実現することを宣言しました。モビリティ事業で培った強みを活かし、提供価値を社会全体へ広げる新事業で、新たな社会課題の解決と価値の創出も追求していきます。

(3)外部環境変化・リスクへの柔軟な対応

事業ポートフォリオの入れ替えによる成長の実現と並行して、リスクに柔軟に対応できる収益体質への変革も進めています。

2022年度は変動対応力の強化に取り組んだ1年でした。電子部品を中心とした部材費・物流費・エネルギー費の高騰をはじめとする外部環境変化に伴う費用増に対し、「費用低減」と「お客様との取引価格への費用反映」により、収益悪化影響▲1,790億円のほぼ全額を挽回することができました。

2023年度は、インフレや人財逼迫に伴う昇給も含めた「人への投資」の加速などを背景に、悪化影響は平時比で▲2,180億円を見込みますが、費用低減・価格反映の双方をより一層強化し、収益悪化の全額挽回に取り組みます。

また当社は、収益悪化の挽回を通じて、サプライチェーン全体での適正な価格反映ルール確立にも取り組み、「自動車業界の競争力向上」と「経済循環の実現」に貢献していきます。

まず、サプライヤーの部材値上げやエネルギー費・昇給などの影響に対して真摯に向き合い、増加費用をお支払いします。その上で、データやエビデンスを持って、カーメーカに丁寧にご説明し、取引価格に反映いただいています。エンドユーザーも含めて、適正な価格反映による「正の循環」をつくり上げていきます。

また、足元の環境悪化に対する収益挽回を主目的とした変動対応力強化だけでなく、中長期の事業環境変化に対するビジネスモデルの変革にも着手し、進行しています。代表例としては、ソフトウェア開発が大規模化する中、その費用を開発の段階でお客様からお支払いいただくというものがあります。これは、単に時期を早めるだけでなく、従来のハードで実現される有形の価値に加え、ソフトウェア開発で創出した無形の価値を明確に認めていただくという大きな変化だと考えています。

このように、最先端の技術力でお客様に「価値の提供」をするとともに、それを正しく認めていただく「価値の訴求」に注力し、競争力を高めていきます。

(4) 将来への成長を促す戦略的投入

① 設備投資・研究開発、抑制と成長の両立

モノづくりと研究開発を強みとする当社にとって、設備投資と研究開発は、将来への重要な先行投入です。両分野における投入も、近年大きく変化させています。

環境変化が激しい中での先行投入は、コアとなる強みの確立による成長加速と、外部環境の変動リスクも踏まえた固定費抑制という2つの観点が必要です。

設備投資は、5年前を振り返れば、内燃機関向け設備も含め、減価償却費を大きく上回る投資を行っていました。しかしながら、ROIC経営が浸透し事業ポートフォリオ入れ替えが進む中、注力領域で積極的な投資を進めながら、内燃機関向けの投資は抑えることで、直近では減価償却費同等の3,500億円程度まで抑制しています。中長期での固定費抑制の観点で、現状水準を維持しながら、効率の良い投資判断を進めていきます。

研究開発費は、外部環境が厳しい中でも、削減することなく強化を続けてきました。特に次世代ADAS領域をはじめとするソフトウェア開発に注力投資し、現在では総額の5割以上を占めます。AIを含めたDXによる効率化や、先に述べたビジネスモデルの変革を通じた収益性向上にも取り組んでいます。

研究開発費は、当社の競争力の源泉として今後も強化しますが、並行して進める効率化とビジネスモデルの変革の加速により、 4,500億円(回収含む)を目線とし、競争力を向上させていきます。

② パートナー連携強化による成長の加速

自社にとってのコア技術は内製強化をする一方で、環境変化が激しく、ニーズが複雑化する中では、専門性とスピードの両面から、パートナーとの連携が欠かせません。

当社は、「電動化」「ADAS」「ソフトウェア」「半導体」「新事業」を重点領域と定め、各領域で全社横断タスクフォースチームを編成し、領域別の戦略検討を強化しています。各重点領域では、従来からパートナー連携を実施してきましたが、戦略実現に必要な手段となる連携先候補を早くから絞り込むことで、機を逸することのないパートナー連携を強化していきます。

2. 低収益資産の圧縮: 適正水準を見極め、縮減を力強く推進し、資産効率を向上

保有資産を効率的に運用するため、資産の性質に応じて適正な水準を見極め、さらなる縮減を進めます。

(1)手元資金の圧縮

手元資金については、事業運営に必要な資金(平時事業資金)の最小化やグローバルキャッシュマネジメントシステム(以下、 GCMS)を通じた地域ごとの資金偏在の解消を進めてきました。 2022年度の手元資金水準は、日々の資金管理精度を高めることで、平時事業資金および有事に備えた待機資金を合わせ、 2025年度の目標水準である月商比1.0カ月*を概ね達成しています。引き続き、成長局面においても効率的な資金活用を継続していきます。

* GCMSにおける資金は、財務諸表上、貸付会社では預金、借入会社では借入と扱われることで、両建てでの計上となりますが、実質手元資金はGCMSの影響を除いた数値を用いています。

(2)政策保有株式の縮減

当社保有分のみならず、子会社が保有する上場株式も縮減検討の範囲と定め、コーポレートガバナンス・コードの対象を超えて、着実に縮減を進めています。2022年度は、一部売却を含めると、7銘柄を442億円で売却し、2018年度末からの4年間で44銘柄から21銘柄まで半減しました。今後もさらなる縮減を力強く推進し、創出したキャッシュを成長戦略上必要な投資につなげることで企業価値を創造していきます。

(3)在庫の適正化

当社の在庫には、(ⅰ)物流混乱などの外的要因による「一時在庫」、(ⅱ)将来の自然災害や様々なリスクに備え確保する「戦略在庫」、および(ⅲ)平時の生産活動のために保有している「通常在庫」の3種類があり、それらを可視化しています。

2022年度の在庫金額は、お客様への安定供給のため一時在庫と戦略在庫の確保に努めた結果、1.1兆円水準となりました。2023年度はグローバルで連携した体質強化活動に加え、足元の半導体不足や物流混乱の緩和を受けてタイムリーに在庫基準を見直し一時在庫をゼロにした上で、0.9兆円水準に向けて体質強化活動を推進していきます。

今後も、適正水準化に向けた課題を早期に把握し、全社一丸となって活動を推進することで、盤石な経営基盤の構築を進めます。

3. 資本構成の改善:調達基盤の拡充と積極的な株主還元により目指す資本構成を実現

安全性と効率性のバランスを確保した上で、資本コストを低減し企業価値を創造すべく、借入の活用や調達多様化、積極的な株主還元を通じ、資本構成を改善していきます。

2025年度の目標である株主資本比率50%以上は、経済危機においても、資金調達可能とされる格付を維持できる水準です。

(1)借入の活用、調達多様化

将来の大規模投資に備え、銀行借入と国内の社債市場に加え、海外の社債市場を活用した外貨での調達を実施するなど、調達手段の多様化を進めています。幅広い投資家から多額の資金調達を可能とし、今後の成長領域や新事業への投資、M&A・アライアンスなどに向けた安定的な資金調達基盤を維持していきます。

加えて、サステナビリティボンド(社債)などを継続的に活用し、創業以来実践してきたサステナビリティ経営を軸として、環境・社会課題解決を一層加速させていきます。

今後も現在の高い財務安全性を維持しながら、借入・社債を積極活用することで、資本効率の向上を図ります。

(2)株主還元政策

配当(インカムゲイン)および株価上昇(キャピタルゲイン)により、株主資本コストを上回るTSR*を長期安定的に実現し、向上させることを目指しています。

配当は、DOE(株主資本配当率:配当額÷株主資本)3.0%からの継続的向上を方針とし、2022年度は前年度比+0.1ポイントとなる3.2%としました。また、自己株式の取得に関しても、長期的な事業計画に基づき、目指す資本構成・理論株価との比較から取得規模を検討し、2022年度は、前年度比25億円の増額となる1,000億円としました。今後も、規模を強化しながら、より機動的な自己株式の取得を実行していきます。

当社は、こうした長期安定的な株主還元強化の取り組みを通じて、株主資本コストを上回るTSRを実現するとともに、資本の増加を抑え、企業価値を向上させます。

(3)キャッシュ・アロケーション

当社は、ROIC経営を通じて、収益体質を着実に強化してきました。その結果、キャッシュ創出においてはコロナ禍や半導体不足など外部環境が悪化する中でも、2020年度から2022年度までの3年間で累計2.9兆円の営業キャッシュフロー(研究開発費を含む)を創出しています。2023年度からの3年間では、さらなる事業ポートフォリオの入れ替えと低収益資産の圧縮を通じ、4.5兆円以上のキャッシュ創出を目指します。

一方投入面では、設備投資は案件の精査により投入効率を向上させ、減価償却費同等の水準で規律を持ってコントロールしていきます。研究開発費は、製品のソフトウェアリッチ化が進む中、ADASを中心としたソフトウェア開発を強化していきます。

また、自社内製に加えM&A・アライアンスといった成長投資も同様に、2025年に向けて事業成長や理念実現に不可欠と判断するものは、時には規模の大きいものでも借入を活用し機動的に実行することで、事業成長と資本構成の改善を図っていきます。

株主還元については、継続的な配当水準の向上と機動的な自己株式の取得により、長期安定的に強化していきます。

これらの活動を通じ、ROEを極大化し持続的な企業価値の向上に邁進します。

4. 市場との対話: 長年培った非財務資本の発信拡大と価値訴求

投資家やアナリストの皆様への適時・適切な情報発信と、役員参画の対話を進めることで、市場との情報の非対称性を縮小し、株主資本コストの低減によるエクイティスプレッドの拡大を目指します。

2022年度もコロナ禍で対話が制限される中でしたが、オンライン面談などを活用し前年度の約1.5倍となる延べ約1,500社と対話機会を得ました。いただいたご意見は社内公式会議体でフィードバックし、「DENSO DIALOG DAY 2022」や「半導体戦略説明会」に反映するなど、皆様のご理解を深めていただけるよう取り組んでいます。

また当社は、加速するESG投資の潮流を踏まえ、サステナビリティ経営を軸としたESG視点での取り組みを強化しています。これらの取り組みは、中長期での事業リスク低減のみならず、事業機会の拡大にもつながります。

例を挙げると、人的資本や知的資本など「非財務資本」への注目が高まる中、当社は「ヒトづくり」や「研究開発」といった無形資産への投資を企業成長に直結する将来投資と位置付け、早くから実行してきました。当社が常に時流に先んじた価値を提供し続けているのは、無形資産への投資成果が一端を担っていることは疑いようがありません。非財務資本は中長期の競争優位性を確かなものにするキーファクターであるとの認識のもと、将来を見据え投資を強化します。

加えて、ESG情報の発信は将来性への不確実性を解消し、株主資本コストの低減につながると考えています。非財務資本の投資成果を定量化し、企業価値への貢献を示すことは、当社の将来性を正しく評価していただくために重要です。「統合報告書2023」では、その一歩として非財務資本と財務価値の関係性を整理し、それを軸とした各資本戦略をご紹介しています。

2022年度は、当社のIR活動を高く評価していただき、「証券アナリストによるディスクロージャー優良企業選定」の自動車・ 同部品・タイヤ部門において、第2位に選定していただきました。さらに、「統合報告書2022」は、「WICIジャパン 統合リポート・アウォード2022」においてSilver Awardを2年連続で受賞するなど、複数機関から高く評価されています。

また、統合報告書を積極的に社内活用することで、社員の企業価値意識の向上に取り組んでいます。今後も、市場との対話でいただいたご意見を、経営の質の向上につなげていきます。

TOPIC: 投資しやすい環境整備

当社は、2023年9月30日を基準日として、株式1株につき4株の割合で株式分割を実施することとしました。株式を分割することで、最低投資金額を引き下げ、より多くの方々が当社株式に投資しやすい環境整備を進めていきます。

最後に

ここ数年は、新型コロナウイルス感染症や半導体不足、世界的な資源価格の高騰など、外部環境の悪化と向き合い続けてきた日々でした。しかし私は、このような逆境の中で自分たちが成すべきことを真摯に為すことで、デンソーが時流に先んじた価値を生み出す組織になると考えています。そのような想いでグローバル一丸での体質強化を進めた結果、2022年度は5年ぶりに過去最高益を更新することができました。

今後も、企業価値を創造し続けるために、ぶれることなく攻めの姿勢で財務戦略を推進します。また、CASE領域や新事業の成長などをドライバーとして、成熟事業の総仕上げをやり切り、さらなる企業価値の創造を加速していくことをお約束します。これらを実行することで、より一段飛躍したデンソーの姿をお見せできると確信しています。どうぞご期待ください。