デンソーの電動化製品が TOYOTA新型「bZ4X」に採用
~世界トップの出力密度を誇るインバーターと電池マネジメント製品を新たに開発~
株式会社デンソー(本社:愛知県刈谷市、社長:林 新之助、以下、デンソー)は、電気自動車の電費性能や動力性能の向上、充電時間の短縮など、実用性向上に貢献する新たな電動化製品を開発しました。対象となる製品は、株式会社BluE Nexus(本社:愛知県安城市、取締役社長:内山 秀俊)の新型eAxleに搭載されるインバーター、および電池のマネジメントを担うセル監視回路(電池の電圧・温度の計測)・シャント電流センサー(電流の計測)の3製品です。これらの製品は、TOYOTA新型「bZ4X」に搭載されます。
新型bZ4Xに搭載される主な新製品
■インバーター
BEV*1やPHEV*2の心臓部ともいえるインバーターは、動力源であるモーターを駆動するために、電池からの直流電流を交流電流へ変換する重要な役割を担っています。航続距離の延伸と走行性能の向上を両立させ、さらに車室内空間確保のための自由な搭載ニーズに応えるため、インバーターは体格を抑えつつ、電力損失や発熱を抑制し、大電流に対応する性能が求められています。
このような技術課題に対応するため、デンソーはこのたび、得意とする両面冷却技術をベースに、冷却設計やパワー半導体などの強みを融合させた新たな平置き両面冷却構造のインバーターを開発しました。SiC(シリコンカーバイド)パワー半導体やその周辺回路・構造設計、高冷却技術などの各要素技術をさらに進化させるとともに、それらを最適に組み合わせる統合技術により、体格を抑えながらも飛躍的な高効率化を達成し、世界最高の出力密度*3(体積(L)あたりの出力(kW))を実現しています。インバーターの電力損失は、Si(シリコン)を採用した当社従来製品と比較して、約70%低減しました。また、主に半導体と冷却水路で構成される本製品の中核を担うコアモジュールにおいては、約30%の小型化を達成しています。
当製品の技術進化により、BEVの航続距離の延伸と走行性能の向上に貢献しています。
<インバーター 開発のポイント>
SiCパワー半導体
デンソー独自の3次元構造技術を採用し、世界最小のオン抵抗値*4を持つパワー半導体を開発。インバーターのさらなる低損失を実現。
素子を活かす駆動技術
樹脂絶縁基板と通電経路の工夫により、当社従来製品比でインダクタンス*5を約50%低減。これにより可能となる高速駆動によって、パワー半導体の性能を最大限に引き出すことを実現。
高冷却技術
カーエアコンやエンジン冷却で培った熱マネジメント技術を応用して、楕円型ピンフィンを用いた放熱形状を最適化し、市場トレンド比で約40%優れた冷却性能を達成。さらに、デンソー独自の両面冷却技術を組み合わせることでパワーカードの平置き配置を可能にし、中核部品であるコアモジュールの小型化と大電流対応の両立を実現。
統合技術による最適化
両面冷却の流量バランスや冷却性能に応じた素子の配置など、上記の各要素技術を最適に融合することで、低損失と高冷却性能の効果を最大限に発揮し、世界最高の出力密度を実現。
■電池マネジメント製品
BEVやPHEVにおいては、電池の電圧・電流などを計測し充放電制御を行うことで、電池を安全かつ安定的に、長寿命化を図りながら使用することが求められています。さらに、BEVの航続距離拡大のニーズに対応し、電池セル数の増加が進む中、コストを抑制しながら高電圧・大電流を精度よく検出できる、効率的なモニタリング技術の重要性が高まっています。
こうした背景を踏まえ、デンソーはこのたび、独自の半導体技術を活用した新ICの創出や、材料特性の精緻な検証を踏まえた検出精度をさらに高める技術開発を推進し、新たなセル監視回路とシャント電流センサーを開発しました。これにより、監視回路数を低減してコストを抑えながら、電池や電流の状態をより高精度に計測することが可能となり、BEVの充電時間短縮にも貢献しています。
<セル監視回路 開発のポイント>
28chセル電圧監視IC
デンソー独自の高耐圧半導体技術を活用し、世界初となる28chセル電圧監視ICを開発。高精度な電池監視を実現するとともに、従来技術を採用した場合と比較してセル監視回路の搭載数を20%削減することを達成。
回路全体の最適化
監視IC周辺回路にかかるノイズストレスの定量化技術と、監視ICおよび基板設計の最適化ノウハウを活用することで、過電圧・ノイズ対策部品を削減。これらにより、電池の安全な使用、寿命延長およびコストダウンの両立を達成。
<シャント電流センサー 開発のポイント>
シャント抵抗*6
電流監視においてシャント抵抗方式を採用し、高精度な電流検出を実現。
補正技術
シャント抵抗は、その周辺温度や銅との溶接に起因する個体差により抵抗値にばらつきが生じるため、補正が必要。これに対応するため、シャント抵抗材料の特性検証を実施し、ばらつきが発生する温度特性範囲を明確化。さらに、デンソー独自の補正技術・ノウハウを応用することで、最小限の温度データのみで多点補正と同等の精度向上を可能とする新たな補正ロジックを開発。これらにより、コストを抑えながら従来製品比で検出誤差を半減し、BEVの充電時間短縮に貢献。
デンソーは今後も、幅広い領域における要素技術開発を推進するとともに、それぞれの技術の強みを最適に融合させる総合力を活かし、電動化製品のさらなる価値創出に取り組んでまいります。そして、これらの製品を通じて電気自動車の実用性向上に貢献し、普及を後押しすることで、カーボンニュートラル社会の早期実現を目指してまいります。
*1BEV: ガソリンを使わず電気のみを使って走る電気自動車のこと
*2PHEV: 近距離移動ではBEVと同様にガソリンを使わず、電気のみで走行することができるプラグインハイブリッド車のこと
*3世界最高の出力密度: 同一仕様で比較した場合(25年1月時点、自社調べ)
*4オン抵抗値: トランジスタが「オン(導通状態)」になったときに、電流が流れる経路に生じる内部抵抗のこと。特にMOSFETなどのスイッチング素子では重要な指標。オン抵抗が低いほど電力損失が少なく、高効率な電力変換が可能。
*5インダクタンス: コイルなどにおいて電流の変化が誘導起電力となって現れる性質。インダクタンスが低いと、回路の効率性や応答性を向上させ、スイッチング損失を低減するなどの利点がある。
*6シャント抵抗: 電流を測定するために使用される抵抗器で、主に電流検出回路で利用される。シャント抵抗に電流が流れることで微小な電圧が発生し、その電圧を測定することで電流を高精度に検出できる。車両のシステム電流経路(銅製)を兼ねるため、銅との溶接部を備える。
<製品写真>