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デンソー、疑似量子技術「DENSO Mk-D」を開発、世界で初めて500万変数規模の実問題に対応

~大規模かつ複雑な社会課題の解決に向けて~

2023年9月21日

株式会社デンソー(本社:愛知県刈谷市、社長:林 新之助、以下、デンソー)は、量子コンピュータの仕組みに着想を得た独自の疑似量子技術「DENSO Mk-D(デンソー マークディー)」*1を開発しました。さらに、従来の疑似量子技術では100万変数規模の問題に対応するのが限界とされる中、世界で初めて500万変数規模*2の実問題*3が解けることを確認しました。

量子コンピュータは、次世代の計算技術として注目されているものの、単体で使用するにはまだ理論的な性能を実現できておらず、実用化が難しい技術です。そこで現在では、量子コンピュータの有用性を引き出すために有効とされる、量子コンピュータと従来のコンピュータ(以下、古典コンピュータ)を用いた量子古典ハイブリッドコンピューティングの開発がさまざまな企業や研究機関などで進められており、デンソーも本開発に取り組んでいます。

この量子古典ハイブリッドコンピューティングの性能を高めるためには、古典コンピュータの計算規模の大規模化が必須であり、そのためには量子コンピュータとの相性が良い疑似量子技術が重要です。疑似量子技術では、組み合わせ最適化問題をイジングモデル*4と呼ばれる表現方法に変換し、その変換した情報を参照しながら、解の方向性を探索し最適解を求めます。デンソーが開発した疑似量子技術 DENSO Mk-Dは、これまでのものとは異なり、イジングモデルに変換した情報を必要最小限まで圧縮し、参照する情報を小さくすることで、大規模な問題においても高速演算が可能になっています。

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今回、デンソーの納入中継地*5における実際の物流データを最適化計算の題材として使用し、DENSO Mk-Dにてトラック配送スケジュールの立案に取り組みました。具体的には、1日当たりのトラック台数や配送ルート数のほか、ドライバーの休憩時間や荷役作業時間、配送における時間制限などの制約条件を考慮する必要があり、超大規模な500万変数規模の実問題となります。これをDENSO Mk-Dにて最適化計算を行い、通常1日77台のトラックを使用しているところ、58台に削減(25%削減)可能な配送スケジュールを6分間という短時間で立案できることを確認しました。
この結果は、疑似量子技術にて超大規模な実問題が解けることを示した世界で初めての事例となります。また6分間という計算速度についても、従来の数理最適化技術*6と比較して、およそ500倍以上の計算速度であることを確認しました。

社会には物流だけでなく、大規模かつ複雑な課題が多数存在しており、規模が大きくなるほどに組み合わせの数が膨大になるため、従来の数理最適化技術では対応しきれなくなると予想されています。このような課題に対し、最適化問題の解決に有効とされる量子古典ハイブリッドコンピューティングや、疑似量子技術の活用が期待されています。

今後もデンソーは、これらの技術を通じて社会課題の解決に向けて取り組むとともに、将来的には課題に直面する様々な企業や研究機関などとの連携も視野に入れながら、研究開発をさらに進めていきます。


*1 DENSO Mk-Dは、デンソー独自の疑似量子技術の名称です。
*2 実問題ではない架空のデータを用いた問題では、1200万変数での動作を確認済み。
*3 実問題とは、架空の問題ではなく実際の環境で起こっている問題のこと。今回はデンソー最大の納入中継地におけるトラック配送スケジュールを実問題として使用。
*4物理学の「スピン」を用いた統計力学で最も基本的なモデルのひとつ。
*5 デンソーの各工場から取引先へ納入する製品を集め、工場や納場、その他要望に沿って仕分けを行い、配送を行う物流センター。
*6古典コンピュータのCPU上などで、一般的に入手可能な最適化ソフトウェアを用いて最適解を求める技術。